• 100種類のお茶割りは色物ではなく自由を伝える
    お茶を知った自分の使命 [茶割]多治見智高さん<後編>

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    100種類のお茶割りは色物ではなく自由を伝える
    お茶を知った自分の使命 [茶割]多治見智高さん<前編>

    [茶割]は2016年9月20日、学芸大学にオープンした居酒屋スタイルの飲食店だ。まもなく6周年を迎える[茶割 学芸大学]、2号店として2019年3月にオープンした[茶割 目黒]を中心に展開している。 大衆居酒屋でお父さん…

    2022.09.09 INTERVIEW日本茶、再発見茶と食

    お茶割りは意外に奥が深い。

    “焼酎緑茶割り“という小さな枠を軽く飛び越える自由なお茶割りを提案してきた[茶割]。店のメニューも、「100種類の唐揚げ」というキャッチフレーズ以上に多種多様なフードが用意されている。さらに今月から提供を予定しているのは、お客自らお茶を淹れお茶割りをつくるというメニュー。

    さらに深まっていく様子の[茶割]。その裏にある、オーナー多治見智高さんのお茶に対する思いとは。

    “色物屋”と思われていたからこそ

    “おじさんドリンクのネクストヒット“としてお茶割りに賭けた多治見さんだが、それだけに当初は日本茶についての専門知識はさほどなかったと話す。

    「最初はもちろん、今ほどの知識は全然なくて。いわゆる街のお茶屋さんに相談しに行って、とりあえずお茶10種類、というところから始まった感じです。2016年に[茶割]を始めて、その前後からちょうど日本茶カフェがブームのようにできてきたおかげで色んなところでお茶が飲めるようになっていました。そういうところに行って、飲んで、『おや?』『お茶にしては変な味するぞ?』みたいな。思い返せばそういうところから入っていった気がします。同じくらいの時期に、お茶農家さんのところにも直接行くようになりました」

    「とはいえ、うちは最初から『割り』って言っていたので。今でこそお茶の世界で繋がりがありますけど、最初のころは全然なかったんです。急須で淹れて出すわけでもなく、“色物屋”と思われていた節はあるかな。でもそういう立ち位置だったからこそ、勉強も頑張れたっていうところはあるかもしれないです」

    ただ、今のお店のスタイルを見てもお茶割り専門店の先駆者としてブレていないと感じる。お茶割りの原料という基準以上に茶葉にこだわりながらも、日本茶専門店ほどの限定感がない。あくまで[茶割]として、知識不要で楽しむ場となっている。

    「やってることに自信があったので、根本的に変える考えみたいなのは全然なかったです。(お茶を)深めていく部分は、知っちゃったからやらざるを得ない、という言い方もできるかもしれないです。自分の中に煎茶、ほうじ茶、紅茶というようなレイヤーしかなければそれしか出せないけど、品種も知っちゃったし、農家さんとも話してるし。だとしたら、極めていくみたいなことが、使命のようなものになると思っている」

    試作中の新メニューを実演していただく。鹿児島[和香園]の深蒸し「ゆたかみどり」をGlass Kyu-suで淹れる。タンブラーグラスには氷とピーチリキュール
    80度のお湯を入れて2分間ほどじっくりと出す
    お茶を注ぎ入れると、ピーチリキュールのピンクと緑のきれいなツートーンに。茶葉が持つ強い旨味に、お湯で淹れることで香りも立ち、通常とは一味違う仕上がりに

    気負いない話しぶりから「使命」という言葉も聞かれたが、多治見さんの信条は「面白くないより、面白い方がいいでしょう?」だ。「100種のお茶割り」が生まれたのも、その方が面白い、楽しいからだったと話す。

    「例えばレモンサワーだと、レモンはレモンしかないし、サワーはサワーしかない。すると究極の一杯っていう方向にいくんです。でもお茶割りは、お茶の種類は無限にあるし、お酒の方も焼酎だけではなくて、レゲエパンチ(ピーチリキュールと烏龍茶)とか昔からあるし、お酒をお茶で割る文化ってある。同じカテゴリーの中でも違うものをいっぱい提示してくれた方が楽しい、面白いよねっていう思いは一貫しています。お茶の解像度が上がってきたから、皆さんにもお裾分けっていう感じで、メニューがどんどん深くなっている感じです」

    だから、まず楽しんでほしいということに尽きるようだ。実演していただいた手元でお茶を淹れるというメニューも、背景として「それこそ刺身が泳いでるみたいに」お茶が何から出てくる液体なのか知らない人が意外といるんじゃないかという課題感がありながらも、楽しく飲みながら体験する機会があってこそという考えが根本にある。

    もちろんスタンダードに焼酎を割るのもよし。一杯飲んだら色々試したくなる。シンプルな飲み物にこそハマる要素あり

    面白い方がいいし、楽しい方がいい、ということで言うと、多治見さんはなんと「ギャルになりたい」と思っているのだそう。

    「ギャルのメンタル、純粋に生きやすいと思います。『よくない?』で通じる。僕、飲食も含めて『美味しいか』よりも『面白いか』の方が大事な判断基準にしていて。どちらも主観ではあるんですけど、面白い・面白くないは感情の話であって、感覚器官とは結びついてない。美味しいという味覚は感覚ですよね。感情の方がより人間らしいというか。だから、『すごいんだけど』みたいな感覚が一番いい」

    「ハイクオリティなものをご提供するというのがお店の使命だと思っています。それをどう感じるかはお客さんの自由。現代ではその感覚が情報に影響を受けてしまいがちなのですが、本来は違うはずですよね?」

    お茶割りを端緒にして、ギャル、そして現代の感覚にまで話が及んだ多治見さんとのインタビュー。美味しさという尺度を軽々飛び越えて、楽しもうと誘ってくれるのは清々しいほどだった。お酒をお茶で割るのも、100種類を掲げるのも決して色物ではなく、自由で楽しいという時代の本質を突き刺すコンセプトなのだと実感させてくれた。


    【特別メニューが茶割目黒で9月26日から提供開始!】
    今回の記事で多治見さんが実演してくれたOcha SURU? Glass Kyu-suを使って淹れたてのお茶でつくる茶割が、[茶割 目黒]にて実際に提供されることになりました。お好みのお酒とともに、お茶の香り、味を存分にお楽しみください。
    提供店舗:目黒店のみ
    価格:900円(税込)

    【おうちでも作れる! 茶割レシピはこちら】
    記事内で写真とともにご紹介した流れで、ご家庭でもお茶割りを楽しんでいただけます。以下のレシピを参考に、ぜひお楽しみください。
    ①グラスへ氷を満杯に入れ、よく冷やしておく(溶けた水を捨てるとより良い!)
    ②甲類焼酎45mlを注ぐ(お好みで調節を!)
    ③「茶割」の茶葉を80℃のお湯(100ml)で2分抽出する
    ④焼酎の入ったグラスに③のお茶を注ぎ、冷えるまでよくかきまぜる


    多治見智高|Tomotaka Tajimi
    1990年、東京都生まれ。大学在学時よりデザインやマーケティングの仕事に携わる。卒業後はバイオリン奏者としてアーティスト活動を行い、演奏していた店舗を引き継ぐ形で飲食店経営をスタート。2016年、[茶割]を学芸大学にオープン。
    instagram.com/chawari.tokyo
    instagram.com/chawari.meguro (今回取材させていただいた店舗はこちらです)

    Photo: Eisuke Asaoka
    Text: Yoshiki Tatezaki

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