ようこそ、福田さん家の
気のおけないお茶会へ
<前編>

ようこそ、福田さん家の
気のおけないお茶会へ
<前編>

2019.11.05

作法より「集う」を楽しむお茶会

ファッション、食、インテリアなど幅広いフィールドで活躍するブランディングディレクターの福田春美さん。ここ数年、夢中になっているのが中国茶、台湾茶を中心としたお茶だと話す。

「朝起きて、甘いものを一口食べてお茶をいただく。その茶葉を1日かけて、何煎も味わう。その時間がなんともいえず好きで。お茶をいれなくても、好きな茶器を眺めているだけで、心休まります」

昨年開業した北海道大樹町[MEMU EARTH HOTEL]のディレクションをはじめ、東京を離れての仕事も多い。日本全国を駆け回り、あらゆるジャンルのモノ、コトに関わる福田さんにとって、お茶を楽しむひとときは「心を鎮めてくれるもの」なのだそうだ。

「中国茶の世界には工夫茶という茶芸があり、広く親しまれています。茶杯と呼ばれる小さな湯呑みや香りを楽しむ聞香杯(もんこうはい)などの茶器を並べて、お茶の香りや味を楽しむもの。自由度が高く、器や道具選びにも人それぞれの個性が出て楽しいんです」

料理好きな福田さんは、時間ができると『hamiru亭』と呼ぶ自宅兼事務所に友人や仕事仲間を招いてホームパーティを開いている。近頃ではお茶も、大事なおもてなしの一部に。

「堅苦しいものじゃなくて、気のおけない仲間と集まって、美味しいものを食べて飲む、その時間にお茶も楽しむというものです。私はお酒をあまり飲まないのですが、せっかくおいしいものを食べる時間に水というのも味気ない。そんなときにも、お茶ってちょうどいいんです」

そんな福田さんが、秘かに憧れているお茶のプロフェッショナルが山本真理子さんだ。料理家やスタイリストの間で知らない人はいない台北の人気茶藝館[小慢(シャオマン)]のオーナー・謝小曼(シャ・シャオマン)さんの下で茶を学び、小慢の東京教室で講師も務めている人だ。今回、その山本さんにお茶を習っている友人でスタイリストの梅山弘子さんを介し、山本さんを招いてお茶会を兼ねたホームパーティを開くことに。「真理子先生のお茶がいただけるなんて、夢みたい」と、満面の笑みの福田さん。料理の支度にも気合いが入る様子だ。

この日は、梅山さんと山本さん、ヘアメイクアップアーティストの草場妙子さんの4人が『hamiru亭』に集まった。ファッション撮影はもちろん、雑誌等の対談やイベントにも引っ張りだこの草場さんは、お茶の経験がほぼゼロとのこと。「でも春美さんに真理子先生のお茶の話を聞いて、そんな席に呼んでいただけるならぜひお邪魔したいと思って」と、はつらつとした表情で目を輝かせた。茶道具の入った大きなバッグとスーツケースを持った山本さんが到着すると、「お目にかかれるのを、本当に楽しみにしていたんです」と、今度は春美さんの目がハートに。パーティは二部構成。まずは春美さんの料理を楽しみ、その後に山本さんがいれるお茶を味わうという流れだ。

テーブルに次々と料理が並ぶ。まだ残暑が残る9月下旬、旬の走りと名残の野菜を陶板焼きにし、おにおろしたっぷりのタレを添えて。クリーム状にした絹豆腐を干し海老、ナッツ、豆板醤とともにアジアンテイストの一皿に。「今日はお茶が主役だから。簡単なものだけ」と、にこにこしながらキッチンとテーブルを往復する春美さんだが、料理が運ばれるたびに、ゲストの3人から「わあ」と、歓声が上がる。女性4人が集まれば、最近食べたおいしいものから旅の話まで話題は尽きず。そしてやはり、お茶の話にも。

「私、もうお茶を習って3年目になるんだけれど、自分で楽しむのみ。でもお茶と茶器だけは順調に増えてるわ(笑)」と、梅山さん。

「わかる」と、春美さんが続ける。

「私も最近、皿よりも茶器を買うことが断然多くて。いつかきちんと習いたいと思いながら見よう見まねでやっているだけなんだけれど、ここ最近はお茶をいれない日はないかも。たとえ一人のときでも。バタバタな日々をリセットする、大事な時間になっているの」 

主に女優のスタイリングを手掛ける梅山さんは、出張も多いというが「旅に出るときは、簡単なお茶の道具を持っていく」のだとか。

一方、福田さんの「器道楽」も有名だ。自宅の厨房周りや収納には数々の器が並ぶ。作家ものから旅先の骨董屋で見つけた掘り出しものまでが、センスよく“見せ収納”されていて、訪れたゲストと器談義に花を咲かせるのもしばしば。

「私だけ、何も経験がなくて」と、少し申し訳なさそうにしながら、「でも、皆さんの話を伺っていたら、お茶をいただく前から興味が沸いてきました」と、草場さん。

この日のメインは、ラムのせいろ蒸し。大根やブロッコリー、えのきといった野菜の上にラムを並べてせいろで蒸した一品で「手前味噌だけれど、簡単なのに、すごくおいしいのよ」と、福田さん。言葉の通り、山盛りの野菜と肉に次々に箸が伸び、せいろはアッという間に空になった。

「さあ、今日はここからが本番ね」

嬉しそうに話しながら福田さんが立ち上がり、テーブルをリセット。いよいよ山本真理子さんによるお茶会のスタートだ。


Photo: Tetsuya Ito|Text: Kei Sasaki

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