• 4年ぶりの開催! あらゆるお茶文化が集うフェスティバル「Tea for Peace」レポート<前編>

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    急に秋の寒い気候となった11月11日と12日。お茶の祭典「Tea for Peace」が表参道の国連大学中庭で4年ぶりに開催された。
    前回開催が予定されていた2020年春はコロナ禍により直前で中止になってしまったこともあり、多くの人がこのイベントの再開を待ち望んでいたのであろう。我々CHAGOCOROチームが訪れた12日は朝から小雨がぱらつく生憎の空模様だったが、多くの人で賑わいを見せていた。

    「Tea for Peace」と掲げられた旗の下を抜け、受付を済ませると、まず磁器製のオリジナル茶杯が渡された。

    Tea for Peaceのユニークさを象徴するのが、この茶杯だ。通常、このような多種多様な飲み物が集うイベントでは、ドリンクチケットを購入して気になったお店のものを購入するのが一般的なイメージ。ただ、飲む回数に制限が生まれてしまうチケット制では、どうしても来場者にお店を“取捨選択”する意識が生まれてしまう。せっかく各地からいろいろなお茶が集まっているのに、それではもったいない。

    Tea for Peaceではこの茶杯を持っていれば、すべての店のお茶を「試飲」することができる。それらを飲み比べて、自分のお気に入りのお茶を吟味することができるのは来場者にとってとても嬉しいことだ。さらに出店者からそのお茶に込められたストーリーを聞けば、お茶への思い入れもまた変わってくるだろう。自分の五感をフルに活用させてお茶との出会いを満喫できることがTea for Peaceの醍醐味なのだ。

    日本茶だけでなく、中国茶、台湾茶、紅茶、ハーブティーやチャイなど世界中の“お茶文化”が楽しめるTea for Peace。五回目となる今回は両日合わせて国内外から50もの出店者が集結した。

    今回はCHAGOCOROチームが訪れた出店者の中からいくつかをレポートしていく。

    放棄茶園を大胆に再生する[TEA FACTORY GEN](広島)

    広島・世羅せらでお茶づくりをしている[TEA FACTORY GEN]。在来茶と言われる、種から育てられた貴重なお茶を無肥料・無農薬で育てている、自園・自製・自販の気骨ある茶農家だ。

    代表の高橋玄機さんは、事業を始めた2016年から放棄茶園の再生にも力を入れているという。

    「30年も放棄されていた茶園を自分でチェーンソーを入れて開墾し、もう一度お茶づくりができるようにしました。最初に放棄茶園を案内された時は、本当に森のようでしたね(笑)。ただ長い間放置されていたので、茶の木ではない木の根が地中深くに根付いたりしていて、刈ってもすぐ雑草が生えてくるんです」

    [TEA FACTORY GEN]高橋玄機さん

    とてつもなく大変な茶づくりにチャレンジしていることが容易に思い浮かぶ。なぜ高橋さんは放棄茶園を開墾し、さらに無肥料・無農薬にこだわっているのだろうか。お茶をいただきながら、たくさん質問したくなる。

    「無肥料・無農薬の分、土地が本来持っているエネルギーがダイレクトにお茶に反映されてきます。僕はその土地が持つポテンシャルに惹かれたんです。実際にお茶の味わいは全く変わってきますね。在来茶には強烈なパワーがあって、味わいがとてもしっかりしているんです」

    3年かけて再生してきた放棄茶園から今年初めて摘んだという手摘み和紅茶「広島藪北手摘み和紅茶」は、雑味が少なく、華やかな香りと香みがちょうどよく口の中に広がっていく。
    この味わいも広島の世羅という土地だからこそ生まれた味だと考えると、とても得難い経験なのだと思い知らされる。

    広島藪北手摘み和紅茶。世羅町で数十年間放置されて山になっていた茶園は、何十年もの草木が腐葉土となり無肥料・無農薬ながらも栄養豊富な土壌だという

    デザイン事務所が始めたお茶づくり[at leafs]

    三重・松阪でオリジナルティーブランドを展開する[at leafs]も、放棄茶園を再生し、無肥料無農薬のお茶づくりをしているという。代表の高杉亮さんはデザイン事務所の社長も務めているそうで、なぜ茶づくりをしているのかがまず気になった。

    「7年ほど前に松坂市の古民家を購入した時に、放棄されていた茶畑も一緒に引き継いだんです。それでせっかくならと思いお茶づくりを始めてみました。近所のおじいちゃんが淹れてくれるお茶がとても美味しくて、それを参考につくったのがこのお茶です」

    そうして注いでくれたのが「AT LEAFS HALF BLACK」。摘んだ茶葉の発酵を促すために傷をつけ、ただただ天日干しするという、とてもシンプルな工程でつくられた発酵系のお茶だ。

    AT LEAFS HALF BLACK
    揉み込む工程がないため、茶葉は煎茶のように細く小さくなっていない

    「1週間ほどかけて乾燥させていくんですけど、日によって香りが全く変わってくるんです」

    中国の白茶に似た製法でつくられたこのお茶は、渋味や苦味が少なく甘味も感じられ、とても飲みやすかった。

    [at leafs]以外にも、松阪市飯高町で農家体験民宿を併設する食堂[奥松阪]の運営など、デザインを軸に地域づくりに関わる事業を手掛けているという高杉さん。[奥松阪]では[at leafs]のお茶が提供されているという。

    地域づくりの起点のひとつに「お茶づくり」を組み込んだ高杉さんの取り組みは非常に興味深いものだ。このお茶が生まれた風景と高杉さんが手がける地域づくりを見に、いつか松阪市を訪れてみたいと思った。

    [at leafs]の高杉亮さん(左)

    自然を呼び戻す[camino natural Lab]

    山梨・北杜からやって来たという[camino natural Lab]は「野香茶」というハーブティを提供していた。聞きなれない名前のお茶だが、そこにはどんな思いが込められているのだろうか。[camino natural Lab]を主宰する上原寿香さんに話を聞いた。

    「camino natural Labでは“Rewilding”というコンセプトのもと、3000坪の耕作放棄地を森へと再野生化する取り組みを行っています。その過程でハーブ、植物などの栽培をしているのですが、そうした森の中で栽培し野生味あふれるお茶のことを『野香茶』と名づけているんです」

    [camino natural Lab]の上原寿香さん。この日のために朝イチで畑から収穫してきたという

    所有する土地の中で1,000坪ほどのエリアを「food forest」と名づけ、お茶・薬草・野菜・果樹などを育てているという上原さん。「food forest」には周辺で暮らす虫や動物も訪れる。しかしそれらを追い払うことは決してせず、その土地に暮らす生物たちと共に育むことを大切にしていると語る。

    「虫や動物がいることで森のバランスが保たれます。増えすぎてしまったものを野生動物は食べてくれますし、虫たちは受粉を助けてくれます。でも放ったらかしにしすぎても多様性が崩れてしまうので、必要に応じて人間の手を加えます。私はそれを“森に手を添える”という言い方をしています。あくまで人間都合ではなく自然に任せる形。こういった環境下で育ったお茶はとても美味しいんです。それをみなさんに是非知ってもらいたいです」

    試飲した「手揉みハブ草茶」は少し豆っぽいねっとりした味わいがした。高知の農家のおばあちゃんたちが自分たちのためにつくるお茶の製法を参考にしたという

    「耕作放棄地」や「無農薬」「有機」など、Tea for Peaceに集まる人々は共通のキーワードを持ってお茶づくりをしているのだと気付かされた。見捨てられていたものの価値をもう一度見直し、面倒で効率が悪くても自然環境としっかりと向き合って、真摯にお茶をつくること。これは決して偶然ではなく、間違いなく未来のお茶づくりに欠かせない態度となってくるのだろう。

    飲み手とのやりとりが次の茶づくりに[駄農園]

    会場にはCHAGOCOROで以前取材させていただいた、静岡・牧之原の[駄農園]のブースもあった。我々が訪れると園主の髙塚貞夫さんと妻の朋子さんが温かく迎え入れてくれた。

    手摘みの釜炒り茶から深蒸し茶、紅茶など幅広いお茶づくりをしている[駄農園]はやはりたくさんの茶葉をこの日も販売していた。その中から試飲用に準備されていた「べにふうき」と「藤かおり」の紅茶をいただく。

    「どちらも農薬を使わずに有機肥料のみで育てたものを、今年9月に手摘みして紅茶にしました『べにふうき』は名前に“べに”とついている通り紅茶向けの品種です。『藤かおり』は南方系の品種が混ざったもので、オリエンタルで華やかな香りと味わいが特徴。同じ紅茶ですが、全く違う味わいだと思います」

    [駄農園]の髙塚貞夫さん。意外にもTea for Peaceへの出店は今回が初めて

    つくり手である貞夫さんの説明を受けながらその場ですぐに飲み比べができると、味や香りへの理解や咀嚼が全く変わってくる。確かに納得できるし、自分の中の感覚がより具体的に言語化されていく。そして自分の飲んだ感想も、すぐに伝えることができる。

    「『藤かおり』はトマトのような香りがしますね」と我々が口にすると、貞夫さんはその感想に少し驚きながらも、好意的に受け止めてくれた。

    「こうやってお客さんと直接話をすると面白いですよね。『そういうふうに感じるんだ』と新鮮な驚きがあります。やはり人間それぞれで感性が違いますから、たくさんの人に飲んでもらうことで我々も勉強になります」

    普段なかなか出会うことのない消費者と生産者。この出会いは消費者にとってはもちろん貴重だが、生産者にとってもお茶づくりにプラスとなる場となっているのである。

    [駄農園]以外にもかつて取材でお世話になった方々が出店されていた。[NODOKA]の洪秀日さん。特選抹茶、抹茶、煎茶、玄米茶、ほうじ茶、和紅茶という全6種のオーガニックパウダーティーを来場者たちに振る舞っていた

    お茶を囲むことで生まれる連帯[茶酔]

    会場中央には畳を並べたスペース「茶場」があった。茶会イベントやポッドキャストなど様々な活動を展開している文化コミュニティ[茶酔(おちゃよい)]が、参加無料・予約不要でただただ集まった人々で“お茶を囲む”「茶坐」を開いていた。

    「お茶酔い」とは熱茶を何煎も飲み続けることで、カフェインやミネラル、温熱効果でリラックスしながら“覚醒”するような感覚になること。[茶酔]発起人の後藤桂太郎さんが台湾でお茶を飲んだ時に、お茶酔いを経験したことが活動のきっかけとなったそうだ。

    「台湾の山の中にあるお茶屋さんに行った時、お茶を飲んでたら気持ち良くなって気づくと何時間も経っていたんです。辺りも真っ暗になっていて、山の中だったのでUberも迎えにきてくれない(笑)。外国で遭難に近い状況になったんですけど、不思議と気持ちはめちゃくちゃポジティブだったんです。その時の感情っていったい何だったんだろうと調べていくうちに『お茶に酔う』ということを知りました。それをみなさんにも体験してもらいたいと思い[茶酔]の活動を始めたんです」

    我々も靴を脱ぎ、畳に座って輪の中に入らせてもらった。
    [茶酔]オリジナルの茶盤を用いて、後藤さんが会場で販売されているお茶を淹れていく。

    [茶酔]の後藤桂太郎さん。普段はテレビ局で働いている
    [茶酔]が秋田の木工職人と共同で制作したオリジナル茶盤。大小2種類のサイズで販売中

    「ここでは皆さんがブースで買った茶葉をカンパしてもらって振る舞っています。集まったお客さん同士でどこのお茶が美味しかったとか情報交換して、それを聞いてまた買いに行く循環が生まれていて面白いです」

    我々がいる間にもいろいろな人が出入りし、[茶酔]が淹れるお茶を飲んで気に入ったお茶を買いに戻る景色が見られた。

    途中からはTea for Peaceディレクターの長谷川愛さんも「茶坐」に参加し、寒空の下、畳の上でお茶を飲む稀有な時間を楽しんでいた。「茶坐」を中心に、誰もがお茶とその場から生まれるゆるやかな連帯を楽しむ空間は、まさしく「Tea for Peace」を象徴するものだと感じた。

    今回紹介した出店者はTea for Peaceに参加した中のほんの一部だが、どの出店者に伺っても、参加したのはディレクターの長谷川さんから声をかけられたことがきっかけだった。
    そうした各出店者への参加依頼だけでなく、当日も朝から出店者やスタッフと連携をとり、滞りなくイベントが行われるよう会場内をあちこち駆け回っていた姿が印象的だった長谷川さん。

    後編では「Tea for Peace」の最重要人物である長谷川さんに話を伺った。

    Tea for Peace|ティー フォー ピース
    2023年11月11日・12日(土日)に第6回目を迎えたお茶の祭典。会場は国連大学中庭。日本全国、世界から100種類以上のお茶が集まった。試飲スタイルで出店ブースを巡りながら、一人一人の好みに合うお茶を探すことができる。
    instagram.com/tea.for.peace
    farmersmarkets.jp/tea-for-peace_05

    Photo by Eisuke Asaoka
    Interview & Text by Rihei Hiraki
    Edit by Yoshiki Tatezaki

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