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日本茶の“可能性”を追求した10種のブレンド 茶 麻布台[SABOE TOKYO]櫻井真也さん<前編>
2023年冬に開業し注目を集める麻布台ヒルズ。敷地内には商業施設、オフィス、レジデンス、ミュージアム、ホテル、インターナショナルスクールといった様々な都市機能が内包されているほか、約6,000m2の中央広場など至る所に緑…
2024.08.09 INTERVIEW日本茶、再発見
今春、麻布台ヒルズに[SABOE TOKYO]をオープンした「茶方薈」は、日本料理店[八雲茶寮]や和菓子店[HIGASHIYA]など、日本の伝統的な美意識や手法を基に、現代の日本文化を食やものづくりを通して発信してきた[SIMPLICITY]代表の緒方慎一郎さんが2016年に立ち上げた、新たな日本茶の愉しみ方を追求していく組織だ。茶方薈には「一般社団法人茶方薈」と「SABOE株式会社」の二つの顔があり、取り組む事業によりその名を使い分けている。簡単に言えば、一般社団法人は非営利の活動、株式会社は営利の活動。いずれの事業にも共通するのは「日本茶業界ひいては日本文化全体の発展に貢献するという思い」だと櫻井真也さんは語る。
「我々がやりたいことは日本茶の良さを広く知らしめ、日本の文化の発展に寄与し、次世代へ繋いでいくことです。その活動のためにまず一般社団法人としての茶方薈があります。そこでは、日本茶の産地や製法、味わいの違いといった日本茶の魅力を紐解く講座『茶学の会』など、お茶の啓蒙活動に努めています。しかし、それだけでは業界の発展には足りません。我々の活動を通じて利益を生み出し、それを茶農家さんや茶器をつくっている方々に還元することも必要だと考えています。そのために茶葉の製造や販売などをこれまでSABOE株式会社で行なってきました」
今回の[SABOE TOKYO]は、SABOE株式会社の事業ということになる。「SABOE」の名前を冠した初の実店舗となるこの店舗。前編ではその“顔”となるブレンドティー「T., Collection」を紹介したが、後編では奥にあるテイスティングカウンターでお茶をいただきながら話を聞いた。
茶方薈がセレクトした日本各地の希少なお茶を、目の前で淹れていただきながら有料で試飲することができるこの場は、入口側に配された「T., Collection」をきっかけに日本茶に興味を持った人や、元々日本茶が好きな人がさらなる日本茶の奥深さに触れられる場でもある。決して大きな店舗ではないが、この奥行きは見事と感じざるを得ない。
今回は、静岡県足久保産の釜炒り茶「香寿」と高知県大豊産の後発酵茶「碁石茶」を淹れていただくことにした。
茶器を用いて、丁寧な所作でスタッフの方がお茶を淹れていく。お茶とともに継承・発展してきた茶器の美しさに魅了されるとともに、それはその道具にふさわしい所作があって初めて輝く美しさであることも知る。このお茶を淹れていただくという時間は、長い時間をかけて洗練されてきた日本の文化の美意識の一端を知る時間でもあるのかもしれない。
このテイスティングカウンターで過ごす時間によって、日本茶だけにとどまらず、一歩踏み込んで日本の伝統文化自体にも興味を持つ人も出てくるかもしれない。
櫻井さんは日本茶の魅力を発信することは、日本の文化全体を活性化させるということに繋がると考えている。
「日本茶=日本の文化の象徴だと私たちは思っています。日本茶の周辺には茶器もあるし、和菓子もあるし、書もあるし、花もあるし、香りもある。深く日本茶を知っていけばこれらの文化にも行き当たると考えると、我々が掲げているのは日本茶ですが、日本の文化を発信しているも同然なんです。だから日本茶の魅力を発信していくことは、日本文化の活性化にも繋がっていくはずなんです」
「T., Collection」をはじめ、日本茶の魅力をどのように世界へと発信していくかが随所に意識されていると感じた[SABOE TOKYO]だが、日本茶の新たな愉しみを追求し創造してきた櫻井さん自身は、どのような意識でこれまで日本茶の魅力を広めていこうと考えてきたのかを訊いてみた。
「基本的には新しいことをしようとは考えていないんです。同じ嗜好品であるコーヒーやワインなどの潮流も意識しつつ、昔ながらの日本茶の文化を踏まえることが私たちのスタンスです。ただ、それだけでは残っていかない日本茶文化というものもやはりあります。そこで“足りないと感じる部分”があれば、その必要なものを自分でつくっていこうという意識でこれまで様々なことを行なってきました」
そう言われてみれば「T., Collection」の味わいはどれも新鮮で新しい驚きがあるが、茶葉を合組してスタンダードをつくりつづけるということは、まさに昔からお茶屋が行なってきたことでもある。
「結局は昔の人たちとやっていることはさほど変わらないんです。昔の知恵と技術をリスペクトしつつ、自分たちの目指すものに合わせて少しアレンジしているだけなんですよね」
お茶業界を変えてやろう、という思いではなく、お茶業界に足りない、ほしいと思ったものを自らの手でつくっていくという意識はキャリアの初期で培われたものだと櫻井さんは語る。
「自分は2000年代前半に[HIGASHIYA]で働くようになってから、そこで初めて日本茶とちゃんと向き合うようになりました。そして、それまで見落としていた日本茶の魅力に気づくようになると同時に、日本茶業界の衰退も見えてきたんです。だけど勤めていた[HIGASHIYA]にはたくさんの人がお茶を求めて来る。そこに一種の矛盾を感じるようにもなりましたし、日本茶業界の状況に危機感も覚えて[櫻井焙茶研究所]を始めました。当時は日本茶を学びたいと思っても、勉強できる場所がなかったですし、『今のお茶業界に足りないものは自分の手で生み出していくしかない』と思ったんです」
「[櫻井焙茶研究所]で始めた『煎茶ジン』をはじめとする茶酒は、お酒を扱う人やお酒好きの人にも日本茶の魅力が広まったいい取り組みだったと思います。閉鎖的な部分もあるお茶業界ですが、そこに自分たちがどんどん新たな風を入れていけば、新規参入も増えていく。そうして業界全体が盛り上がっていけばいいと考えていつも活動しています」
SABOEは今後の拡大に向けて動き出している。近く福岡県と岡山県で新たに店舗をオープンする計画が進行中で、また年内には海を越えパリで「T., Collection」を販売する予定があるという。
「ここからもっと日本茶が世界に広がっていくと思います。そして『T., Collection』を飲んで気に入ってもらえたら、日本に来て[SABOE TOKYO]や[櫻井焙茶研究所]、[HIGASHIYA]など他のお茶の店、あるいはお茶の産地を訪れようと思う人がきっと出てくる。『T., Collection』が日本茶の奥深さに触れるきっかけになってもらえたら嬉しいですね。そしてお茶を愛する人たちが増えて、お茶の仕事がかっこいいと思われて生活がしっかり成り立つようになれば、茶農家の方たちだって家業を残そうと考えやすくなるかもしれない。そうなるにはまだ時間がかかると思いますが、この[SABOE TOKYO]からその流れを生んでいければなと思います」
ここ[SABOE TOKYO]を足がかりに、さらなる日本茶文化の発信を本格化させている茶方薈。約束していた取材時間を超え、開店時間がやってくると早速海外の方がお茶を買い求めに来た。改めて、世界で日本茶への関心が高まっていることを実感させられる。
日本茶が入口となり、世界に日本の文化がもっと広がっていけば、それは日本の文化の担い手たちを守ることにも繋がっていくのだろう。間違いなく[SABOE TOKYO]は日本茶の、そして日本の文化の未来を守るという壮大な使命を背負った場所なのである。
SABOE TOKYO|サボエ トウキョウ
10種類のブレンド茶「T., Collection」のほか、羊羹やカステラ、豆菓子など日本茶と相性のいい[HIGASHIYA]の和菓子、急須や湯呑などプロダクトブランド「Sゝゝ[エス]」の茶器も取り揃えている。奥のテイスティングカウンターでは全国各地からセレクトした希少品種を試飲できる。
東京都港区麻布台1-2-4 麻布台ヒルズ ガーデンプラザC 1F
11:00〜20:00、定休日は無し
saboe.jp
櫻井真也|Shinya Sakurai
和食料理店[八雲茶寮]、和菓子店[HIGASHIYA]のマネージャーを経て2014年に独立、日本茶の価値観を広げて新しい愉しみ方を提案すべく、東京・南青山に日本茶専門店「櫻井焙茶研究所」を開設。「ロースト」と「ブレンド」を基とし、各地より厳選した日本茶をはじめ、店内でローストした焙じ茶や、国産の自然素材を組み合わせた四季折々のブレンド茶を販売。併設の茶房では、玉露や炒りたての焙じ茶はもちろんのこと、櫻井焙茶研究所ならではのお茶のコースや茶酒などを和菓子とともに愉しめる。一般社団法人 茶方薈では、現代における茶の様式を創造し、継承していくための活動として、国内外における呈茶やセミナーを行うほか、メニューの企画・提案、淹れ手の育成などを担う。
instagram.com/sakurai_tea_shop
Photo by Masayuki Shimizu
Text by Rihei Hiraki
Edit by Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール