写真家・七咲友梨さんが
お茶を通して運ぶ幸福の輪
<前編>

写真家・七咲友梨さんが
お茶を通して運ぶ幸福の輪
<前編>

2020.01.08

“おすそ分け”で人々の心を温める手作りのお茶

せわしない日々の生活に疲れた時、心と体を癒してくれるお茶の存在。古くは薬としても飲まれていたお茶は、毎日の身体のケアが必要とされる現代を生きる私たちに必要なものなのかもしれない。

ポートレイトを中心に雑誌や広告で活躍する写真家・七咲友梨さんは、日本の棚田100選にも選ばれた大井谷の棚田で有名な島根県の吉賀町柿木村で作られているお茶を手作業でつくり、販売する「sotto chakka(ソットチャッカ)」を手がけている。

このプロジェクトでは、柿木村で少なくとも100年以上前からずっと自分たちで飲むためだけに作られてきた「釜炒り茶」と「野草茶」の2種類のお茶を“おすそ分け”するようにして販売している。

「そっと着火する」という言葉が由来というsotto chakkaには、「瞬発的で強く派手な光ではなく、(お茶を通じて)小さくても消えない光を灯し続けることができたら」という思いが込められているという。大量生産はできないため広範に流通はしないけれど、自分たちのできる範囲で柿木村のお茶を広めていくという姿勢を大事にしている。

日本では昔から、自らの手でお茶の葉を摘み、各家庭で自分たちの分のお茶を作るという文化があった。しかし、時代の流れによって徐々にお茶を自家製で作る家庭は減少。そんな時代にあって、柿木村とその周辺地域では変わらず自分たちで日常用のお茶作りを行ない、現在でも飲み続けているのだそうだ。

七咲さんのおばあさんは柿木村の出身で、七咲さん自身もおばあさんお手製のお茶を昔から飲んで育ったのだそうだ。そのため、手作りのお茶は常に身近にあり、柿木村のお茶に対して特別興味を持つことはなかったという。「普通に売っているお茶とは、少し味が違うなぁとしか思っていませんでした」

七咲さんが地元のお茶を改めて見直すきっかけになったのは2015年のこと。現在、柿木村は農薬や化学肥料を使わない有機農業が推奨されている地域としてその名が知られており、今なお残る自然の中で有機農業に挑戦したいと考える人たちを県内外から惹きつけている。そういった人たちとの会話を通じて、特別とは思っていなかった「うちのお茶」も県外の方にとっては、個性的でおもしろいのではないかと思った。

そこから思い立って地元の人たちから教わりながらお茶作りを始めてみると、思いの外面白く、お茶の葉や野草に触れるたびにお茶の世界へのめり込んでいき、現在のsotto chakkaの活動へと発展していった。

sotto chakkaで販売されているお茶は、柿木村で育てられている「釜炒り茶」と野草をブレンドした「野草茶」の2種類。

釜炒り茶は、現在九州のお茶として有名だが、中国から伝来してきたお茶のルーツとも呼べるお茶。柿木村では、樹齢100年のお茶の木から手摘みで作られており、毎年5月の上旬に新茶の収穫が行われる。黄色のお茶は、飲めば優しい風味が広がり、身体中に染み渡る。

野草茶は、体調が悪い時、病院に行かずに山に行って体に良く効く野草を摘んでお茶に煎じていた先人の知恵を元にして今もなお飲み継がれている。野草茶といえば「苦くて、飲みずらい」という印象を持つ方が多いかもしれないが、sotto chakkaの野草茶は絶妙なバランスによって、それぞれの野草の個性を感じる味わい深いお茶となっている。

七咲さんがsotto chakkaに取り組む以前、柿木村で作られている家庭用のお茶を流通しようという活動はもちろん行われていなかった。しかし、このsotto chakkaでの活動を通して、喜んでくれる地元の方々も増えてきたという。

「野草茶を作っているおばあちゃんがいて、せっかく美味しいものを作っているのに見合わないような低価格で販売していたんです。なので、『もう少しいい価格で買うから、一緒にお茶やろうよ』って声をかけました。そうしたら、当時『来年にはお茶作りをやめる』なんて言っていたおばあちゃんが、やる気になってくれて、作るお茶の量も増えてきました」と笑顔で語る七咲さん。

しかし、七咲さんがこの活動によって見据えているのは柿木村の活性化だけではない。「柿木村という一点がよくなれば良いというわけではなく、全体を見ています。都会に住んでいる人たちの健康状態も心配だから、そういうところに届けたいということもあります。sotto chakkaをやることによって、嬉しい気持ちになれる人が増えればいいなと思っています」

sotto chakkaのお茶が運ぶ幸福の輪。小さな喜びも分かち合うことで、人々のちょっとした幸せにつながっている。後編では、sotto chakkaの野草茶に含まれている野草の特徴から、活動を通じて七咲さんが感じるお茶にまつわる人間模様を聞いた。


【七咲友梨】
島根県出身。写真家であり、2017年から日本茶ブランドsotto chakkaを手がける。リアリズム演技を学び、役者として映画、ドラマ、舞台、CMなどで活動。その後、写真家・横木安良夫氏に師事し、独立。ポートレイトを中心に雑誌、広告、書籍などの分野で活動。写真集、写真展など作品発表も精力的に行なっている。sotto chakkaでは「おすそ分け」の精神を大事にしながら、お茶の魅力を広げている。
www.instagram.com/nanasaki_yuri/ (七咲友梨さん Instagram)
www.instagram.com/sotto_chakka/ (sotto chakka Instagram)

Photo: Yoshimi Kikuchi|Text: Ririko Sasabuchi

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