スタイルはそれぞれ、でも想いは一緒。
出場者の言葉で振り返る「淹茶選手権 2023」決勝
2023.03.03 INTERVIEWイベント
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お茶を淹れる技術を競う「
昨年2月に初めて開催され、今年2月19日には第2回目となる「淹茶選手権 2023」決勝が東京・大手町で行われた。
コーヒーの世界では、「ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ」や「ワールド・ブリュワーズ・カップ」といった世界的な競技会が存在し、コーヒーを淹れる人々が切磋琢磨する土台となっている。
日本茶の世界において、こうした競技会が生まれたことは一つのブレイクスルーと言ってもいいのでは――。「世の中に“お茶を淹れる人”に着目してもらうこと」を目的とする淹茶選手権の決勝を現地で取材させていただくと、そうしたポテンシャルを感じることができた。
さて、まずは「お茶を淹れる技術を競うとは?」「どんな大会なのか?」
大会をハイライト的に振り返り、そうした疑問に答えていきたい。
淹茶選手権の出場者は、2回の淹茶(=お茶を淹れる行為)を披露する。「課題茶部門」と「フリースタイル部門」という二つの部門でお茶を淹れるのだ。大まかにイメージをしていただくならば、フィギュアスケートでいう「ショートプログラム」と「フリースケーティング」のようなものといってもいいだろう。より適当な例としては、コーヒーのブリュワーズ・カップにおける「必修サービス」と「オープンサービス」というルールに近い。技術を客観的に評価しながら、感性や表現力といった個性も総合的に審査できるルールづくりを目指していることが伝わってくる。
最初の課題茶部門では、全員が同じ茶葉を使ってお茶を淹れる。また、使用する急須と湯呑みも同一のものを使う。
50gの茶葉が決勝1週間前に各出場者に届けられる。産地や製法に関する説明は与えられず、「これがどのようなお茶なのか」を考察することもパフォーマンスの一部となる。淹れ方はもちろん出場者に委ねられるのだが、はたして1種類の茶葉が5名の出場者によってどのように表現されるのか。それが課題茶部門の一つの見どころといえる。
「きらきら輝く、卓越した光沢とツヤ。きれいな形状から、上級煎茶以上の茶葉だと見受けられました。香りは青草やハーブ、大草原を想像させます。それから花のような香り、海苔のような旨味、その奥には石灰や火打石のようなミネラルの香り。壮大なミネラルと清涼感、プラス旨味を引き出して一煎を淹れたい」
茶葉の印象を言語化するところからスタートした山本さん。湯呑みに入れて審査員に出すのは1煎目ではなく2煎目だと話しながら手を動かす。ポイントは1煎目をスプレーボトルに入れたこと。「一口目はそのまま湯呑みから(2煎目を)。二口目にスプレーを2プッシュ、三口目に4プッシュして、旨味をプラスして味わっていただければ」と、このお茶のポテンシャルを伝える独自の淹れ方・飲み方を提示した。
「1煎目・2煎目の味わいの違い、また温度によっても味わいの違いが大きかった。衝撃を受けたその“違い”に焦点を当てます」と話しながら淹茶を始めた川端さん。「ほっこりと天津甘栗のような甘さ」を意識し低温で淹れた1煎目につづき、2煎目は熱湯でさっと淹れ「このお茶が持っている渋味」を表現した。
「調べれば調べるほど楽しいお茶でした」と話す神﨑さんは、解説資料を携えてのパフォーマンス。茶葉を自らふるいにかけて“解剖”していったところ5種類の茶葉のブレンドだと推察したという。「5人の個性的なメンバー」の良いところを引き出し、悪いところが出ないように丁寧かつ流麗な所作で一杯を淹れた。
「優れた
「とても面白いお茶だと思いました。玉露のような、青のりのような香りを一番に感じましたが、淹れた時に火香を感じたのでいつもと違うお茶だと」と、玉露が有名な福岡・八女らしい視点で考察。「煎を重ねると変化する味わいを、『月夜の宴』と名付けて淹れたいと思います」とテーマを設定。1煎目、2煎目、3煎目、それぞれ味わいの狙いを定めつつ一杯に重ね合わせた。金色の水色を月に見立て、桜の花も添えた。
このように同一の茶葉を使っても各自の個性がはっきりと表れる「課題茶部門」の淹茶となった。各自10分の持ち時間があっという間に感じられるほど、皆さん伝えたい言葉に溢れている様子。
次に「フリースタイル部門」へと移るが、こちらもより一層個性的かつ濃厚なパフォーマンスの連続となった。
「フリースタイル部門」はその名の通り、自由なパフォーマンスが求められる。茶葉も茶器も自由。ただひとつ、設定されるテーマに則って構成を考え、お茶で表現をする。今大会でのテーマは「自然」。なるほど抽象的で、各自の世界観が試されそうだ。
演技順は課題茶部門と同様。山本さんは、静岡・玉川地区にある[志田島園]佐藤さんのお茶づくりが今回のテーマに合うと考え、同氏がつくる在来品種の紅茶をベースにした一杯を淹れた。バーライクな作法で淹れる姿が印象的。京番茶を香り付けの副原料として用い、グラスをリンスしたり、紅茶の上から加えたりと「お茶を淹れる」というイメージを広げるようなパフォーマンスを見せた。
川端さんは、京都・
神﨑さんは、愛知・豊橋市で40年来無肥料無農薬でお茶づくりをする[ごとう製茶]の「べにふうき」をセレクト。「自然茶とは何か?」という問いを後藤さんに投げかけ、安全〜芸術までに至る自然茶のグラデーションを解説しながら、“三煎重ね出し”というオリジナルの淹れ方で、味香りのバランスを追求した一杯に。
畑さんが選んだ茶葉は、滋賀・
最後のパフォーマンスは今村由美さん。「星野村の八女伝統本玉露の世界にお招きしたいと思います」と、自らの移動式茶席を登場させ、背後のスクリーンで八女の映像を流し、会場を一気に今村さんの“ホーム”へと誘なった。自然仕立て(枝を刈り揃えず、自然のまま伸ばす)であることが条件の八女伝統本玉露を、凝縮した旨味の一杯からほっと一息つくお茶らしい一杯まで3煎に渡って差し出した。
お茶、お茶、お茶に次ぐお茶……。
一口にお茶と言っても、これほど広く、深いものなのだとあらためて感じさせてもらった。
さて、淹茶選手権は全演技を終え、審査発表へ。五者五様の淹茶はどのような結果になったのか――。後編で詳しくお伝えします。
淹茶選手権|Encha Championships
淹茶のプロフェッショナル達が一同に介し、その年度の最も優れた「最優秀淹茶賞」の獲得を競う選手権。「課題茶部門」と「フリースタイル茶部門」の二つの競技の合計得点で競われる。
instagram.com/enchakeikaku
encha.jp/championships/淹茶選手権-2023
Photo by Tameki Oshiro
Text by Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール