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「美味しいを問い直す」をテーマにした異業種トークイベントに潜入 @蔵前[A Drop . Kuramae]<後編>アフタートーク
お茶屋、茶農家に加えて、バリスタ、野菜農家、料理人、バーテンダーなどなど、さまざまな参加者が、それぞれの「美味しい」を持ち寄って意見交換し合った「美味しいを問い直す、フィルター交換の会」。蔵前の[A Drop . Kur…
2024.12.20 INTERVIEWイベント
「美味しいを問い直す」
お茶のみならず、食べること飲むことが好きな人にとって、「お、どういうことだろう?」と引き寄せられるような言葉じゃないだろうか。
蔵前にある日本茶セレクトショップ[A Drop . Kuramae]では、先日12月9日にそんなタイトルの下でトークイベントが開催された。[A Drop . Kuramae]では、年に数度、各地の生産者を店に招いて茶会を催している。店主の田邊瞭さん(以下、愛称のべったなさんと呼ぶ)によれば、今回の「美味しいを問い直す、フィルター交換の会」はそうした生産者の方々から受けた刺激をより広く共有したいという思いが起点になっているそうだ。
「これまで農家さんを呼んでのお茶会、というか農家さんから直接話を聞いてそのお茶を試す会をやってきて、我々もお客さんたちからインプットしたいと思うようになってきたんです。今回福岡の八女から高木さんが来てくれたんですけど(※12月7〜9日、八女[八女鰐八]の高木亮さんが同店で茶会を開催していた)、高木さんのお茶もまさに考えるという意味での“思考品”だなと感じていて、あらためて美味しいっていうことについて考えてみようと思った感じです」
一方の高木さんもこう語る。
「自分はお茶をつくる立場だったり、べったなくんはお茶を出す立場だったりするから、『これがうまい』ってやっぱり信じたくなる。そこで、違う角度からの話を聞くことによって、考え方を変えようというわけではなく、自分の考えを強くするというような。それを『フィルターを掃除するみたいなニュアンスでどう?』って言ったら、べったなくんが『もうそれでいきましょう!』って」
かくして「美味しさを問い直す、フィルター交換の会」が初開催されることとなった。「答えを出す会にはしたくなかった」とべったなさんが言う通り、正解を求めず、感受性や視野を広げることを念頭に、フリースタイルなトークセッションが繰り広げられた。以下の記事では、その模様を簡単に振り返りつつ、会終了後のアフタートークをご紹介する。
会の最初、推しのお茶を淹れて口火を切るべったなさん。徳島[曲風園]のお茶は、青々しい蒸しの香りと甘さが特徴。べったなさんは「日本茶っぽいと思いません?」と問いかける。
続いて[八女鰐八]の高木さんが、自園の「叶迫 手摘み煎茶」を淹れる。「熱湯でざっくり飲んでください」と自然体に淹れられたお茶は、力強い旨味と繊細さが同居した味わい。
埼玉・入間[的場園]から的場龍太郎さんが参加。「どんな人も飲みやすく、狭山らしさも感じてもらえる」とセレクトした「はるみどり」という品種茶。まろやかな甘味がほっとする一杯。
この日味わったのはお茶だけではない。他にコーヒー、野菜、苺、醤油に味噌、日本酒、餅などなど、参加者が思い思いに持ち寄った美味しさを味わいながら、無意識のうちに受け取っていた美味しいという概念をもみほぐすような4時間(!)が展開された。
こうした様々な味をきっかけにさまざまな意見が交わされた。期間限定でアーカイブ視聴が可能(詳しくはこちら)だが、その中からお茶にまつわるディスカッションを一部公開させていただこう。
まず、野菜農家の安田さんから発せられた「お茶の二煎目のよさってなんですか?」と問いかけに対して。
安田さん 味として薄くはなるけれど、芯が残るというイメージがあって。余計なものというわけではないですけど、削ぎ落とされて残ったものが個人的には美しいなと感じます。ワインや日本酒の熟成にも感じるんですけど、ピュアな部分が残るなと。二煎目三煎目を飲ませていただいて、いいなぁって。
的場さん(狭山の茶園[的場園]) この話は面白いなと思っていて。一煎目って“加工の味”、人間が手を加えた味が出てくると思っているんです。たとえば焙煎の火香だったり、肥料によるアミノ酸の甘味とか。二煎目以降は、葉っぱ自体が持っている渋味とか苦味とか、内側の味が煎を重ねると出てくるなって思うことがありますね。
高木さん(八女の茶園[八女鰐八]) それは共感しますね。一煎目は繊細なので、工程ごとの味わいが抽出されている感じはあります。二煎目だと、葉っぱが開くという物理的なこともあるので、大味っぽく出てまとまってくる。今年自分がつくったお茶は、二煎目以降青さをよく感じたんですけど、今のお話で合点がいきましたね。
べったなさん 自分も「はがす」っていうイメージは持ってますね。一枚はがすことで、その輪郭がはっきりしてくるみたいな。
安田さん 一煎目と二煎目どちらが好きですか?
的場さん ものをつくっている立場からすると、自分がつくったお茶という要素は一煎目に凝縮していると思いますね。二煎目からは、木が持っている味が出てくるから、一年間の畑の管理がどうだったかという答え合わせにはなるかなと。ちょっと違う楽しみ方かもしれないですね。
福島さん(高崎のカフェ[warmth]) 「美味しい」じゃなくて、どれが一番「心地いい」ですか?
的場さん たぶん、アミノ酸は一煎目で一番強く出るので、そういう甘味というのは生理的に好きなだと感じるものだと思います。でも、時間が経たないと出てこない成分があるので、二煎目以降は複雑さという点でいいかもしれないですね。
高木さん 二煎目の少し冷めたくらいが一番ストレスなく飲める。思考(しなくなること)も含めて自然と飲めると思う。
的場さん 皆さんが生活の中で飲む時にどう感じるかっていうのは、つくり手が意識する味とまた違いますよね。
……このようにして一つの問いから様々な思考が展開。お茶屋であるべったなさんの呼びかけで、様々なジャンルから参加者が集まり、お茶の話もそれ以外の話もフラットに言葉を交わし合っていた姿が印象的だった。最後のトークテーマとなったのは「目指す味」。つくり手同士でどんな思いがぶつかり合ったのか。
的場さん 生活の中の“時を止めるお茶”をつくりたいと思っています。何気なく飲んだお茶で「うまっ」てなって、その一瞬、時が止まったらすごいお茶。こういう味わい、というより、手が止まるようなお茶を目指したいです。
高木さん 目指す味はないっすね。できたものが最強といえるように込めたい。これを込めたらどんな味になるかっていう、むしろ逆かもしれないです。
福島さん 以前勤めていたレストランのシェフから送別の言葉でいただいた一言が「泣ける一杯」だったのですが、それを目標にしています。
べったなさん 自分も師匠と仰いでいる人から言われた言葉なんですけど、「一杯で畑の情景を見せろ」。それをつくりたいなと思いますね。一杯で葉っぱを感じる、風を感じる、陽を感じるとか、そういうことができたら東京でやるということ含めて意味があるのかなって。それを今追い求めています。
……はい!と見事に(?)締まったトークイベント。予定通り4時間、飲んだり食べたりしながら思い思いに言葉を交わす貴重な機会になった。
後編では、この後にアフタートークとしてCHAGOCOROのために収録させていただいた会話をお届け。「美味しいとは?」というテーマを総括していただいたので、お楽しみに。
A Drop . Kuramae|エー ドロップ クラマエ
“べったな”こと田邊瞭さんが2020年に立ち上げたブランド「a drop.」の店舗。べったなさんは、埼玉県入間市出身。大学在学時より役者として活動した背景を持ち、屋台居酒屋を経てお茶の世界に。各地のお茶の産地を巡りながら、蔵前に日本茶のセレクトショップとしてオープンした同店に立つ。一滴から広がる波紋のように、多方面にお茶の魅力を響かせる。
https://www.instagram.com/adrop_kuramae
Photo by Tameki Oshiro
Text by Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール