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お茶を飲むシーンを増やすこと 静岡[aardvark tea Astand]辻せりかさん<後編>
静岡市の歴史ある商店街・浅間(せんげん)通りに、2年前にオープンしたティースタンド[aardvark tea Astand(アードバーク ティー エースタンド)]。日々カウンター越しにお客を迎える店主の辻せりかさんは、静…
2024.11.15 INTERVIEW日本茶、再発見
「おせんげんさん」と呼ばれ古くから親しまれる静岡浅間神社。その起源は大変古く、大小さまざまな神社がこの地に集まり「駿河国総社」と呼ばれていることからも、その歴史の深さと人々の信仰の篤さが容易に伺えるというもの。
その入口にそびえる赤鳥居もシンボリック。そして、その前に伸びる参道「静岡浅間通り商店街」もまた歴史ある通りだ。1716年(江戸・享保元年)創業のお蕎麦屋さんに1858年(安政5年)創業のわさび漬けのお店といった老舗があるから、1989年創業のどら焼き屋さんが比較的新しく思えてしまう。他にもさまざまなお店が立ち並び賑わいを見せる浅間通りに、2022年7月にオープンしたティースタンド[aardvark tea Astand(アードバーク ティー エースタンド)]は、この通りだけではなく、お茶の世界にも新たな風を吹かせる存在だ。
ガラス張りの扉から見えるすっきりとした店内の様子に、通りを歩く人々は思わず足を止めて中を覗く。ライトグリーンのカウンターには花や薬瓶のような品々、カフェで使われるミルクスチーマーなどが整然と並んでいる。その奥の吊り棚には、さまざまな植物がガラス容器に収められ、間接照明に照らされている。
「お茶は“薬”として飲まれていたという起源があります。そこにインスピレーションを受けて、漢方薬局のようなイメージでお店をデザインしてもらいました」
そう内装デザインについて説明してくれたのは、店主の辻せりかさん。漢方薬局のようなイメージはドリンクの提供スタイルについても同様だという。
まずはじめにつくっていただいたのは、「秋の煎茶ソーダ」。金木犀をベースにしたシロップに、レモン、セージを加え、カーボネーション(炭酸ガスを圧入してソーダにすること)した川根産・炭火焙煎加工の煎茶をミックスする。
「このように“調合”しながらつくるというスタイルも、漢方薬局からヒントを得ています」と、お茶の他にさまざまなボタニカルを混ぜ合わせて、季節ごとにメニューをつくり分けている。
メディカルハーブコーディネーターの知識をベースに、茶葉(リーフのお茶)の美味しさをより身近に感じてもらえるようなブレンドティーを提案している辻さんだが、「茶葉の味わいを大切にすることを一番に、メニューを考えています。お茶にも花の香りがするものや、この炭火仕上げのお茶のように独特の香ばしさと旨みを持つものなど、さまざまなものがあります。そうしたお茶の味わいや風味からインスピレーションを得て、季節感を大切に。たとえば夏の煎茶ソーダにはミントとライムを組み合わせ、爽やかで涼しくなるような、リフレッシュできるような味わいにしています」と、そのドリンクづくりのこだわりを教えてくれた。
金木犀の甘やかな香り、マスカットの爽やかさがシュワシュワと心地よく喉を通る。そうしたポップな香りと味が、香ばしさと旨みを持つ煎茶ととてもよく調和していると感じる。茶葉を活かしながらも、いい意味でお茶を押し付けすぎず、これはきっと普段お茶を飲まない人も一瞬で気に入るはずだと思う。
「リーフを急須で淹れて飲むのが一番美味しいと自分も思っているのですが、その方法や味わい方が難しいと感じる方も多いと思っていて。“楽しんでいただける美味しさ”というのが大事だなと感じています。なので、教科書通りに淹れて飲むのももちろん美味しいですが、色々な素材を組み合わせることによってお茶の楽しさや面白さに気づいてもらえたら。今まではお茶に興味がなかったけど『お茶ってちょっと面白いかも』と感じてもらえる、そういう方を増やしたいと思っています」
こちらは「ほうじ茶のパンプキンプリンラテ」。カラメル風味に仕上げたほうじ茶シロップに、濾したかぼちゃのペーストとカスタードミルクを混ぜ合わせる。トッピングのふわふわエスプーマにもかぼちゃ入り。最後に振りかける抹茶パウダーはかぼちゃの皮もイメージしていると聞き、なるほどと頷く。見た目にも味にも、飲む人の心をグッと掴むような工夫が溢れている。
オープンから2年余り、静岡の真ん中でティースタンドをやる難しさを感じることもあるが、少しずつ手応えも感じ始めていると辻さんは話す。
「ほんとうに少しずつですが、お茶が広がってきているなと感じています。静岡あるあるなのかもしれないのですが、地元の方って『お茶か』ってがっかりされる方が多いんです。お店の様子が気になって覗いてくれても、メニューを見て『なんだコーヒーじゃないんだ』って言われてしまうこともあって。そう言われてしまうのはやっぱり悲しいので、こういうスイーツライクなドリンクとか、夏にはかき氷を出したり、お茶に合わせた季節の焼き菓子をつくったり、そういうところから興味を抱いてくださる方も増えてきたのかなと思います」
店名になっている「aardvark」は、ツチブタを意味する英語。お店の敷居が高いと感じさせないようにと、動物の名前を選んだのだという。お店の入口にもカップにも描かれている紫色のツチブタのロゴは、たしかに親しみやすさを存分に振りまいている。それでいて、意思の強さも隠されている。aardvarkは辞書の一番初めに出てくる単語。さらにツチブタは他に亜種がいないという唯一の生物ということで、ユニークさの象徴ともいえる。そうした意味あいも含めて、辻さんもこの店名とツチブタをとても気に入っている様子だ。
「敷居は低く、商品は誇り高く」とは、同じ静岡市でカフェ[GOOD TEA TIMING]を営む和田健さんの言葉(記事)だが、辻さんにも通じるところがあると思った。静岡を訪れた際には、ぜひこうした新たなお茶シーンを感じてみては。
一方で、辻さんは茶業の家出身ではないという。静岡で生まれ育ったものの、キャリアのスタートは大手旅行会社で、お茶にもほとんど興味を持っていなかったと振り返る。後編では、辻さんのバックグラウンドにフォーカスを当て、お茶に対する想いをさらに聞いていこう。
辻せりか|Serika Tsuji
静岡生まれ。大学卒業後、株式会社JTBに入社、企業や学校などの団体を対象とした企画型の法人営業に従事。韓国・ロッテJTB出向を経て、静岡県の観光地域づくり法人に出向。茶畑のプライベートティーテラス「茶の間」などを手掛ける。2021年に独立し、AOBEAT(アオビート)を設立、代表を務める。2022年7月、浅間通りに[aardvark tea Astand]をオープン。
instagram.com/aardvarktea_astand
aobeat.co.jp
Photo by Takuro Abe
Text by Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
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