• 今年も新茶を祝う季節がやってきた! オチャ ニューウェイヴ フェス2024を振り返る<後編>

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    4回目の開催となった、新茶の季節を祝う「オチャ ニューウェイヴ フェス 2024」。原宿と北参道の間に移転した会場「JINNAN HOUSE」には日本茶や和菓子などを取り扱う店舗が計6店舗参加、さらにDJブースや急須作家・伊藤雅風さんの作品展示販売など盛りだくさんのコンテンツで賑わった。

    CHAGOCOROでは、2日間にわたって開催されたそんなオチャ ニューウェイヴ フェスを店舗ごとに振り返っていくレポートを掲載。後編では、JINNAN HOUSEの地下一階の様子をレポートしていく。

    地下のフロアに入るとすぐ、6枚の写真展示が並んでいた。これまでのCHAGOCOROの取材から、6人の写真家がセレクトした写真にコメントを添えて展示してあり、写真家の目と言葉を通じて現場の空気が伝わってきた。
    参加写真家(取材先)=太田太朗氏(奥富園)/和田美潮氏(伊藤雅風さん)/大城為喜氏(池半)/朝岡英輔氏(しもきた茶苑大山)/西谷玖美氏(かんたんなゆめ)/清水将之氏(PAUSE & INSPIRE

    初のオリジナルブレンドを携えて
    [TEA BUCKS](代官山)

    代官山の日本茶専門店[TEA BUCKS]も、初回のオチャ ニューウェイヴ フェスから参加している常連。今回は新たなチャレンジを携えた3種類のお茶を提供してくれた。

    「CHAGOCOROさんにも昨年取材に来てもらいましたが(記事)、今年も熊本県の[お茶の富澤。]さんに行って、新茶の収穫をお手伝いしてきました。そして収穫した茶葉で[TEA BUCKS]のオリジナルブレンドをつくったんです。今年で[TEA BUCKS]は7年目になりますが、オリジナルブレンドは初めての試みです」

    そしてなんとそのお茶づくりは、茶葉は手摘み、さらに現代では通常機械で行う揉捻などの「揉む」作業も全て手揉みで行われたという。「相当な時間と労力がかかりました」と店主の大場正樹さんは笑顔で語る。そのお茶づくりにかけた時間のありがたみを感じながら、オリジナルブレンドをいただいた。見た目は深蒸しの濃い色味だが、飲み口はすっきり。「TEA BUCKSらしさを表現した」という言葉にファンは頷いていた。

    そしてイベント出店の際にしか飲めない限定メニューだという[自家製煎茶レモネード]も人気。「自家製レモネードはレモン果汁と4種のスパイス、砂糖をミックスしたものをお茶で割りました。お茶の旨味との相性がとてもいいんですよ」

    自家製のレモンシロップと[お茶の富澤。]の新茶をブレンドした一杯

    ほのかな酸味と新茶の旨味が見事にマッチしている。[TEA BUCKS]のブースのすぐ近くにはDJブースがあり、そこからアンビエントミュージックも流れていた。メロウな音楽と相まったこの爽やかなレモネードは、思わず何杯でも飲んでしまいたくなる飲み心地だった。

    TEA BUCKS
    東京都渋谷区恵比寿西2-12-14
    @tea_bucks

    お茶のロマンを追い求めて
    [売茶中村](京都・宇治)

    昨年に引き続き、京都・宇治から参加してくれた[売茶中村]の中村栄志さん。昨年CHAGOCOROでは店内で製茶を行い“揉みたて”のお茶を提供するという、非常に珍しい営業スタイルを取材しに[売茶中村]を訪れたが(記事)、今回中村さんが用意してきてくれたのはまた異なるベクトルで突き抜けたお茶だった。

    「宇治白川に樹齢300年の在来の茶園がありまして、そこで生い茂る笹を掻き分けながら手摘みした茶葉を、古式の製茶方法で手揉みしました。摘んだ茶葉は一晩萎凋させ、せいろを使って蒸し、手揉みで揉んでいく。そうしてできあがったのが『宇治白川 萎凋煎茶』です。5年ほど前から構想はあったのですが、今回のフェスで伊藤雅風さんが、私が提供した宇治白川の茶畑の土を使った急須をつくってきてくれたので、それに合わせてこのお茶づくりにとりかかりました」

    古典的な製法で大変な手間ひまをかけて作られたこのお茶は、これまで飲んできたお茶と比べて一際香りが強いと感じた。しかしなぜ、徹底して近代以前のやり方でお茶を作ることにこだわったのだろうか。そんな疑問が頭に浮かぶと、中村さんはこのお茶に込めた思いを熱く語ってくれた。

    「煎茶の歴史は今から286年前(1738年に永谷宗円が日本の煎茶製法の基礎となる「青製煎茶製法」を考案)に始まったとされています。当時から生えている茶の木から摘んだ茶葉を昔ながらの方法で製茶し、同じ土で作られた伊藤雅風さんの急須で淹れて飲む。ロマンの中のロマンだと思うんです」

    同じ土から出来たものだけで、お茶を楽しむ。宇治という日本茶のトップブランドの歴史が育まれてきた土地で、伝統と革新を体現する日本茶店を営む中村さんだからこその発想だろう。これぞ、究極のお茶の飲み方なのかもしれない。

    「二煎目がおすすめなんです」と言って、中村さんはもう一杯萎凋煎茶を淹れてくれた。確かに二煎目の方がどことなく飲みやすさを感じる。中村さん曰く「古典的な蒸し方だと均一に蒸気が当たらないので、最初はムッとした香りが出てしまう。二煎目からすっきり飲めてくると思います」

    売茶中村
    京都府宇治市宇治蓮華49
    @baisa_nakamura

    お茶会で語られるべったなさんの哲学
    [a drop . kuramae](蔵前)

    蔵前の日本茶セレクトショップ[a drop . kuramae]の店主である“べったな”こと田邊瞭さん。今年は少人数とじっくり向き合うお茶会形式での参加となった。

    地上から階段で降りたところの少し開けたスペースに、細長いテーブルが一つ置かれ、その周りを椅子がぐるりと囲んでいる。べったなさんを中心にテーブルを参加者で囲み、べったなさんが淹れてくれたお茶をいただきながら、参加者同士で対話を重ねていくものだった。

    “お茶会”とは言うものの、堅い雰囲気のものではない。初めて会う人々同士でも、べったなさんが上手く誘導し、自然と自己紹介が行われていく。出自は違えど、みんなお茶が好き。その共通点だけで居心地の良さが生まれているのがなんとも不思議だった。

    べったなさんはお茶会に参加した海外の人にも伝わるように時折英語も交えながら、参加者にお茶や淹れ方の魅力を語ってくれる。声は穏やかながらも、言葉は熱い。そしてその話が面白い。

    「自分のイメージでは、日本の“お茶”と“茶”って違うんです。“お茶”はドリンクっぽい、バランスがある飲み物。“茶”は茶のエキスが凝縮した、茶葉のスープのような、そんなイメージ。だから茶はバランスが崩れてるとも言えるから、抽出次第で味が変わる。今急須の蓋を開けて抽出してますけど、自分のイメージとしては急須の蓋は温度をキープするためのもの。蓋を開けたらキープしないですよね。要は蓋を開けた状態で抽出をすると、だんだん水温は下がってソフトな抽出になっていく。最初の温度が高い時に出るテイストは欲しいけど、その後味を出しすぎないために、あえて蓋はしない。この感覚わかりますかね?」

    参加者たちもべったなさんの言葉に耳を傾けながら、その言葉が意味するところを自分なりに考えていく。抽出を終え、べったなさんは徳島県三好市[曲風園]の大歩危茶を各々の茶杯に淹れていく。

    「イメージとして、お茶じゃなくて茶の木の味を楽しんでほしいと思ってます。それが一番ナチュラル。テイストとしては、from naturalとfrom human skillという2種類あると思っていて。例えばロースト(焙煎によって生まれる香り)はヒューマン、人がつくった香り。このお茶は人がつくってるけど、ナチュラルに近いもの」

    いただいた一杯は、緑の香り漂う中にほどよい渋みがあった。自然の中で育ったというその茶の木の姿を思い浮かべながら、べったなさんの言葉をもう一度頭の中で考える。

    その後も次々とべったなさんがセレクトするお茶が淹れられ、べったなさんのお茶に対する哲学的な考えやこだわりが存分に語られた。様々なフィールドでお茶の魅力を広める活動をしている“茶人・べったな”だからこその言葉に終始感嘆しっぱなしの時間だった。

    a drop . kuramae
    東京都台東区蔵前4-14-11 ウグイスビル204
    @adrop_kuramae

    「哲学」をお茶でやさしく揉みほぐす
    [余珀](登戸)

    べったなさんと同じスペースを使い、入れ替わりで開催されたのが[お茶と食事 余珀]の正垣文さんによる「哲学とお茶の時間」。お茶を飲みながら哲学について学ぶものかと思えば、さにあらず。ファシリテーターのカズビーさんの軽妙なトークに導かれ、忙しい毎日だと通り過ぎてしまうような問いに立ち止まり考えてみる。参加者同士で考えをシェアして、それぞれの頭の中に起こる気づきを肯定する。その傍らには正垣さんが淹れるお茶がある。そんな“時間”を大切にしたお茶会を堪能することができた。

    正垣文さん。熊本・水俣の[桜野園]の「むかし茶 釜炒り茶」は、昭和初期から種から育ててきた在来種を使ったお茶。畑では化学肥料・農薬は一切使われていない。その優しくて豊かな香りがこの茶会とマッチしていた

    お茶と食事 余珀
    神奈川県川崎市多摩区登戸新町341-5
    @yohaku_japanesetea_cafe

    新たな寿司体験を提供する
    すし作家 岡田大介さん(福岡)

    キッチンカウンターでは、お茶のイベントには珍しいと思うかもしれないが寿司が振る舞われていた。以前CHAGOCOROでも取材した(記事)、すし作家の岡田大介さんがこの日のために福岡から参加。長崎で釣ってきたという魚をネタにお茶に合う寿司を出してくれた。

    今回岡田さんが握ってくれたのは、ヨコスジフエダイ・イサキ・キビナゴの3種。

    「ヨコスジフエダイには麺つゆのベースになるかえしをつけて握っています。イサキは醤油漬けにして、上に『すじ青のり』という海藻をのせています。ヨコスジフエダイとイサキは自分が釣ってきました。銀色の寿司はキビナゴのおから寿司。高知県の郷土料理です。これは米ではなくおからを酸っぱくして寿司に見立てたアイデア寿司。全部味がついているのでそのまま召し上がってください」

    普段あまり目にしない寿司ばかりだったため、どんな味がするのだろうと思いながら口にしたが、どれも味付けとネタと酢飯の調和が絶妙で、とても美味しい。キビナゴのおから寿司は特に未知数だったが、口の中でくずれるおからとしっかりとした弾力のキビナゴが混ざりあう独特な食感が面白いだけでなく、本当におからなのか?と思うほど満足感ある美味しさで驚いた。

    さらに寿司のお供にとお隣りの[売茶中村]が淹れてくれたお茶は、岡田さんが釣ってきた魚と同じ九州・鹿児島のさえみどり。寿司の余韻を全て消し去るわけではなく、うまくその余韻と溶け合うような飲み口が素晴らしかった。

    左手前からヨコスジフエダイ・イサキ・キビナゴ

    そしてもうひとつ気になったのがイサキの上にのったすじ青のり。香ばしい匂いが醤油漬けのイサキの風味と相乗効果を生み、これも絶品だった。こんなに海藻が香ばしいことに驚いたのだが、実は岡田さん、最近は海藻にハマっているという。

    「名刺にも海藻料理研究家と書かせてもらっているんですが、SEA VEGETABLEという海藻を研究する会社に料理人の立場で関わらせてもらっているんです。日本は海藻がとても豊富な国で、1,500種類もあるのですが、その中で食べられているのはわずか十数種類ほど。海藻って栄養も豊富でもっと食べられていい食材なのに、あまりその魅力がちゃんと伝わってない現状があります。そしていろいろな問題で実は海藻が減ってきているんです。そうした問題に立ち向かうため、料理人の立場から海藻の魅力をもっと伝えていこうと今動いています」

    すじ青のり以外にも、岡田さんは寿司の横に置かれたガリに「とさかのり」という海藻を使用していた。トサカに見た目が似ていることからその名がついたというとさかのりは、酢に漬けると食感がブリブリっとしたものになり、少し和えられたザクっとした生姜の食感との相性が抜群。このガリのおかげで寿司を食べた後のお口直しの時間がいつもより楽しく、美味しいものになった。海藻が入るだけでガリの彩りも食感も変わり、寿司全体の味わいの印象にも変化を及ぼすことがとても面白い体験だった。

    岡田大介
    @okadadaisuke_sumeshiya

    茶香炉で各店の新茶の香りを楽しむ部屋「茶ノ香」が会場隅に設けられた。芳醇なお茶の香りに包まれた空間で来場者はリラックスしていた

    二日間ともに地下ではライブ演奏/DJが行われた。25日は[かんたんなゆめ]のオーナーでもあるSeihoさん、26日はOtömika and Friendsが出演。Seihoさんの自宅でのお茶時間を撮影した「ファーストプレイスで、お茶を」(記事)でも登場した、モジュールシンセサイザーによるアンビエントサウンドは終日鳴り続けた。Otömikaは同企画で映像の作曲を担当。今回は自らのライブセットの他に、DJ陣をオーガナイズしてくれた。

    こうして2日間、大盛況のまま幕を閉じたオチャ ニューウェイヴ フェス2024。

    夜からは地下の空間では「CHA BAR TIME」と銘打ち、日本茶のカクテル&モクテル、そしてタコスが振る舞われ、来場者とともにオチャ ニューウェイヴ フェスに参加した各出店者たちもそこに集い、それぞれの労をねぎらっていた。

    代官山で毎週土曜日にバーを開く[BAR KÜRO]の黒澤暁慈 さんは、煎茶・和紅茶・ほうじ茶をそれぞれ使ったカクテル3種+モクテル1種を披露
    25日夜に食事を振る舞ったのは、シェフの中村拓登さん・妻で猟師の麻矢さんによる「中むら食堂」。「卯の花いなり」と「熊の山椒煮」というさすがの実力派料理
    2日目の夜はタコスで締め。ポップアップタコス「Sanpuc Tacos」の村松さんが地球の反対側の味を届けてくれた

    今年は会場が新たになっただけでなく、[a drop . kuramae][余珀]による対話を重ねるお茶会が開かれたり、[TEA BUCKS]や[売茶中村]が初めてつくったオリジナルのお茶を用意してきてくれたりと、確かな“ニューウェイブ”を感じさせる瞬間が溢れていたと感じた。

    最後に、終始楽しそうに1階と地下を行き来して、お土産の茶葉もたくさん買っていたアレックスというお茶好きさんが、帰り際に放った言葉が忘れられない。

    「このフェスは本当に楽しい! 全部食べたい全部飲みたい。それは1日や2日じゃ難しい。1週間いりますね。本当楽しい場所だね」

    Thank you, Alex!

    また来年もこの言葉が聞けるような、そんなお茶に触れる喜びに満ちた場所が生まれることを願おう。

    Photo by Misa Shimazu
    Text by Rihei Hiraki
    Edit by Yoshiki Tatezaki

    Video Director: Kenta Matsuo (SlapStick)
    Editing: Johan Taga

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