• 嬉野と八女を繋ぐ旅で出逢った残したい茶の景色
    <後編>福岡県八女[古賀茶業]の嬉野茶と八女茶

    2022.07.15

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    ところ変わって福岡県。博多の街から車で1時間ほど離れた福岡県南西部のみやま市に、80年以上つづく[古賀茶業]はある。福岡を代表する八女茶(やめちゃ)の美味しさを全国に伝えることをモットーにする製茶問屋だ。

    農林水産大臣省を獲得するような一級品から、大手ブランドの商品の生産までを手掛けているというから、“九州のお茶の台所”といえそうだ。

    そうした存在であるから、生産する茶葉の中には八女のものだけではなく、前編で見学した佐賀県嬉野のお茶もある。

    「嬉野のお茶のいいところは、後味にえぐみとか、嫌なものが残らないところです。旨味がしっかりとありながら、すっきりと味わえる。それが嬉野茶の特徴というか、自慢ですね」

    そう話すのは、[古賀茶業]の代表取締役専務の古賀勝裕さん。

    「私たちのお客さまの中には佐賀や熊本、長崎の方もいらっしゃって。そういった土地では昔から『ぐり茶』をつくって飲んでいたんですね。その中で、私たちは今でも嬉野茶をつくっています。九州ではやはり、こういったお茶に慣れ親しんでいる方がけっこういらっしゃいますので」

    [古賀茶業]で製茶された「ぐり茶」と呼ばれる嬉野玉緑茶
    古賀さん自ら振る舞ってくれた嬉野茶。お茶らしい色に、甘さのある香り

    直感的に「美味しい!」と感じさせる旨味がふわっと広がり、古賀さんの言う通り、後味に苦さや渋さが残らない。そんな嬉野茶は昔からの地域の味でありながらも、もしかするとお茶をあまり飲み比べたことのない若い世代にも受け入れられるのではないかと感じる。その感想に古賀さんも頷いてくれた。

    「そうですね。渋いお茶ですとか苦いお茶が苦手な方は多いと感じますので、そうじゃないお茶もあるということですね。嬉野の方々も、昔ながらの段々畑をつづけるのは本当に大変だと思うんです。でもそこで採れるお茶が美味しいんですよね。だから乗用摘採機を使って量をつくることも並行してやりながら、手のかかるお茶もつくっていくということができるといいのですが。それは八女茶の玉露でも同じで、生産者の方にもできるだけつづけていける方法でとお願いしているんですよ。美味しいお茶が残っていくために」

    つづいて「八女伝統本玉露」を淹れてくれる古賀さん。

    青々とした茶葉から淡い緑のお茶が絞り出される。その香りからして鮮烈

    薄い黄緑色の液色からはぎゅっと力強い旨味の香り。

    「昔から、『玉露は卵の白身の色』と言って、この色がいいと言われているんです。味がボケないように蒸してあるんですね」

    一口にも満たないひとすすり、とろりとした茶を口に含むと、旨味がじわじわと広がってくる。その味の広がりを感じながらゆっくりと自分の呼吸を意識したくなる。

    八女での玉露の歴史は60年ほどさかのぼれるという。次の世代に八女茶の品質をより良い形で繋いでいくために、現在「八女伝統本玉露」には高い基準が設けられている。その土地特有の気候・風土・土壌、生産方法によって作られる高品質な産品に付けられる「地理的表示保護制度(GI)」にも登録され、業界としてこのお茶を守り、品質を向上させていこうという姿勢だ。

    古賀さんが常に気にかけるのは、やはり茶の葉を育てる生産現場だ。

    「八女本玉露は、手摘みというのが一つの条件です。一芯二葉か三葉を手摘みで。慣れた方でも一日15キロくらいですよね。それが実際の茶葉になると2.7キロくらいになる。昔は手摘みの玉露は250トンくらいあった。今では4〜5トン。手摘みだったり手のかかる部分を急激に減らさざるを得ないことになっています」

    「八女の玉露は、宇治の玉露にも負けていません」と胸を張る古賀さん。日本各地に強い思いを持ってお茶をつくる人がまだまだいる。あらためてそう感じさせてくれる一日だった。

    古賀茶業株式会社|Koga Chagyo Co., Ltd.
    1938(昭和13)年創業。品評会受賞の八女本玉露のほか、八女産茶葉の煎茶、紅茶、白茶など、地域のお茶を幅広く手掛ける。2018年には本社店舗をリニューアルし、カフェレストランがオープンした。八女茶の本当の美味しさを全国に伝えるために、日々研究開発にも余念がない。
    kogacha.co.jp

    Photo: Yutaro Yamaguchi
    Text: Yoshiki Tatezaki

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