ジェレミー・ハンターさんと
マインドを見つめ直すお茶の話
<後編>

ジェレミー・ハンターさんと
マインドを見つめ直すお茶の話
<後編>

2019.10.28

21世紀に求められる働き方と飲み物

世界有数のビジネススクール「ドラッカー・スクール」の准教授を務め、セルフマネジメント研究と実践の第一人者として知られるジェレミー・ハンターさんが、自身の心をととのえるために行なっているのは朝の点茶。前編に引き続き、ジェレミーさんの専門分野について教えてもらいながら、お茶が持つ可能性を聞いた。

「瞑想というと、心静かに、マインドをシャットダウンするというイメージがあるかと思いますが、そうではないんです。頭の中にさまざまなことが行き交っていても、そこにある“空間”を見つけることが大切なのです」

やはりなんとなく難しそうな気がする。素直にその感想を口に出すと、「難しくないです。難しいと考えると難しいんです」と笑うジェレミーさん。そして、日本のお茶文化には、そのヒントとなる考え方が古くからあることを教えてくれた。

「アメリカでお茶は革命と関連付けて考えられるんです。お茶に対する税金が問題でアメリカの独立戦争が始まったという経緯がありましたので。でも日本でお茶というと、革命などではなく、平和や平穏を連想すると思います。先ほども、茶室における空間のお話を岡倉天心の『茶の本』を例にしましたが、自分自身を見つめて磨くということに、日本の文化は早くから気づいていて、そのことに長けていると思っています」

ボストン茶会事件は英国の植民地支配からアメリカ独立へとつながる革命の象徴的な出来事。そうして考えてみると、たしかに、日本でお茶はとても静かで穏やかなものだと改めて気が付く。しかし、ジェレミーさんはお茶を歴史的な文脈だけで捉えているのではない。

「抹茶は21世紀の飲み物だと思っているんです。これからの働き方は、より“マインド”を使ったものになるといわれています。これからの時代、工場で同じ作業を繰り返すということよりも、頭を使って発想したり様々な人と仕事をしたりということが求められてくるとすると、『リラックス』と『集中』の両方が大変重要なのです。『マインドの質(quality of mind)』というのが、有意義かつ生産的なあらゆる仕事の基本です。アメリカでは何年か前から抹茶がブームになっています。神経科学の研究をしている友人が言うには、抹茶に含まれるテアニンに、“リラックスかつ集中”しているという状態を生み出す働きがあるそうです。コーヒーも集中を助けますが、落ち着きよりも緊張感を生んでしまうそうです」

つまり、リラックスと集中の両立を助ける働きがあるとされるお茶、そしてその文化は、知的生産がますます求められる時代において重要になってくるという。銀行や金融など世界有数の企業をはじめ研究機関、NPOなど多くの組織の経営幹部層に向けたリーダーシッププログラムを提供しているジェレミーさんは、コンサルティングを行うエグゼクティブに実際に「抹茶キット」をプレゼントするのだそうだ。

「多くのエグゼクティブがとても気に入ってくれます。抹茶を点てるという行為自体も楽しんでいるようですね」

リラックスかつ集中という言葉は、「意識を向けること」とももちろん関連している。瞑想と聞くと、たしかに特別な感じがして少し身構えてしまうが、「リラックスかつ集中した状態で行う行為や仕事は、すべてある種の瞑想」とジェレミーさんが言う通り、経験と感情のありように意識を向けることが、結果的に、「瞑想」とも表現される、人にとって望ましい状態につながるということだ。

「自分がどこに意識を向けるかを自分で決めなかったら、恐怖心があなたの意識の向け先を決めてしまうでしょう。したがって、自分と自分の恐れとの対話が人生を決めているといえるかもしれません。自分がどこに、そしてどのように意識を向けるかを決められる能力は、一人一人が培うべき一番大切なパワーだと思ってください」

最後に意識を向けることの重要性を改めて教えてくれたジェレミーさん。人を理解し思いやるという姿勢(それとお茶への愛)がひしひしと感じられる対話は、自分自身を見つめ直すきっかけにもなる、そんな時間となった。

【ジェレミー・ハンター】クレアモント大学院大学 P.Fドラッカー経営大学院 准教授、同大学院 Executive Mind Leadership Institute 創始者、日本におけるコンサルティング会社Transform共同創設者。セルフ・マネジーメント理論研究の第一人者で、“人生の豊かさ(Well-being)”と“仕事のパフォーマンス最大化”について教えている。企業、公的機関含め多数のコンサルティング実績を持つ。日本にもゆかりがあり、日本のお茶文化がクオリティ・オブ・マインドに与える影響に注目する。

P.Fドラッカー経営大学院:https://www.cgu.edu/people/jeremy-hunter/
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Photo: Shingo Wakagi Text: Yoshiki Tatezaki

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