• 代官山[TEA BUCKS] in “新しい”茶畑
    熊本[お茶の富澤。]を訪れて<後編>

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    代官山[TEA BUCKS] in “新しい”茶畑 熊本[お茶の富澤。]を訪れて<前編>

    お茶屋とお茶農家、親密さとリスペクト 「初めて来たのが、2018年。[TEA BUCKS]がオープンした年です」 そう話すのは、代官山のティースタンド[TEA BUCKS]のオーナー・大場正樹さんだ。5年前から“通いつづ…

    2023.06.30 INTERVIEW日本茶、再発見茶のつくり手たち

    記事後編に先立ちまして、九州をはじめとした各地で大雨の影響・被害を受けられている方にお見舞い申し上げます。
    7月3日の大雨では熊本での被害が全国的に報じられました。今回記事に書かせていただいている富澤さんの茶工場および店舗[Greentea.Lab]があるのは、熊本県上益城郡益城町です。4日時点で富澤さんからは「ギリギリのところで持ち堪えました」とご報告をいただきましたが、空港への道が崩落したことで店舗営業には影響が出ているなど被害があります。オンラインショップでのお買い物などを通じて、引き続きお茶を楽しむとともに、現地へのエールを送っていただきたいと思います。
    ochanotomizawa.co.jp

    この写真の畑は茶工場から車で5分ほど山を登ったところにある。日当たりがよく、空も広々とした気持ちの良い高台だ。現在のところ茶畑には大きな影響はないとのこと。ほっとひと安心だが、茶業が農業が自然の中での営みだということを痛感させられる

    さて、4月下旬、新茶の時期を迎えた[お茶の富澤。]には、東京・代官山のティースタンド[TEA BUCKS]の店主・大場正樹さん並びにスタッフの川﨑さん、飛鳥さんの3人が訪れていた。[TEA BUCKS]がオープンしたのが2018年4月。5周年を迎えるタイミングで、大場さんは丸々4日間お店をクローズして、スタッフ2人を伴って熊本に来た。

    最初は大場さん一人でスタートしたお店であり生産者訪問だが、今ではスタッフが増え、彼らともこの貴重な経験を共有できるようになった。そのことは、シンプルに素晴らしいことだと感じる。店主一人の個性や活動が日本茶専門店のひとつの醍醐味である一方、少しずつプレイヤーが増えていくことはこの世界にとって間違いなくプラスだ。

    そうした日本茶専門店はもちろん[TEA BUCKS]だけではない。南青山にも西荻窪にも蔵前にも、また東京以外にもあるし今後も増えていくはず。お茶を飲みたい人にとってすごくいい時代だと、現場に立ち会ってあらためて感じる。

    [Greentea.Lab]横に手摘み体験用に植えられた茶の木も元気な新芽を伸ばしていた。TEA BUCKSチームはこれを自ら白茶に仕立てるべく手摘みをしていた。この白茶の仕上がりは上々で、5月13・14日に開催されたオチャ ニューウェイヴ フェスで提供された
    茶工場の横で
    蒸気を上げてフル稼働する蒸し機の横を通る富澤さん。3人が手摘みした茶葉を萎凋させるため平らに広げている。最盛期の茶工場では複数の作業が同時進行していた

    「生産者だったり現場を見ずにはお茶に触れられないと僕は思ったんです。想いの部分というのも、現場に行って、見て、体験して、どんな作業がつらかったとか、自分が体感しないと口で伝えられない。そういった部分を感じて学んでもらえたらと思って、スタッフと一緒に来るようにしています」

    大場さんはスタッフを連れて遠い産地まで通う理由をそう話してくれた。大場さんとの初めてのインタビューでは、次のような言葉があったことを思い出していた。

    「お茶ってやっぱり、お金を出して飲むものと思っていない人も多いですよね。
    でも、僕はお金を払う価値のあるものだと思っています。
    TEA BUCKSという名前をつけたのも、それが由来なんです」
    2020年1月17日公開の記事

    こうした想いのベースは今も変わっていないなと感じる。変わったとすれば、理解が深まり、仲間が増えたことだろう。仲間が増えた分、伝える場面は増えていく。こうした動きについて富澤さんは次のように話してくれた。

    「今まで業界自体が保守的、秘密主義という感じでやってきた部分があって。それでは(価値や可能性が)広がらないなと思っていて。俺の想いとか、つくったもののことを知ってくれて、俺の知らない場所で伝えてくれる。それってすごいことだと思うんですよ」

    煎茶づくりは茶葉を摘んだその日に仕上げる(荒茶まで)。滞在中も毎晩遅くまで作業がつづいていた。[TEA BUCKS]の3人は茶工場の2階に寝泊まりして、夢の中でもお茶の香りを感じていたに違いない。

    富澤さん家族との夕食では、すでに仕上がった新茶が振る舞われる場面もあった。今年の出来はかなりよく、特にやぶきたの路地栽培(日光を遮る被覆をせずに栽培されるお茶。被覆をするいわゆる“かぶせ”と比べると旨味は少なく爽やかになる傾向がある)には一同「路地なのにこんなに旨味がある!」と驚いていた。大変な部分を共有するという一方で、こうしたかけがえのない感動も共有できる。そして、そこに至るまでには毎シーズンあるいはオフシーズンでも直接会いに行き、同じお茶を触るという時間の積み重ねがあったはずだ。

    ではなぜ、そんなに継続するのだろう? 単純にお互いをかっこいいと思っているのだと思う。
    富澤さんは次どんなお茶をつくるんだろう?
    大場さんは次どんなところでお茶を淹れるんだろう?

    お互いの仕事に刺激を受けながら、新しい挑戦をしようと企む両者。はたから見る者としては、どちらもかっこいいなと思わされる。

    茶畑のストーリーを伝えてくれるお茶屋には、これからどんな人たちが訪れるのか。その先のストーリーも追いかけていきたいと、気持ちを新たにした旅だった。

    大場正樹|Masaki Oba
    1984年生まれ、神奈川県横浜市出身。会社員を辞め、中米・南米・アフリカの旅を経て日本茶の魅力に目覚め、帰国後飲食店の立ち上げなどを経験し、2018年恵比寿西に[TEA BUCKS]をオープン。
    instagram.com/tea_bucks
    「お茶を面白く、 人をつなぎ、カルチャーに。 Tea Bucks 大場正樹」

    富澤堅仁|Kenji Tomizawa
    熊本県上益城郡益城町で栽培・製茶・販売を行なう[お茶の富澤。]の4代目。震災後は地域に残る唯一の茶園となったが、意欲的な茶葉づくりで全国に熊本のお茶の魅力を発信している。人と人、食事とその空間、たくさんの何かを繋ぐ存在としてお茶を考え、お茶屋[Greentea.Lab(グリーンティーラボ)]も運営する。
    ochanotomizawa.co.jp
    instagram.com/greentea.lab (Greentea.LabのInstagram)

    Video & Photo by Atsutomo Hino
    Text by Yoshiki Tatezaki

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