• 4年ぶりの開催! あらゆるお茶文化が集う「Tea for Peace」
    ディレクター・長谷川愛さんの目指す理想のお茶の場所<後編>

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    「久しぶりの開催だったので、不安でいっぱいでした。当時一緒に運営していたメンバーは、コロナ禍の間にTea for Peaceから離れてしまっていたんです。今回は私がほぼ一人で当日までの運営業務をやらなければならなかったので、最初はすごく心細かったですね」

    4年ぶりとなった「Tea for Peace」の開催前の心境をそう振り返ったディレクターの長谷川愛さんだったが、多くの来場者で賑わいを見せた今回の開催は間違いなく“大成功”と言っていいだろう。実際「今回は今までで一番多くの人が来てくれたと思います」と長谷川さん自身も語った。

    「Tea for Peace」ディレクターの長谷川愛さん。蔵前のお茶屋[norm tea house]の店主でもある

    Tea for Peaceの第一回は2018年の3月に、今回と同じく国連大学広場で「青山ファーマーズマーケット」との同時開催で行われた。青山ファーマーズマーケットは、国連大学前で週末に開かれる野菜や果物の生産者が集う青空市場。この青山ファーマーズマーケットの企画発案者であるプロデューサーの黒崎輝男さんがTea for Peace というテーマを発案し、お茶のイベントの構想が立ち上がった。

    「当時私は(同会場で開催していた)コーヒーのイベントの運営を手伝いながら、趣味でお茶の畑に通っていたこともあり、黒崎さんにTea for Peaceチームに抜擢されました。私を含めてお茶業界とは無縁の女子3人が集められたのですが(笑)、黒崎さんからは『お茶や業界のことを何も知らない子がやるのがいいんだ』と言われましたね。でも初回だったこともあって、イベントは盛り上がったんです」

    しかし、同時に課題も見えた。

    「来場者の皆さんが家に帰ってもお茶を飲んでくれたら、という思いが一番にありました。だからいろいろなお店を試飲して気に入ったお茶を買って帰ってほしくて、ドリンクチケットでお茶を杯売りすることはしませんでした。しかしそれでは私たちの売上も立たないので、2回目まではワークショップを多めに企画したんですが、それでも赤字に終わってしまいました。何よりお客さんもなかなか試飲をしてくれませんでしたね。やはり試飲したらそのお茶を買わなきゃいけないプレッシャーがあったんだと思います。そこで3回目から導入したのが、茶杯のシステムでした」

    前編の記事でもフォーカスした「茶杯」の導入。これがTea for Peaceの大きな転換点となった。3回目からはイベントの雰囲気も今のようになっていったという。

    長谷川さんにお茶を淹れてもらいながら話を伺った

    世界中のお茶との出会いを楽しんでほしい

    そして回を重ねるごとに、長谷川さん自身も“お茶の人々”とのつながりを深めていった。元々、青山ファーマーズマーケットという歴史ある屋外マルシェと同時開催という信頼も後押しとなり多くの出店者が前向きに出店してくれていたが、今では長谷川さん個人との関係性で出店してくれる茶農家も多くなってきている。

    前編で紹介した出店者だけではなく、なんとほぼ全ての店への声がけを長谷川さんが行なっているそうだ。「有機栽培」や「自然さ」をコンセプトにしている茶農家の出店が多いと感じたTea for Peaceだったが、長谷川さんはどのような意図をもって、出店する方々を選んでいるのだろうか。

    「確かにお呼びする生産者さんは有機栽培の方がほとんどです。ただ農家さんの中には慣行栽培しか行えない環境の方もいるので、有機栽培じゃなければいけないというふうには謳いたくないんです。だけど訪れた人たちには『有機栽培っていいな』と感じてほしいという静かな思いも込められています(笑)。有機栽培の重要性はこちらから積極的に発信していかないと、なかなか伝わっていかないと思うので」

    長谷川さんに今回おすすめの店として案内してもらった長崎県東彼杵町の[東坂茶園]も無農薬・無肥料でお茶づくりをしていた。一度は出店を断られたが、粘り強く交渉し出店を了承してもらったという
    [東坂茶園]でいただいた「冬ほうじ」は、冬に備え糖を蓄えた茶の樹から摘み取った茶葉からつくられたもの。温かな甘い香りは冷えた体を癒してくれた

    そしてTea for Peaceのもうひとつ大きな特徴は、一般的な日本の緑茶だけでなく、紅茶、ほうじ茶、烏龍茶、チャイ、発酵茶、白茶、中国茶、ハーブティーなど、世界中のあらゆるお茶が集まっていること。種々雑多な茶文化が、ぶつかり合うことなく調和するこの雰囲気はTea for Peaceというタイトルにも通じるものがある。そのこだわりについても長谷川さんに訊いてみた。

    「他にもたくさんお茶のイベントはありますけど、やっぱり日本茶、中国茶、ハーブティーという感じでカテゴライズされているものがほとんどです。そうしてわざわざカテゴリーにはめることで、イベントの雰囲気自体もこだわりが強いものになって、やや専門的な空気ができてしまうと思います。でも、飲む人からすれば全部が一堂に会していた方が絶対いいと思うんですよね。なんたって全部美味しいので(笑)」

    長谷川さんや黒崎さんと以前から親交のある韓国の[TEATHERAPY]。高麗人参やハッカ、トウキなどの韓方材料を用いて、個人の好みや体調に合わせた韓方茶を提供する
    [TEATHERAPY]では韓方茶のオリジナルブレンドを体験できるワークショップも行われていた

    自身の大きな変化の中で

    前回の開催から4年が経ち、長谷川さん自身にも大きな変化があった。
    まずは自身の店[norm tea house]を持ったことだ。[norm tea house]は、長らくお店を持たずに自由な活動を続けてきた長谷川さんが古民家を改装して2021年にオープンした蔵前にあるお茶屋。これまで年2回開催していたTea for Peaceだが、長谷川さんが自身の店を持ったことで忙しくなったこともあり、今後はもう少しのんびり続けたいという。

    こう聞くとTea for Peaceファンにとっては少し残念に思うこともあるかもしれないが、変化はそれだけではない。もうひとつの大きな変化は、長谷川さんに子どもが産まれたことだ。それによって、今まで持てなかった視点でイベントの企画を考えることができたという。

    「子どもを対象にしたイベントもずっとやりたいなと思っていたんですけど、子どもが産まれる前はどういった内容がいいのかわからなかったんです。でも今回は子どもが何をできるかが自分の体験として既にあったので、会場中央の畳を敷いた茶場を使って『こども茶会』というイベントを企画することができました。子どもたちがあんまんを包んで、蒸してる間にお茶を飲むという内容だったんですけど、念願が叶ってよかったです」

    [norm tea house]の“クラブ活動”として行われている「パオクラブ」が主催した「こども茶会」。「パオクラブ」は「包む」をテーマにいろいろなものを包んでお茶を楽しむ活動を行っている

    子どもたちが正座であんまんを一生懸命に包んでいる様子は、見ているこちらまで思わず笑顔になってしまうようなとても平和な時間だった。今回茶場ではその「こども茶会」と前編で紹介した[茶酔]の「茶坐」が開催されたが、「次回はもっと茶場を有効活用したい」と長谷川さんは早くも先を見据えている。また課題もはっきり見えている。

    「次回はもっとしっかりとした運営チームを作りたいと思っています。今回は多くのボランティアスタッフの方に本当に助けられた会でした。それに、Tea for Peace というものを私一人が担うよりも、例えば他にもディレクターを迎えて会によって雰囲気や出店者さんのラインナップが異ったり、もっと多様なTea for Peaceという人格ができていけば楽しいと思います」

    目指せ、公民館

    「細く長く続けていきたい」

    Tea for Peaceの展望を尋ねると、長谷川さんはそう答えた。

    「親戚が集まったお正月みたいで、毎回すごく楽しいんです。ちょうど前回開催した時に妊娠していたので、今回出店者の人たちに子どもを会わせるのが楽しみでした。主催者と出店者という立場ではなく普通に仲良くなって個人的な付き合いのある方も増えて、ここが再会の場という感じになっているので自分自身も楽しみですし、出店してくれる茶農家さんやお茶屋さんにもそう思ってもらえたら嬉しいです。本当にシンプルに『楽しい』という思いだけでこれからも開催していけたらいいですね」

    会場を回っている時、突然三味線バンドのライブが開催された。長谷川さんに聞くと、黒崎さんの同級生のバンドだという。予告なく始まったライブに多くの人がお茶を飲みながら、畳の上でその演奏に聴き入っている。その牧歌的な風景は、表参道という場所で行われているとは思えないものだった。

    「なんか、いいですね」と口にすると、「私もそう思う、めっちゃいいですよね」と長谷川さんが返してくれた。

    「『目指せ、公民館』なんです」

    長谷川さんはTea for Peaceの場所としての理想をそう語った。この都会の真ん中に“公民館”という発想は面白いと思った。多様な茶文化と多くの人々が行き交うTea for Peaceは、確かに茶文化を“学ぶ”場であり、“交流する”場としての役割を備えている。それはまさに公民館と呼ぶにふさわしいものだろう。

    千差万別のお茶の出会いに満ちたTea for Peace。来年はどんな出会いが待っているのだろうか。次のTea for Peaceがもう待ちきれない。

    長谷川愛|Ai Hasegawa
    幼少期を九州で過ごし、学生時代からのお茶好きが高じて、2018年からイベント「Tea For Peace」のディレクターを務める。2020年以降はコロナの影響で中止となっているが、次回開催への意欲は高い。2017年からお茶のブランド「norm」を始動、2021年11月台東区三筋に[norm tea house]をオープン。
    normtea.com
    instagram.com/normteahouse

    Tea for Peace|ティー フォー ピース
    2023年11月11日・12日(土日)に第6回目を迎えたお茶の祭典。会場は国連大学中庭。日本全国、世界から100種類以上のお茶が集まった。試飲スタイルで出店ブースを巡りながら、一人一人の好みに合うお茶を探すことができる。
    instagram.com/tea.for.peace
    farmersmarkets.jp/tea-for-peace_05

    Photo by Eisuke Asaoka
    Interview & Text by Rihei Hiraki
    Edit by Yoshiki Tatezaki

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