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お茶の可能性を追求し続けるミクソロジーの世界 銀座[Mixology Salon]<後編>
カクテルの材料としてお茶を扱う中で [Mixology Salon]のバーテンダーとしてカウンターに立つ赤坂孝太さんは、2019年に[Mixology Salon]を運営するスピリッツ&シェアリングに入社。それまではホテ…
2024.06.07 INTERVIEW日本茶、再発見
日本を代表する繁華街の銀座。大型百貨店や高級ブランドの路面店が立ち並ぶこのエリアで、2017年にオープンした銀座最大の商業施設GINZA SIXは今年4月に開業7周年を迎えた。最先端のスタイルと真のラグジュアリーを掲げたこの建物の13階に、「お茶とミクソロジー」をテーマに革新と驚きに満ちたお茶のカクテルを創り出すバー[Mixology Salon]がある。
ミクソロジーとは聞きなれない単語かもしれないが、mix(混ぜる)に接尾辞-logy(〜学、〜論)を結びつけた造語で、カクテルの世界においては「自由な発想で、既成概念を飛び越えて想像するカクテルの総称」と一般的に解釈されている。そしてそうしたカクテルを作る人をミクソロジストと呼ぶ。この店のオーナーである南雲
[Mixology Salon]では、煎茶や抹茶、焙じ茶などの厳選した茶葉を使用したカクテルのみを提供している。今でこそ、お茶を使ったカクテルを提供する店は珍しくないが、GINZA SIXの開業とともに誕生した[Mixology Salon]はまさにパイオニア。取材当日に出迎えてくれたバーテンダーの赤坂孝太さんに開店に至った経緯を聞いた。
「まずGINZA SIXは、日本の文化を発信していくことを目指していたので、そのコンセプトに沿ったものとして南雲の中に『お茶』がありました。私たちバーテンダーは常日頃洋酒を勉強していますが、それと比べると日本のカルチャーがおざなりになっているのではという意識もありました。南雲はミクソロジストとして『すべての液体をカクテルにする』ことをミッションに掲げているので、お茶という液体に挑戦することは南雲にとって必然だったのだと思います」
GINZA SIXの13階にはいくつかのレストランとラウンジがあるが、その中でも[Mixology Salon]はひときわ小さな店舗だ。店内にはカウンター6席と2名用のテーブルがひとつ。壁には左官職人によるアート作品が掛けられている。天井から吊るされた照明は薙刀の形をしており、さらに左右で長さが非対称になっている。そして通常、酒のボトルやグラスが並べられているバックバーは戸棚となっており、それらが客席から隠された状態になることで空間の静けさが際立っている。このわずか6.5坪のミニマルな空間に詰め込まれた様々な要素、そして静謐さが、日本の茶室を想起させる。
しかし銀座という立地、このミニマルな空間、そしてお茶をテーマにしたバーということから、何となく敷居の高さを感じる方もいるかもしれない。しかし赤坂さんはこう答える。
「バーではありますが、カクテルだけではなくノンアルコールカクテルももちろんありますし、お茶と和菓子だけでも出しているのでどなたでもウェルカムな場所です。実際、ここは13時からオープンしているので、買い物途中にふらっと休憩する感じで訪れる方も多いですよ」
赤坂さんの柔らかい雰囲気から発せられた言葉に安心感を覚える。
「お茶もバーも一休みするためにあるもの。変に構えず気軽に来ていただきたいですね」
[Mixology Salon]が創り出そうとしているお茶とカクテルの世界とはどのようなものなのだろうか。その世界観をバランスよく体感できる「シグネチャーカクテルティーコース」から、3種のカクテルを赤坂さんに作っていただいた。
最初に出してくれたのは「煎茶ジントニック」。長崎県東
「茶葉をジンに漬けて茶葉本来の味と香りのみを抽出しています。その茶葉が持つ本来の風味を活かしたかったので、ライムは入れず、トニックとソーダを入れたシンプルなカクテルです。トニックだけだとお茶の甘さかどうか判断がつかなくなってしまうので、ソーダを入れることで甘さと炭酸味を調整しています」
2杯目にいただいたのは「焙じ茶ラムマンハッタン」。
「静岡の牧之原産の深煎り焙じ茶を、『ロン サカパ』というグアテマラのプレミアムラムに二日間漬けます。これによって余韻と香りがすごく伸びます。焙じ茶は甘いものと相性が良いのですが、サトウキビが原料のラムとはまさに相性が抜群なんです」
焙じ茶ラムに2種類のベルモットをミックスしたものに少量のコニャックを合わせ、ショートカクテルに注がれたその一杯は、焙じ茶の甘く香ばしい香りに、軽い苦味とチョコレートのような甘味が複雑に絡み合っていた。さらにコニャックのおかげか、余韻が長く続く。
そして味と同様、驚いたのがその繊細なアプローチ。
「まずは氷を少量の焙じ茶でリンス(ゆすぐ)します。氷にいきなりアルコールをぶつけると焙じ茶が“暴れて”しまいます。リンスすることで氷に焙じ茶の香りをつけ、カクテルに馴染むようにします」
リンスした氷にカクテルの材料を入れ、ステアをしていく。このステアもただかき混ぜるのではなく、水が波打ってないかを確認しながら、練るようにかき混ぜる。そうすることで最初のテクスチャーが滑らかなものになっていくという。
最後にステアしたカクテルを、赤坂さんは少し高い位置からグラスへ注いでいく。バーテンダーと聞くと連想されるであろう所作だが、パフォーマンスのためにやっているわけではない。これにもカクテルの質を左右する重要な意味が込められている。
「こうして高い位置から注いでいる時は、ちゃんと液体が練れているかを確かめています。液体が途切れずに伸びていればしっかりステアできているということです」
それぞれの所作に繊細な感覚と理論が詰め込まれていた「焙じ茶ラムマンハッタン」。ミクソロジーカクテルの哲学とその世界の奥深さを強く感じた一杯だった。
シグネチャーティーカクテルコースから最後にいただいたのは「温かい抹茶のゴッドファーザー」。抹茶茶碗で提供されるこのカクテルは、クラシックカクテルと日本伝統の茶道文化が融合した、ミクソロジーならではの革新的な一杯。見た目は抹茶そのものだが、甘いウイスキーの香りが柔らかく漂う。
「抹茶を点てた後、黒蜜とアマレット、そしてウイスキーの『白州』をプレミックスしたものを加え茶筅で混ぜます。黒蜜と抹茶はとても相性がいいですし、アマレットは杏の核を使ったリキュールなのですが、アーモンドのような風味が絶妙に抹茶と絡みます。そして、そこに『白州』。他の銘柄も試しましたが、『白州』が最も抹茶の味を邪魔しませんでした」
先ほど感じた甘い香りはアマレットからきていたものだったようだ。口にすると抹茶のまろやかさの中にアマレットの甘さと白州のコクが見事なバランスで調和している。お互いに良さを活かしながら綺麗にまとまったその温かな味わいは、コースの最後を飾るにふさわしいものだった。
元々はホテルのバーテンダーとして働いていたという赤坂さん。[Mixology Salon]で働くようになり、様々なお茶の世界に触れていく中でお茶の魅力にどんどんハマっていったという。そんな赤坂さんに、お茶をカクテルの材料として扱う上でのミクソロジストの矜持を聞いた。
「いろいろなお茶を飲んでいく中で、確かにお湯でシンプルに飲む方法が一番なのかもしれないと思う時もあるのですが、私たちは常にそれを超えようと努力しています。そのお茶の特徴を活かすために、どんなリキュールやスピリッツを用いるのか、風味の抽出には蒸留がいいのか、漬け込むのがいいのか、日々考えています。それに同じ茶園の同じ品種のものでも毎年質は変わるので、同じメニューでも微調整は繰り返します。お茶の変化を永遠に追いかけ、その可能性の先を常に目指すのがミクソロジストの仕事で、それがとても面白いんです」
ミクソロジストは「自由な発想で、既成概念を飛び越えてカクテルを創る人」。その言葉を真正面から受け止める奥深さがお茶の世界にはあると赤坂さんは語る。後編では、赤坂さんが[Mixology Salon]で働いてから新たに感じたというお茶の魅力や可能性について聞いていこう。もうひとつの看板メニュー「ティーテイル」をいただきながら。
Mixology Salon|ミクソロジーサロン
さまざまな技術を駆使しここでしか飲めないカクテルに仕立てるMixologyが提案する、お茶を専門としたカクテルバー。
東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 13F
13:00〜23:00 (LO 22:00)、定休日はGINZA SIXの休みに準じる
instagram.com/mixology_Salon
赤坂孝太|Kota Akasaka
北海道生まれ。前職ではホテルのバーテンダーとして働いていたが、2019年にスピリッツ&シェアリング株式会社に入社し、ミクソロジーサロンのバーテンダーに。
Photo by Misa Shimazu
Text by Rihei Hiraki
Edit by Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
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