• 食から生きることを養う[inagawa yakuzen]の稲川由華さんが教えてくれた“血を補うお茶”と“気を巡らせる茶”<後編>

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    食から生きることを養う[inagawa yakuzen]の稲川由華さんが教えてくれた“血を補うお茶”と“気を巡らせる茶”<前編>

    「季節の変わり目で、段々寒くなってきていますし乾燥もしてきていますよね。そういう時期には、身体に潤いをもたらす物を食べるということが日々の養生としていいのかなと思います」 薬膳の知識と実践を学んで、それを基に「食に関わる…

    2022.11.18 INTERVIEW日本茶、再発見

    薬膳に基づいて食に関わるさまざまな活動を行う[inagawa yakuzen]主宰の稲川由華さん。前編では、薬膳との出会いを振り返っていただきながら、「全女性の皆さんに飲んでいただきたいお茶」という血の巡りをよくするブレンドティーを淹れていただいた。ちなみに、血液がつくられるゴールデンタイムというものがあるそうで、それは深夜2時。その準備時間を十分に取るためには夜11時くらいに就寝するのがいいそう。

    日々の食事から生きることを養う、ささいなことから心身をよくするお話を引き続き聞いた。

    巡る陰と陽のモードを自分で感じること

    薬膳の基本の一つに「陰陽」の考え方がある。身体を温めるものは「陽」、冷ますものは「陰」。冬は「陰」で、春は「陽」。夜は「陰」で、朝は「陽」と行った具合に、さまざまなものに陰陽があり、それは一日の中あるいは一年の中で常に繰り返されている。

    「背中で太陽を浴びるといいよっていう話聞いたことありませんか? あれも、背中が『陽』で、お腹が『陰』だからっていう考えなんです。その土地によっても変わってきます」

    あらゆるものが影響し合っていて複雑に感じてしまうが、大切なのは自分の感覚だと稲川さんは言う。乾いた季節・土地では潤わせるもの。暑い季節・場所では冷ますもの。ウリは身体を冷ます食べ物とされるが、そう考えると沖縄でゴーヤを食べるのは理にかなっている。北海道では羊肉のジンギスカンが有名だが、薬膳的に羊は身体を温める肉とされているのだそう。食文化というのは面白い。

    「漢方の効果を数値で表すという動きも進んではいるのですが、本来はまさにおばあちゃんの知恵のように、ふつうのこととして実践されていることなんですよね」

    そこで大切なのが、自分の感覚。冷えているのか、暑いのか、乾いているのか、湿気が多いのか。自分の身体のモードと外の環境のモードを感じて、何を摂るといいのか。薬膳は、そのヒントを教えてくれる。

    気の巡りをよくするお茶はよく働くひとへ

    11時くらいの方向にあるのが烏龍茶、時計回りにカキドオシ、クロモジ、和ハッカ

    稲川さんが次にブレンドしてくれたお茶は、「気を補うお茶」。薬膳では、女性は血を補い、男性は気を補うのが基本なのだそう。もちろん、どちらも身体にいいものなので性別を問わず、自分に合うものを選ぶのがいい。

    ブレンドされているのは、まずクロモジ。
    「滞った気を巡らせます」。

    次にこれも気を巡らせる効果があるとされるカキドオシ。
    「シソ科で香りがいいため、これも気の巡りをよくしてくれるとされます」。

    さらに和ハッカ。
    「身体をすっきり、リフレッシュさせてくれるものです」

    合わせたお茶は、みなみさやか品種の烏龍茶。
    「この烏龍茶は香りがとにかく良いんです。大きくてダイナミックな茶葉もいいんです」。

    「仕事が忙しいと、どうしても気が詰まっちゃったり、頭に血が上ってしまう。それをクールダウンさせてくれるハーブとお茶です」

    お茶が教えてくれた「毎日がスペシャル」

    「茶葉を入れて、お湯を差して、待つ。この淹れる時間を大切にしてほしいと思うんです。私も元々はお茶を淹れる習慣なんてありませんでした。薬膳の一部としてお茶をやり始めてから、淹れる時間って楽しいというか、なんて言うんでしょう、それまでとは別の感覚になったんです!」

    「それから森下典子さんの『日日是好日』を読んだときに、これだ!って思ったんです。エッセイなので、日々の気づきとかが綴られているのですが、その流れが素晴らしい、素敵なんです。感覚をとても大事にする。茶道経験のない私が言うのは申し訳ないのですが、私は『茶道は毎日がスペシャルだと思わせてくれるもの』だと思っているんです。森下さんの本を読んだり、お茶を飲んだりして、自分なりにそう思ったんですけど」

    毎日がスペシャル。それは、ささいなことに気がつくかが大きいと稲川さんは説明してくれた。

    「気がつくかどうかの差ってすごく大きいと思うんです。この間、旧岩崎邸庭園に一人で行ったんです。自分は木の葉が揺れてこすれる音が好きで、いつも上を見上げるんです。小庭にちょうど一人だけでお茶を飲んで、1時間くらいぼーっとしていたら、だんだん目線が下がってきて、苔がきれいに生えているのに気がついたんです。あ、苔だ! きれいだなって初めて思ったんです。……わかりますかね?(笑)」

    苔の存在とそのきれいさに気がついた稲川さんの心は、かつて青空を見上げても何も感じなかったときとは別物といってもいい状態。もちろん、それが全てお茶のおかげというわけではなく、稲川さん自身の選択と行動によるもの。

    だが、そうした時間を経た稲川さんが「お茶を淹れる無意識の時間が自分を振り返るきっかけになる」と話すと、説得力がある。「それが日常のルーティンになったらいいと思うんです」と、茶葉にはそんな思いも込められている。

    「チャイもつくりましょうか? 『安眠チャイ』っていうイメージで、身体をポカポカにして、血を補う、眠りが健やかになるチャイをつくっているんです」

    カルダモン、ナツメグ、八角、クローブ、シナモン、クコの実、陳皮、花椒、竜眼、蓮の実、カモミール、紅茶を煮てつくったシロップをミルクで割る。スパイスの香りをまとった甘みがやさしい一杯で、心地よい取材はゆるやかに終わっていった。

    [inagawa yakuzen]は、12月3・4日(土・日)に開催される「Salon de SA THÉ SA THÉ vol.2」(代々木上原 OPRCTにて)に参加するとのことなので、稲川さんの薬膳茶を味わいたい方はインスタグラムなどでぜひ詳細をチェックしてみてください。


    記事でご紹介いただいた「blend tea 002」の淹れ方
    ① 茶葉を急須に入れます
    ② 沸騰したお湯を100ml注ぎ、1分30秒ほど待ちます
    ③ 茶漉しで漉しながら湯呑みに注いでお召し上がりください
    ◎3煎ほどお楽しみいただけます。
    ◎水出しもできます(1袋につき300mlでお試しください)

    稲川由華|Yuka Inagawa
    1992年、新潟県新潟市出身。服飾大学卒業後、歌舞伎座で着付け職を経験。その後、印刷会社に転職し、企業等のオリジナルグッズ制作に携わる。2021年で独立、フリーとして制作の仕事をつづけるかたわら、漢方薬膳に基づいた食に関わるさまざまな活動として[inagawa yakuzen]をスタートさせる。
    instagram.com/inagawa_yakuzen

    Photo: Taro Oota
    Text: Yoshiki Tatezaki 

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