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すべてはグッドタイミング。お茶の未来を前向きに見つめる 静岡[GOOD TIMING TEA]和田健さん<後編>
“本当にどうしようもなかった”20代前半 [GOOD TIMING TEA]オーナーの和田健さんは、同店をオープンする前に静岡の人気コーヒーショップ[hugcoffee(ハグ コーヒー)]で働いていたということは前編で触…
2024.07.05 INTERVIEW日本茶、再発見
静岡駅から歩いて10分ほど。静岡市街地の中心から少し外れた「鷹匠(たかじょう)」というエリアは、徳川家康が晩年を過ごした駿府城の東側に位置する。徳川家に仕えていた鷹匠(鷹狩り師)が住んでいたことにその名が由来するこのエリア。大きな商業施設と隣接していながらも落ち着いた雰囲気の街並みの中に、個性的な店舗が点在しており、近年は感度の高い人が集まるエリアとして注目を集めている。
そんな鷹匠に昨年11月、日本茶カフェがオープンした。Instagramを見るとオーナーはかなり若そうな方で、静岡の中心にできたその新たなお茶カフェに興味を惹かれた。お茶の一大産地・静岡で、若きオーナーはどのような想いで店を開いたのか。その空間を実際に体験して、直接お話を伺うべく[GOOD TIMING TEA]に向かった。
商業施設と鉄道の駅が一体となった「新静岡セノバ」を横目に、そこから伸びる線路を越えたすぐ近くの路地に、その店はあった。閑静な路地ではあったが寂れた印象はなく、開放的な印象がその路地にはあった。そして、その開放的な印象はこの[GOOD TIMING TEA]のおかげかもしれないと、到着後すぐに感じた。晴天のこの日、正面の大きなガラス戸は開け放たれ、外からの風が店内に心地よく入ってくる。店の中央に設けられたキッチンにいたオーナーの和田健さんとは、すぐに目が合った。
朝の9時から営業が始まっており、店内にはすでに腰を据えて落ち着いた様子のお客が数人。和田さんはカウンター席に座るお客さんと談笑している。その姿を見て、あぁいいお店だなと直感した。
早速、和田さんにお茶を淹れてもらうことにした。和田さんの実家は静岡市の製茶問屋[だるまや和田清商店]。店で扱う茶葉は全て[だるまや和田清商店]で火入れ・ブレンドしたものを仕入れている。メニュー表には緑茶や釜炒り茶、和紅茶といったストレートティーから、牛乳を用いたお茶のラテやシェイク、「TEA PARADISE」と称したハーブ類とのブレンドティー、さらにはジュースにコーヒーまで並び、バリエーションが豊か。いい意味で“お茶だけにこだわらない”メニュー構成に、まず新鮮さを感じた。
まずは、せっかくこの季節に訪れたのだから、とおすすめの新茶を淹れていただいた。
「とにかくお茶に対する敷居を低くしたかったんです」
客足が少し落ち着いたタイミングで、この店に込めた思いを聞くと、このような答えが返ってきた。「敷居を低く」とはどういうことなのだろうか? そんな疑問がふと浮かぶと、和田さんは前職の経験を語り始めた。
和田さんは[GOOD TIMING TEA]をオープンする前の約7年、静岡で人気のコーヒーショップ[hugcoffee(ハグ コーヒー)]で働いていたという。
「静岡と言えばお茶と思われるかもしれませんが、消費量でいえば実はお茶よりコーヒーの方が多いんです。お茶をつくる人はたくさんいますが、ライフスタイルの中で飲む人はそれほど多くない。それは静岡だけじゃなくて国内全体で見てもそういう傾向ですが、お茶屋の人間としてそこに対してのコンプレックスはすごくありました。[ハグ コーヒー]で働いてみると、余計にそれを感じましたね。[ハグ コーヒー]では、いろんな文化が行き交う感じがしましたが、お茶にはその感じはない。お茶の業界に取り入れられそうなところは学びつつ、お茶とコーヒーの違いを考える日々でした」
そんな中、ある日[ハグ コーヒー]の代表・古閑大士さん(酒井隆介さんとの共同代表)から言われた言葉にハッとさせられたという。
「『コーヒー業界から見ると、お茶業界は努力してるように思えない』と言われたんですよ。僕は『いや、お茶だって頑張ってますよ』と言ったんです。そうしたら『お茶にミルク入れてる? コーヒー見てみろよ、ミルク入れてキャラメル入れてチョコレート入れてる。これは努力だろう。お客さんにどれだけ飲んでもらえるかを必死に考えてるんだよ』と言われたんです。今でもその時のことを思い出します。お茶業界はとにかくお茶屋がおいしいと思うお茶をつくって淹れて、これがおいしいんですと必死に説明するのが良しとされている印象がある。でもそれってお客さんに本当に寄り添っているのかな?と改めて考えるようになったんです」
和田さんは自身のことを「あまりプライドがないタイプなんですよね」と評す。それは、素直さの裏返しだろう。意固地な性格なら社長の言葉に反発心を覚えそうなものだが、和田さんは素直に受け止めて、どんな部分で努力ができるのかを考えた。
「逆に言えば、お茶には伸びしろがあるなとも思いました。お茶の見せ方や飲み方などは特に工夫できる部分があるなと」
確かに改めてメニューを見ても、その言葉の意味が伝わってくる。ラテやシェイクなどのお茶を活かした様々なドリンク、さらにはお茶以外のメニューも豊富にあることで、お客さんが[GOOD TIMING TEA]を訪れる敷居はグッと下がる。しかし当然、淹れ方にこだわり、茶葉の味を活かすことにも余念がない。
「『敷居は低く、商品は誇り高く』というキャッチコピーを自分の中では掲げています(笑)。やっぱり店が伝えたいことよりも、まずお客さんが喜んでくれることが一番なので。お客さんを置いてきぼりにはしたくないですね」
そして、開放感ある店内にも「敷居の低さ」のエッセンスが散りばめられているように感じた。元々は50年以上に渡って地元民に親しまれた喫茶店だったという場所をリフォームした空間は、誰もが入りやすく、過ごしやすい雰囲気で満ちていた。取材中にも、常連の方は絶えず訪れていたし、おそらく初めての方も気軽に店内を覗いていた。そして何より、店内は常に会話で満ちていた。
「空間のデザインで一番重視したのは『お客さんが出したい声量で喋れる空間にする』ということでした。勉強も兼ねて普段からいろいろな飲食店に行くんですけど、小さい声で喋らなきゃいけないことがあるじゃないですか。お茶屋さんもそういうお店がけっこう多いイメージがあって。自分が声大きいのもあるんですけど(笑)、そういうお店だといづらくなってしまうんです。店員さんに喋りかけるのも緊張するし、お客さん同士の会話も生まれづらい」
「この[GOOD TIMING TEA]という場を持つメリットは、いろんな意味でのハブになれることだと思っているんです。例えばお客さんが僕たちに、香駿について聞いている場面があったとして、隣の人が『私も香駿好きなんです』という一言が出てくるかどうかのきっかけを与えられるのが、この場の役割だと思っています。お客さんが喋りづらいと、そこでコミュニケーションは止まってしまいます。お客さんが喋りやすくて、ストレスなく過ごせる、つい長居してしまうような空間を意識しました」
カウンター席はいつの間にかお客さんで埋まっていた。常連と思しき人とスタッフの何気ない会話が聞こえてくる。奥の畳の小上がりには年配の女性のグループが座っていて、そちらからも楽しげな笑い声が響いている。全員が活発に喋っているかと思えば、壁際の席には1人静かにお茶を愉しんでいる人もいる。それぞれがそれぞれの過ごし方でこの空間を楽しみに来ているのが伝わってくる。
「お客さん一人ひとりが、このお店に入った時より帰る時の方がちょっと気分が良くて、元気になってくれたらいいなと思っています。ただ、そのためには液体としてのお茶の魅力だけでは、今の僕では難しいと考えているので、この店の空気感やスタッフやお客さん同士との会話、そうしたいろんな要素も含めて感情を動かすことができればいいなと思っています」
お客さんが帰る時、必ず和田さんやスタッフは店の外まで出てお客さんを見送る。そこでもまた会話が生まれる。そして誰もが笑顔で帰っていく。オープンしてまだ半年ほどだが、和田さんが店に込めた思いは既に体現できているように感じた。
製茶問屋の家に生まれながら、お茶だけの魅力にこだわらず、お茶をどう広めていくかという視点から「場」のあり方を突き詰めていった和田さんのその考え方を面白いと思うと同時に、和田さん自身についてももっと知りたくなってきた。後編では和田さんのこれまでの歩みと、未来の展望についてさらに伺っていく。
和田健|Ken Wada
1991年、静岡市の製茶問屋[だるまや和田清商店]の長男として生まれる。大学を中退後、実家で働いた後、静岡市のコーヒーチェーン[ハグコーヒー]にて7年ほど勤務。2023年11月、鷹匠エリアに[GOOD TIMING TEA]を開業。
GOOD TIMING TEA
静岡市葵区鷹匠2-17-3
9:00〜21:00、年中無休
@goodtimingtea_shizuoka
Photo by Takuro Abe
Text by Rihei Hiraki
Edit by Yoshiki Tatezaki
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