• 食から生きることを養う[inagawa yakuzen]の稲川由華さんが教えてくれた“血を補うお茶”と“気を巡らせる茶”<前編>

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    「季節の変わり目で、段々寒くなってきていますし乾燥もしてきていますよね。そういう時期には、身体に潤いをもたらす物を食べるということが日々の養生としていいのかなと思います」

    薬膳の知識と実践を学んで、それを基に「食に関わるさまざまな活動」として[inagawa yakuzen]をスタートさせた稲川由華さん。冬を目前に、薬膳が教えてくれる身体のいたわり方を尋ねると、冒頭のように答えてくれた。オリジナルのブレンドティーを淹れていただきながら、薬膳について、身体について、稲川さんの体験とともにお話を聞くと、“生きるを養うこと”を身近に感じることができた。

    膳を薬とすること

    薬膳と聞くと、なんとなく応用編というイメージがある。薬膳中華、薬膳カレーなどなど、”プラスアルファで身体に良いバージョン”といった響きがあるせいかもしれない。しかし、稲川さんの話を聞くと、それはむしろベーシックなものだとわかる。

    「薬膳の『薬』はくすり、つまり治療といった意味。それから『膳』は食べ物という意味。なので、薬膳という言葉の意味としては、『食事で治す』ということです。風邪をひいたときにネギやショウガを食べるといいと昔から言われますが、それも薬膳として理にかなっているんです。その時々の身体の状態に合ったものを食べるというのが薬膳の考え方。こんな漢方を使ったら薬膳、使わなければ薬膳じゃないということではないんです。思っているよりも薬膳って身近なもの。実は生活の中にあるものなんです」

    稲川由華さん。[inagawa yakuzen]は、薬膳を基礎として食に関するさまざまなことを届けるという、稲川さんが昨年スタートさせたブランド。この日は、数種類のお茶とハーブを持ってきていただき薬膳茶をご用意いただいた

    出身は、新潟の越後平野。たんぼの先に地平線が広がる土地で育ったという稲川さんだが、服飾の大学進学を機に上京すると、体調の変化に悩まされたという。

    「開けた景色のところで育ったせいか、“抜け”がないと心がざわざわしちゃうタイプなんです。東京だと高いところに行って、抜けを求めないと心が病んでしまうような感じ。当時、東京に出てきてから身体がすごく変わったなって、今となってはそう思います。元々、生理痛なんてなかったのに、すごく重い生理痛がくるようになってしまって。生理痛にはいろいろな原因があるのですが、私の場合はストレスでした。環境の変化があって、気の循環が悪くなって血が滞ってしまっていたんですね。当時はわけなんてわからない状態でしたけど、今振り返ればそういうことだと」

    卒業後は、歌舞伎の舞台裏で着付けの仕事に就く。しかし大都会の大舞台での多忙な日々は、身体はもとより心にも負担が大きかった。

    「私空を見上げるのがすごく好きなんですけど、そのときは空を見ても何も思わなかったかも。今になって気づきました。そう、忙しくて心がなくなりそうだったんですね」

    「私は感情100%で生きるタイプなので! 私にはちょっと合わなかったんですね」と、お話し中の稲川さんの顔は明るい。その後、印刷会社に転職しおよそ6年間活躍し、昨年独立を選んだ。コロナで働き方が制限される中、一つの仕事だけではなく柔軟に働くしなやかさを身につけたいと考えたのだそう。自分にできることを考える中で、思い当たったのは自分自身の身体に向き合うことだった。

    「東洋医学の先生のカウンセリングに行ったことが薬膳との出会いになりました。一つの質問と答えから、いろいろな角度で私の身体のことを言い当ててこられて、すごく面白いと感じたんです」

    それをきっかけに、品川にある漢方専門店・薬日本堂で漢方薬膳の基礎と応用を学んだ。元々、食が大好きで、それに関わる仕事に憧れを持っていたこともあり、現在の[inagawa yakuzen]としての活動へとつながっていったのだそう。

    全ての女性におすすめしたいブレンド

    ドライになった植物を2種類ほど、瓶から取り出す。それから丸い木の実を一つ、手のひらで割った。

    「この葉はヤマトトウキという婦人科系の漢方薬によく使われるものです。国産は珍しいのですが、これは奈良で採られたもので、現地では葉を天ぷらにして食べることもあるそうです。もう一つはヨモギです。これは身体を芯からポカポカにしてくれる。生理痛のときに飲むとよいとされています。そして、これが竜眼りゅうがんという名前の実です。これも身体を温めてくれるものです」

    中央奥に竜眼、その右にヤマトトウキと左にヨモギ。そして手前には紅茶

    「お茶については[norm]の長谷川愛さんに相談してご提案いただいています。薬膳では、発酵したお茶あるいは火入れ(焙煎)をしたお茶が身体を温め、逆に不発酵のお茶は身体を冷ますとされています。このお茶は“女性のためのお茶”として作ったのですが、それはつまり、血を補うこと、身体をポカポカにすること、精神を安定させるお茶ということです。なので、選んだお茶は身体を温める紅茶です」

    「なぜ女性のためかというと、やはりどうしても月に一度血が外に出てしまうので、女性は血を補うのが薬膳では基本とされています。貧血気味の女性は多いですし、さらに子供を産むとなったときにたくさん血が出てしまいそれが産後うつにつながってしまうこともあります。そこで、日々の生活の中で血を補うことが大切だと思っています。全女性の皆さんに飲んでいただきたいお茶ですね」

    熱湯で2分ほど、じっくりと浸み出させると、紅い輝きのお茶が入った。冷えるようになってきたこの時期、じんわり温めて潤してくれるお茶は性別問わず嬉しい。

    「お茶はやっぱり日々の生活の中になじめるもの。薬膳も、毎日続けられるものでないといけないので」

    お茶の持つ新しい、いや実は昔からあったけれど忘れられていた、大切な側面に気づかせてもらえた。さらにもう一杯ブレンドを振る舞ってくれるという稲川さん。お話のつづきは後編に譲ろう。


    記事でご紹介いただいた「blend tea 01」の淹れ方
    ① 茶葉を急須に入れます(竜眼は割って中の実を使います)
    ② 沸騰したお湯を100ml注ぎ、2分ほど待ちます
    ③ 茶漉しで漉しながら湯呑みに注いでお召し上がりください
    ◎3煎ほどお楽しみいただけます
    ◎竜眼の実はお召し上がりいただけます。ライチのようなイメージです!

    稲川由華|Yuka Inagawa
    1992年、新潟県新潟市出身。服飾大学卒業後、歌舞伎座で着付け職を経験。その後、印刷会社に転職し、企業等のオリジナルグッズ制作に携わる。2021年で独立、フリーとして制作の仕事をつづけるかたわら、漢方薬膳に基づいた食に関わるさまざまな活動として[inagawa yakuzen]をスタートさせる。
    instagram.com/inagawa_yakuzen

    Photo: Taro Oota
    Text: Yoshiki Tatezaki 

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