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竹花いち子さんの オルタナティブ お茶がらレシピ <後編>
甘栗が決め手「茶葉と栗とちりめんじゃこのつくだ煮」 「フレンドリーで楽しくてクリエイティブ」 料理教室「キッチン☆ボルベール」を主宰し、ケータリングや食事会で料理を振る舞う竹花いち子さんの人となりだったり、その料理を端的…
2020.06.26 茶と食
1993年から2011年まで、多くの人に愛されたレストラン[タケハーナ]は東京・代沢のへんぴな土地にあった。ジャンルレスに週ごとに変化するメニューと、唯一無二なのにどこかホッとする味わい。そして元コピーライター・作詞家という経歴の店主・竹花いち子さんの高い感性で選び抜かれた器やインテリアに囲まれる時間は訪れる人の特別な体験となり、かけがえのないお店として今も人々の脳裏に刻まれている。
今は料理教室「キッチン☆ボルベール」を主宰し、ケータリングや食事会など、よりパーソナルな距離感で腕を振るう竹花さん。その拠点となる住居は、竹花さんその人をよく表現している。感性を刺激するアートや器に囲まれながら、初めて訪れる人も温かく迎えてくれる、アットホームな雰囲気に満ちている。今回の取材も、まさにそんな雰囲気の中スタートした。
まずは竹花さん、おうちではいつも何を飲んでいますか?
「もともとはハーブティーとか紅茶をよく飲んでいたんだよね。それが1年前くらいにふと『あれ? なんか緑茶が飲みたいな』って思ってね。『そういえば小さい急須があったな』って思いだしたのね」
「そうそう、煎茶を飲むようになったのはポットのせいもある。インド製のいいポットが手に入ったの。これ、ほんとに温度が冷めないんだよ! インドは本当にすごいよね。あの国の頭脳って一体どうなってるんだろ」
「いつもは料理の仕込み時にお茶を飲んでます。意識して水分補給しないと忘れちゃう。最近はコロナ自粛で仕事も少なめになって、割とソファにいる時間もあった。そのときはソファの脇に(お茶セットを)持ってきて飲んでます。やっぱりこのポットの影響は大きいなあ。」
さて、今回使うのは、静岡県を流れる天竜川上流域で栽培される「天竜」という煎茶。蒸し時間が短めの浅蒸しで茶葉の青い香りを残した、爽やかな味わいのお茶。
「旨みや甘みもあるんだけど、飲んだ後がさっぱりするね。すっと消えてくれる感じが好きですね。基本的においしいものって、いつまでも口の中にあってほしくないんだよね。瞬間で消えてくれるおいしさが一番好き。2、3煎淹れて楽しんでも、お茶の味が残ってる。一番茶(新茶)だから茎まで食べられる。おいしいね」
「そしたら早速、これで料理を作りますか」と竹花さん。竹花さんのラボともいえるキッチンに移動して、煎茶を使った料理を教えてくれた。
茶そばといえば普通、お茶が練りこまれているそばを指す。ところが、「これは普通のおそばを使うんだけど、汁にお茶を使います。そしてお茶がらをかき揚げにします。ちょっと視点を変えたという意味で“アナザー茶そば”って名付けました(笑)」と竹花さん。
「例えばお蕎麦屋さんに行ったときにさ、汁が濃かったりするときがあるじゃない。そんなとき、私は(お店の人の目を気にしつつ)お茶で汁を割ってるの。全然クオリティ落ちずに薄められて、最高なんだよね」
なぜなら、お茶にはうまみが含まれていて、一種の「だし」のようなものだから。料理教室では、だしの量が足りないときはお茶を足してみて、と教えているのだとか。
今回はその考えをもとに、緑茶の苦みも生かしていく。
「考えとしては“汁そば”なんだけど、お茶漬けを食べるみたいに汁もごくごく飲めちゃう感じがいいなと思って。お茶・ナンプラー・薄口しょうゆで構成します」
お茶とナンプラー?!
「えー?って思ったでしょ。大丈夫。ナンプラーの匂いが苦手な人でも絶対わかんないと思う。お茶のおかげで臭みがでないの。夏らしく、お茶の苦みを生かした冷たいおだしにしましょう」
まず、お茶を淹れる。
「お茶の濃さは自分好み。苦めが好きだったら濃くしてもいいと思うし、苦くないほうがよければ低温でじっくり抽出して。お茶を淹れた後に、かつおぶしをひとつかみ入れて濾すと、バランスのいい汁になる。みんな好きな味だよね。かつおぶしを入れなくても、緑茶の苦みが引き立った通好みの味になる」
お茶がらは、おかひじきと海老を絡めてかき揚げに。「材料に片栗粉をまぶしてまとめたら、ここに霧吹きで水をふりかけると失敗しない」と竹花さん。確かにこれだと作りやすい。
ごくごく飲めるそばつゆに仕上げるため、ゆであがったそばと、かき揚げの両方に軽く塩を振るのがポイント。すべての構成要素に塩を入れることで、バランスの取れた味を保てる。夏らしい薬味をのせて召し上がれ!
材料(2人分)
<そばつゆ>
煎茶(茶葉) 大さじ2
お湯 800ml
かつおぶし 軽く1つかみ(お好みでなくてもいい)
ナンプラー 大さじ2
薄口しょうゆ 大さじ1と1/2
<かき揚げ>
おかひじき 1/2パック
お茶がら そばつゆで使用した茶葉の約半量
車海老 6尾
焼き海老 適量
片栗粉 大さじ2
小麦粉 大さじ1
水(霧吹き) 適量
揚げ油 適量
<そば>
そば(お好みのもの) 2人分
薬味(茗荷などお好みのもの) 適量
① そばつゆを作る。お湯を沸かし、70度(好みの温度)に冷ます。急須などに茶葉を入れてお湯を注ぎ、好みの濃さに抽出する。茶葉は取りおく。
*1煎目は普通に飲んで、2煎目~3煎目を使ってもいい。
② 抽出したお茶に、鰹節を入れる。30秒くらいおいて濾す。
(この工程は好みによってなくてもいい)
③ ②にナンプラーと薄口しょうゆを加えて混ぜる。冷蔵庫でしっかり冷やす。
④ かき揚げを作る。車海老は殻と尾を外して一口大に切り、ボウルに入れる。おかひじき、お茶がら、焼き海老を加え、片栗粉と小麦粉をしっかりまぶす。トレイに1個ずつまとめる。
⑤ 揚げ物の鍋に油を入れて180度まで温めたら、トレイ上の材料に霧吹きで水を吹きかけ、しめらせて揚げる。具の水分が抜けて、揚げる音が軽くなったら引き上げる。軽く塩をふる。
⑥ そばをゆでて、水でしめる。しっかり水を切ったら軽く塩をふる。
⑦器に蕎麦を入れ、かき揚げをのせ、冷たいそばつゆを張る。お好みで薬味をのせて完成。
驚くほど美味しいお茶だしで、思わずおつゆまで飲み干してしまう一杯がお手軽にできてしまう。この夏、大活躍の予感を抱くとともに、竹花さんの味の感覚には感動してしまう。この日、紹介してくれるお茶料理はなんともう一品あるという。後編も乞うご期待。
竹花いち子
武蔵野美術大学・視覚デザイン学科卒業後、フリーランスのコピーライターに。広告CF製作、作詞を主に手がける。15年経って辞めることを決心し、料理の道をいくことに。1993年、世田谷代沢に東京料理[タケハーナ]をオープン。2011年大晦日、最後のおせちを手渡して閉店、以後、食べてくれる人とさらに密接で、自由な料理人をめざして現在に至る。
takehanaichiko.com
Photo: Masaharu Hatta
Text: Reiko Kakimoto
Edit: Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール