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錦糸町[And Tei]倉橋佳彦さん<後編> 「日本茶バリスタ」とは? [And Tei]というお店を持つ意味
墨田区錦糸町にある、日本茶とプラントミルクティー専門店[And Tei]。プラントミルクで日本茶の香りを活かすミルクティーを落ち着いた空間で味わえる。日本茶の魅力を確実に残しながらも常識に囚われないスタイル。それは、店主…
2023.02.17 INTERVIEW日本茶、再発見
駅前に複数の大型商業施設を有する墨田区錦糸町。ここに今回訪れたいお茶屋はある。大型商業施設や全国チェーンだけでなく古くから続く商店も多くの人で賑わうこの街では、近年特に駅の北側に新築マンションが建つにつれファミリー層も増えているそうだ。
駅から北へ10分ほど歩くと、駅前の喧騒とはうってかわって下町感のある静かな住宅街へと入っていく。今回の目的地、日本茶とプラントミルクティー専門店[And Tei]はそんな路地裏にある。「日本茶バリスタ」として日本茶のワークショップなどを多数行なってきた倉橋佳彦さんが、2022年3月にオープンした店だ。
店内の様子が少しだけ見える小窓がついた入り口を開けた。
石のようにクールな印象のグレーが基調の店内。天井に近い位置の窓から柔らかく光が入り、鉢植えの植物、あたたかみを感じる木目が美しいテーブルとイスを浮かび上がらせていた。
片隅の席には、ノートを取り出して黙々と一人の時間を過ごすお客さんもいた。うっすらと流れる音楽の中に時折、カタンとカップを置く音、湯が沸く音が響く。ゆったりした時間が流れていた。
さて、プラントミルクを使用した日本茶ミルクティーをぜひとも飲んでみたいと、店主の倉橋さんにメニューの説明をしていただいた。
茶葉とミルクはそれぞれ4種から選ぶことができる。茶葉の種類は有機ほうじ茶、有機玄米茶、国産紅茶、国産烏龍茶。ミルクは牛乳のような動物性ではなく、植物性原料からつくる“プラントミルク”。「オーツサイド」「マイナーフィギュアズ」というオーツ麦由来の2種、大豆由来のソイミルク(「ボンソイ」というブランド)、そして黄えんどう豆由来のスプラウドミルク(「スプラウド」)の4種類だ。動物性ミルクの代わりとしてではなく、おいしい飲み物として、まだまだ知られていないプラントミルクをぜひ試してもらいたいそうだ。
「4×4からどの組み合わせを選んでもOKです。それぞれの美味しさを楽しんでいただけるように茶葉もプラントミルクもセレクトしました」
[And Tei]が一番におすすめするのは有機玄米茶だ。実際、お客の半数近くが飲んでいくそうだ。意外と言えば意外。玄米茶は、とても家庭的である反面、外でドリンクとして活躍する場面は比較的少なかったはずだ。
「日本で玄米茶をこれほど推している人は他にいないと思います。抹茶を広める方はたくさんいますが、なんで玄米茶はいないのかという気持ちもありますが、玄米茶の香りって、日本人みんなが懐かしいと感じて、なおかつ安心するものだと思います。それに、玄米と煎茶の組み合わせって日本にしかないお茶だと思っているので、もっと知ってもらえたらいいのにと思います」
香ばしく炒った玄米と煎茶を混ぜ合わせた玄米茶の香りはとてもほっとする、たしかに日本の原風景的なお茶だ。そして、その「香り」という要素こそ、[And Tei]がミルクティーを出す大きな理由だと倉橋さんは話す。
「飲む人が感じる『美味しいお茶感』がどんなものか、自分なりに分解していった結果、たどりついたのは香りだったんです。過去にお茶を出してきた経験で、お茶の味を濃厚にすると残してしまうお客さまがいた。一方で、お茶を運んでいくタイミングで飲む前から「いい香り」と言ってくれるお客さまが多かった。お茶にとって「いい香り」というのは一番最初のポイントで、その後の味の感じ方にも影響を与えるんだと。自分の美味しいお茶を提供するのであれば香りに特化しようと思い、今の茶葉もそのベストだと思います」
「味を形成するのはプラントミルクで、香りはお茶」だと、自らつくるミルクティーを表現する倉橋さん。玄米茶ひとつとっても、「玄米が強すぎても煎茶が強すぎてもだめで、プラントミルクに合うものをいろいろ試して選びました」。お茶もミルクティーもそれ自体は“飲んだことあるもの”と思っていたけれど、改めてどんな香りが、味がするのだろうとワクワクしてきた。
まずはおすすめの玄米茶を、2種類のオーツミルクでミルクティーにしたものを飲み比べさせていただいた。
お店の中心には奥行きのあるカウンターがあり、倉橋さんがそこで一杯一杯ドリンクをつくる姿がある。日本茶のお店だからきっと急須を使うのだろう、どんな急須だろうと思って見ていたが、そんな予想はあっさりと裏切られた。倉橋さんが扱っていたのはドリップポット型のケトル、ラテをつくるときに使うようなミルクピッチャー、それからマグカップに茶葉をこすためのストレーナー。
どちらかと言えば、コーヒーバリスタのようなセッティングと動き方。ミルクティーのつくり方もオリジナル。煮出すのではなく、ラテのように重ねるのでもなく、ミルクスチーマーを使ってミルクと茶葉を一緒に温めながら混ぜ合わせる方法。こうしたオペレーションの細部まで自ら考え組み立てるのはバリスタの職能だと倉橋さんは言う。何度も淹れてきたのであろう洗練された手さばきに目を奪われているうちに二杯が差し出された。
カップのふちギリギリまで、きめの細かいフォームが満ちている。こぼさないよう、そろりとすすると、玄米茶の甘味と香ばしさ、それをふんわりとミルクが包み込む。見た目には区別がつかないが、たしかに味の違いがわかる。オーツサイドは「プラントミルクの味わいに慣れていないお客さんにもおすすめ」と言う通りクセがなく、ミルキーさが玄米茶の香りを甘く持ち上げてくれる感じがする。マイナーフィギュアズオーツは、玄米茶の香ばしさがよりナチュラルに感じられた。いずれもオーツと玄米茶それぞれの香ばしさが引き立てあって、満足感が高い。
そうして飲み比べると、プラントミルクを入口にもう一杯いただきたくなった。そこで選んでいただいたのは、スプラウドミルクというスウェーデン発の新たなミルク。日本ではまだあまり知られていないが黄エンドウ豆を原料としたもので、お茶と合わせると「お茶の香りが伸びる」のだそう。これに合わせたのは、どこかスパイシーさすら感じられどっしりとした存在感のある国産の烏龍茶。甘すぎず、複雑さが後を引く、「コーヒー好きにもおすすめの」一杯だ。
実際に飲んでみて、お茶の香りがたしかにしっかりと感じられた。「牛乳よりもプラントミルクがお茶の香りと相乗効果を生みやすい」との言葉に納得。「最後まで残さずに飲み切れてしまうのが美味しい一杯だと思います」という言葉の通り、飲んだ後も気持ちがいい。
倉橋さんがつくるお菓子も卵や牛乳などの乳製品を使わないものが中心。店内で焼き上げる、塩こうじを使用したスコーンは、手でほろりと崩せる。表面はサクサクとした食感で、これもクセになってしまう。一口飲みこむとほんのりと甘味が残った。程よく口の中の水分を奪ってくれるので、ついついまたお茶に手が伸びる。「素朴だけど食べれば食べるほどはまって、気が付いたらなくなっているようなお菓子を作っています。塩こうじが小麦のうまみを引き出しますね」と倉橋さんは話す。
「日本茶といえば」というイメージを軽々と“裏切り”、心地よい時間を演出してくれる。一人ゆっくりと自分に向き合いたくなるのもよくわかる。スタイルはおしゃれなカフェのようだが、その実はお茶の本質に近いお店だと感じた。
後編では、もともとはコーヒーの淹れ手であった倉橋さんが、日本茶と出会い現在のスタイルに至った理由を掘り下げてみる。
倉橋佳彦|Yoshihiko Kurahashi
1988年生まれ、秋田出身。カフェでバリスタ、パティシエとして活動する中で日本茶と出会い没頭していき、2017年ごろから「日本茶バリスタ」としても活動を開始しほうじ茶ワークショップなどさまざまな形で日本茶を発信。2022年3月25日、日本茶とプラントミルクティー専門店[And Tei]を開業。
[And Tei]
東京都墨田区太平4-22-6 1F
平日 12:00~18:00(店内L.O.17:30)、土日 10:00~18:00(店内L.O.17:00)
不定休(詳しい営業予定は公式Instagramをご確認ください)
instagram.com/_and_tei
andtei.com
Photo by Tameki Oshiro
Text by Hinano Ashitani
Edit by Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール