ジェレミー・ハンターさんと
マインドを見つめ直すお茶の話
<前編>

ジェレミー・ハンターさんと
マインドを見つめ直すお茶の話
<前編>

2019.10.18

お茶を通して考える「意識の向け方」

アメリカのクレアモント大学院大学 P.Fドラッカー経営大学院で准教授を務めるジェレミー・ハンターさんは、セルフマネジメントという分野の研究と実践の第一人者だ。「ドラッカー・スクール」として知られる同校は、経営学の大家ピーター・F・ドラッカーの思想や姿勢が色濃く反映された有名ビジネススクール。ビジネスプロフェッショナルの間で人気の教授であるジェレミーさんは、大の日本通でもあり、その考え方には日本のお茶文化が影響しているという。静岡県両河内の「天空の茶園」と呼ばれる豊好園でジェレミーさんの研究分野について聞くと、お茶の奥深さに気付かされることとなった。

標高350m、山里を見下ろす豊好園の見晴台の上で、きれいな所作でお茶を点てるジェレミーさん。抹茶に氷を入れてアイスで飲むのが一番のお気に入りで、「喉の渇きを潤すにはビールよりもいい」と話す。友人から作法を教えてもらい、家庭で緑茶を焙じてほうじ茶をつくることもあると言う。「家の中が素晴らしい香りでいっぱいになるんです」

お茶に魅了されたきっかけは建築に興味があった10代の頃、アメリカの有名建築家フランク・ロイド・ライトが岡倉天心の『茶の本』に影響を受けていたと知ったことだった。

「日本に魅了されたフランク・ロイド・ライトは、日本文化に強い影響を受けたアメリカ式建築を生み出したんです。『茶の本』が指摘するのは、建物の本質というのは壁ではなくて、その中にある空間だということです。どんな見た目の建物かではなく、その中にある空間が大事だということは、フランク・ロイド・ライトにも共通する考え方なのです。この“空間”というのは私たち人間に対する比喩とも考えられます。お茶をするという行為が、自身を満たして向上させるということにつながるではないか。このことに心を掴まれました」

ジェレミーさんのお宅のキッチンには小さなお茶スペースがあり、谷村丹後氏の茶筅や大谷哲也氏の磁器作品、メキシコのハンドメイドグラスなどが揃えられ、特に忙しい日に抹茶を点てて飲むということをしているという。それがセルフマネジメントやマインドフルといった研究分野にどのように関わってくるかを教えてもらった。

「茶碗をどこに置くか、お湯をどう入れて、お茶をどう点ててどう出すかという、型に則ってお茶をいただいています。一つ一つの動作に注意を行き渡らせて行なうと、全てが流れるような動きになっていきます。一日を始めるにあたって、とても心が落ち着く儀式のようなものです」

「私の師はフロー理論を提唱した人(世界的な認知心理学者ミハイ・チクセントミハイ氏)で、『フロー』というのは、何かに深く没入し集中することで全てのものと一体になったような感じがすることをいいます。自分がなくなったような感じになる。そういう状態になるためには、自分にとっての“チャレンジ”を要するというか、自分に負荷をかける必要があります。茶道の話をしましたけれど、私は、それが自分にとってのチャレンジのつくり方なのだと考えています。ルール自体はどんなものでもよくて、型があるということが大事なのです。なので、私は自分の型をつくって、キッチンで実践しているのです。ルールは意識の向け方をガイドする役割があります。『フロー』と『マインドフルネス』は意識の向け方という点で共通点があります。」

ジェレミーさんの研究に共通していることが「意識を向けること」の重要性で、近年よく聞かれる「マインドフル」という状態は、今、自分の経験や感情がどのような状態であるかを理解し、そのありように意識を向けている状態のことをいう。その逆に「マインドレス」とは意識の行き先が定まらず、自分がたった今経験していることや感じていることの状態に意識が向いていない、いわば自動で動くロボットのような状態ということだ。ロボットでいる状態が危険なのは、パターンに依存して、自分で意識的に自分の人生を作っていない状態になる可能性があることです。

「自分の意識を高める一番シンプルな方法として、瞑想がありますが、瞑想と聞くと敬遠される方もいると思います。代わりに、日常の中で誰でも自然にできるような方法を私は勧めています。朝の少しの時間を使って、(お茶を通じて)自分の意識を高めるということをしているんです」

フロー、マインド、意識の力、瞑想、お茶……これらのキーワードが21世紀の今、改めて注目を集める理由とは。ジェレミーさんとのお話は後編につづきます。

【ジェレミー・ハンター】クレアモント大学院大学 P.Fドラッカー経営大学院 准教授、同大学院 Executive Mind Leadership Institute 創始者、日本におけるコンサルティング会社Transform共同創設者。セルフ・マネジーメント理論研究の第一人者で、“人生の豊かさ(Well-being)”と“仕事のパフォーマンス最大化”について教えている。企業、公的機関含め多数のコンサルティング実績を持つ。日本にもゆかりがあり、日本のお茶文化がクオリティ・オブ・マインドに与える影響に注目する。

P.Fドラッカー経営大学院:https://www.cgu.edu/people/jeremy-hunter/
Transform:https://transform-your-world.com

Photo: Shingo Wakagi Text: Yoshiki Tatezaki

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