あらゆることを繋ぐお茶の力を信じて三重[而今禾 Jikonka]米田恭子さん<前編>
2021.11.23 INTERVIEW茶のつくり手たち
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広島にずっと会いに行きたいと思っていた茶農家がいた。
[TEA FACTORY GEN]の髙橋
ネットなどの情報から、髙橋玄機さんは広島県のほぼ中央に位置する世羅という地域で、樹齢が60〜70年にもなる在来の茶畑を無農薬・無施肥で育てている、ということを知ることはできる。そのお茶を「そこにしかないお茶」と評する声もある。では果たして、そのお茶はどんな場所で生まれるのか。
日ごとに暑さ増す8月上旬。[TEA FACTORY GEN]の工場と茶畑を訪れ、その答えを探った。
広島県世羅郡世羅町は、広島市街から約70km(車で1時間ちょっと)離れたところにある。梨や松茸、お米などの農業が盛んな地で、標高400m前後の台地である世羅は積雪もよくある地域なのだそうだ。
およそ90年ほど前からお茶の栽培が盛んになり、「広島といえば世羅茶」とその名が知られていた。しかし、世羅の茶産業は1990年ごろには下火となり、玄さんが世羅でお茶づくりを始めた8年前の2016年、多くの畑は放棄茶園となっていて、茶工場は廃墟同然に荒れ果てた状態だったという。
[TEA FACTORY GEN]の茶工場は元々、約70年前に設立された「津久志製茶工場」の建物だったと玄さんは教えてくれた。
「最近見つけた世羅茶の歴史について書かれた文献があるのですが、ここにも『大正ごろから煎茶生産が始まって、津久志製茶工場が昭和30年(1955年)に設立され、世羅茶は本格的な生産期を迎えた』ということが書いてあります。自分がこの建物に出会ったのは2019年。紹介してくれた役場の方は『工場はあったけど、使えるような状態じゃないですよ』と言っていたのですが、僕はその日すぐに譲り受けることを決めました」
2016年から世羅の茶畑でお茶づくりをスタートさせていた玄さんだが、最初の3年は他の工場を借りて製造していた。そうするとどうしてもさまざまな制約があり、自前の茶工場は念願だったわけだ。しかし、手に入れた工場には大量の廃棄物が残っている状態で、リノベーションはいわばマイナスからのスタート。しかも茶時期まで期間がなかったこともあり大変な思いをしたのだという。そんな苦労話をまるで面白エピソードを話すかのように笑いながら語るところに玄さんの人柄が表れている。
「お茶淹れましょうか」と、玄さん。まずは「広島在来和紅茶」をいただくことに。
柔らかい甘さがやさしく口に広がり、後から香ばしさをともなってふわっと香り立ち、甘い余韻が残る。体中にふわ〜っと入ってくる感じがする。
身も心も落ち着いたところで、玄さんの経歴を聞いてみる。
玄さんは広島市の出身。お茶が家業なわけでもなく、お茶のことを意識し始めたのは二十歳を過ぎてから、海外留学を経て日本の文化を見直すようになったことがきっかけだった。千利休、
「辞めた当時は『もうお茶じゃないかな』って思っていましたね。でも、手伝いをしているうちに『いやお好み焼きじゃない!』って思ってきて(笑)、お茶のお店を自分でやりたいと思い直しました。でも、それを父に伝えたら『笑わせるな。わしゃお前のところじゃお茶買わんよ。生産の経験もないくせに、どの口がほざいとるんじゃ!』って言われて。たしかに、と思ったんです。ちゃんと生産現場に入って一から学ばないといけないと。それで出会ったのが鹿児島の[西製茶工場]でした」
[西製茶工場]といえば、鹿児島県霧島市で有機栽培の抹茶などを生産している一大製茶場だ。玄さんは、まずは見学からと鹿児島まで足を運んだそうだが、現地で供されたオーガニックの抹茶に衝撃を受けたのだそう。
「これ本当に有機なんですか?って何度も聞いちゃうくらい美味しかったんです。その場で働かせてくださいと言いました。『明日から来ていいぞ』と言っていただいて。『でも骨を埋める覚悟で来い』と言われて、『はい! やります』って返事しました」
有機栽培のために一切の妥協がない[西製茶工場]では、製茶から設備造営まで、身を粉にして働く日々だった。エピソードを聞くとよっぽどキツそうに感じるが、玄さんはやりがいを感じていたようだ。
「西さんのところで経験していなかったら、お茶ってなんとなく牧歌的でやさしいみたいなイメージをそのまま持って、結果的にお茶を舐めていたかもしれないなと思います。生産者さんの大変さが身に染みてわかりましたから。お茶、全然甘くないって」
その経験はお茶を生業にするという覚悟をリアリティあるものにし、自分自身のお茶づくりに向き合わせてくれるものだった。そんな中で出会ったのが、自然栽培のお茶だった。
「当時、いろいろなお茶を自分で取り寄せて飲んでいた中で、無農薬・無施肥・在来のお茶を飲んだらまた衝撃を受けたんです。このお茶、何?って。旨みはないけど、水みたいに入ってくる。自然農法について知っていくうちに、自分はこういうことがやりたい、と」
[西製茶場]を離れた後、長野県にある自然農法国際開発研究センターで学んだ他、各地の自然栽培の茶園に足を運び知識を深め、地元・広島で自然栽培にうってつけの茶畑と出会うことになった。
ここで、もうひと種類、面白いお茶を淹れてくれた。冷凍庫から真空パックを取り出すと、その中には2年前に収穫した生葉がそのまま冷凍保存されているという。その“生の葉っぱ”を取り出し、お湯を差す。爽やかな香りをまとった湯気が立ち上った。
お湯に葉っぱをつけただけ、のはずなのにこんなにいい香りがするものなのか。飲み込むと、少しミントのようなすうっとした清涼感。温かい液体なのに、身体が涼しくなる気がした。
「これが一番美味しい!」と破顔する玄さん。つくり手ならではのユーモアにも感じるが、その裏には“お茶”に対する玄さんの見方が覗いている。
「これも“お茶”だし、玉露や抹茶も“お茶”だし。それが面白いですよね。僕も業界に入ったときは、煎茶と玉露と抹茶しか“お茶じゃない”と思っていたタイプでした。生きているお茶を間近で見るようになってから自分自身変化していって、お茶ってすごく面白い嗜好品だなって思い始めました。畑に行くまで、雑草が生えるとか、木が病気になるとかって全然考えていなかったですからね」
茶の木が生きていること、そしてその周辺には雑草と呼ばれる草木や昆虫たちが生きていること。これは玄さんのお茶づくりを理解するのに一番と言っていいほど重要なことだ。
茶工場から車を走らせ、茶畑に向かった。[TEA FACTORY GEN]の収穫は、一番茶のみ。つまり初夏の新芽だけを摘み、それ以上収穫することはない。肥料を加えない自然栽培では、採りすぎないことが肝要だ。
では、収穫が終わった8月のこの時期、玄さんは畑で何をしているかといえば、雑草との戦いに他ならない。
茶の木を覆い隠すほどシダ系のものや笹など種々の雑草が茂る。シダは気持ちいいくらいすっと抜けるが、笹は固く根を張り手で抜くのは到底不可能。鎌で根本から刈るしかないという。
「もうすごいでしょ⁉︎ 2週間も経てば雑草で畑の景色は様変わりしてしまいます。もう少し涼しければ頑張れるんですけど……秋まで来ないようにしようって思うこともありますよ。森に還る力がすごい。でもこれだけ雑草が生えるってことはお茶も育つということだと、プラスに考えるんです」
堆肥はもちろん落ち葉さえ、別の場所から持ってきて畑にまくということはしない。その場に生えていた雑草を伐採して、その土の上に置いておくだけだ。自然の営みに任せた農法を「誰でもできますよ」と言う玄さん。理論と実践が違うという、これ以上ない例だと思う。
「最初はどんな形であろうと茶畑がほしかったので、なんでもできると思っていましたね。今大変さを知った状態でこれを見たらちょっとやめておこうかなって思うかもしれないです」
そう冗談を言って笑う玄さんだが、もちろん、“ここにしかないお茶”を諦めるつもりは毛頭ない。むしろ自分にしかつくれないお茶を常に求めている。
「農家じゃないとできないことを意識してやっていかないと存在意義がなくなっちゃうので、なんでもまずはチャレンジですね」
そんな玄さんがつくる面白いお茶をもっと飲んでみたい。後編では、尾道で営む茶屋[TEA STAND GEN]に場所を移して、玄さんのオリジナリティ溢れるお茶づくりについてさらに伺おう。
髙橋玄機|Genki Takahashi
1988年、広島市生まれ。2016年広島県世羅郡で在来茶を栽培・製造する[TEA FACTORY GEN]を設立。2019年、尾道市に[TEA STAND GEN]を、2023年に2店舗目[茶立玄 山手]をオープン。
tea-factory-gen.com
instagram.com/tea_factory_gen (TEA FACTORY GEN)
instagram.com/tea_stand_gen.onomichi.yamate (茶立玄 山手)
instagram.com/ochatotaiyaki_mirume (お茶とたい焼きのみるめ)
Photo by Yuri Nanasaki
Text by Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール