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愛知・常滑の急須作家、伊藤雅風さんの素顔<前編>急須づくりは土づくり
伊藤雅風がふうさんの急須に魅了される人がますます増えている。堂々としたクラシックなデザイン。それでいて、均整の取れたスマートさ。手に取れば、土の表情や質感がダイレクトに伝わってくる。この魅力はどこから来るのだろう? 雅風…
2024.05.17 INTERVIEW茶と器
伊藤
「ロクロ挽きがしたいという方向性というのは見えていたのですが、急須は当時の自分には難しすぎて挑戦すらしませんでした。大学も焼き物ができるところに進学して、それまで地元なのにほぼ行ったことがなかったやきもの散歩道(常滑駅から歩いて行ける距離にある観光スポット)に仲間と行って、初めてまじまじと急須を見たんです。すごさがより理解できるようになっていて、それから自分で作ってみたりし始めました」
急須にのめりこんだのは、「一番難しい焼き物だと思ったから」。それができるようになればどんな焼き物もできるようになるはず、と最高峰に挑むことに燃えたようだ。
大学2年生になる春休みに、大きな縁に恵まれる。常滑急須の名工・村越風月さんに弟子入りが叶うのだ。地元の人間でかつ地元で急須づくりをやろうと考える人に教えたいと願っていたという村越さんにとっても、雅風さんは貴重な存在だったのだろう。
「雅風という名前は、自分の本名から『雅』の字に、大将の名前から『風』をいただいてつけました。雅びな風、ですからね。もっとおじいちゃんを想像していたという人もたまにいますよ(笑)」
独り立ちしてすぐは、なかなか急須が売れない時期もあったというが、その完成度の高さはギャラリストの目に留まり、その魅力は全国へ。今も年に一回だけ開催される個展では入手困難なほど人気を集めている。
多くの人が惚れる雅風さんの急須の魅力は、なんといっても媚びることがない堂々とした美しさだ。その急須が雅風さんの手の中でどう生まれるのか。その姿を見させてもらった。
「こんなサッとつくると簡単に思われるかもしれないですけどね」と雅風さん。簡単そうに見せるのはまさに職人の腕であるし、もちろん今回はデモンストレーションなので、本気の技術は省略されているはず。それでも、一つの粘土の塊から、これほど美しい形が立ち上がるのはもはや魔法のようだった。
普段は1週間単位で制作のサイクルを考えるそうで、つくれるのは20〜30個。早い職人だと80〜100個くらいつくれるそうなので、雅風さんは自分でも言う通りかなり少ない方なのだそう。
焼いてからも、傷があるものはもちろんだが、微妙なバランスやラインの具合に納得がいかず割ることもあるという。「量がつくれないんです」という悩みは本音なのだ。
急須づくりのディテールやこだわりを解説してくれていた雅風さんから突如、鋭い質問が飛び出した。
「いい急須の条件って、何だと思います?」
ええっと、たとえば軽い急須を持つとすごいなぁと思ったり、水がびっくりするくらいきゅっと切れるものとかもありますよね……などとしどろもどろに答える。
すると。
「僕はもっと浅い考えで。『これでお茶淹れたいな』って思わせる急須。もうそれだと思っていて」
いや、むしろ深い!
精密で隙がないとすら感じていた雅風さんの急須。それをつくる本人の口から出る、あまりに鋭い答え。
「常滑には人間国宝の急須がありますが、それが驚くほど軽いかとか、絶対水が垂れないか、蓋が微動だにしないか、といえばそういうわけではない。やっぱりある程度厚みを持たせないといけない部分というのもありますし、全てバランスが大事だと思うんです。職人の世界にいると、できるだけ軽くとか、蓋はぴったりとかという方向に染まっちゃいがちなのですが、一周回って『どうなんだろう?』って立ち止まります。昔の急須に感じる、媚びていない感じが僕は好きなんです」
媚びていない感じ。それは、作家の個性や意志が表れているということだろうか。まだまだ理解は及ばない。しかし、「お茶を淹れたくなるかどうか」という基準は、誰もが自分ごととして持っているといいものだと感じた。急須というとどうしても敷居が高く感じるが、要はときめくかどうか。手に触れてみたい使ってみたいと感じるかどうか、素直に見つめればいいのかもしれない。
最後に雅風さんがお気に入りのお茶を自分の急須で淹れてくれた。静岡県静岡市諸子沢の[黄金みどり茶園]がつくる「焙煎烏龍茶 向日葵」。使う急須はその茶畑の土を使ったものだ。お茶も急須も土がなくては生まれないもの。それを感じさせる究極のペアリングだ。
さらには、同じ茶葉を練り込んだ米粉の急須クッキーも雅風さんの作。料理は雅風さんが担う家事でもあり趣味でもある。でも、雅風さんが一番熱中できることはやはり急須づくり。
急須への愛が溢れる素顔が少し知れて、ますます雅風さんの急須が好きになった。
伊藤雅風|Gafu Ito
1988年、愛知県常滑市に生まれる。常滑高等学校セラミック科を卒業後、名古屋造形大学産業・工芸コースに進み陶芸の基礎を学ぶ。在学中の2009年から村越風月氏に師事。2012年、独立。愛知県常滑市にて制作。2024年12月14〜21日、埼玉・川越市のギャラリー うつわノートにて個展開催。
instagram.com/gafu_ito
Ocha New Wave Fes 2024での特別展示販売決定!
5月25・26日に開催される「Ocha New Wave Fes 2024」では、伊藤雅風さんが京都・宇治白川土でつくる急須などが展示・販売されます。この土は、同イベントに出店する[売茶中村]から提供されたものです。会場では、作品を実際に手に取り、試し注ぎも可能になる予定です。なお販売方式は抽選を予定しております。貴重な機会をぜひ会場でお見逃しなく。
https://onwf2024ticket.peatix.com
Photo by Mishio Wada
Text by Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール