• 「美味しいを問い直す」をテーマにした異業種トークイベントに潜入 @蔵前[A Drop . Kuramae]<後編>アフタートーク

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    「美味しいを問い直す」をテーマにした異業種トークイベントに潜入 @蔵前[A Drop . Kuramae]<前編>

    「美味しいを問い直す」 お茶のみならず、食べること飲むことが好きな人にとって、「お、どういうことだろう?」と引き寄せられるような言葉じゃないだろうか。 蔵前にある日本茶セレクトショップ[A Drop . Kuramae]…

    2024.12.13 INTERVIEWイベント

    お茶屋、茶農家に加えて、バリスタ、野菜農家、料理人、バーテンダーなどなど、さまざまな参加者が、それぞれの「美味しい」を持ち寄って意見交換し合った「美味しいを問い直す、フィルター交換の会」。蔵前の[A Drop . Kuramae]で4時間に渡って繰り広げられたイベント本番終了直後、アフタートークとして取材をさせてもらった。

    [A Drop . Kuramae]店主の田邊瞭さん(以下、べったなさん)。これまでに各地の茶農家を招いてのゲスト茶会を同店で開催。その中で受ける刺激をオーディエンスとも共有したいと今回の企画を思い立つ
    べったなさんのアイデアを受け、「フィルターを掃除するみたいなニュアンスでどう?」と方向性を示したのは、福岡・八女で茶園[八女鰐八]を営む高木亮さん

    ――高木さんから、今日のセッションの感想を聞かせてください。

    高木さん(八女の茶園[八女鰐八]) 自分は自分主観のものづくりをしてきたので、誰かが言っていたからといってガラッとフィルターを取り換えてしまうというのはないんだろうとは思いながらも、色々な思いがあるんだっていうのに触れることに意味があると思いましたね。そういうことを知らずに強気に出るのとは差があると思います。色んな味を知った上で、自分の味はこういうことって言えるようになるというか、より強くなるというか。それができたので、やってよかったですね。

    ――同じく茶農家として、的場さんは何か印象に残った味はありましたか?

    的場さん(狭山の茶園[的場園]) この味がというより、ここにいる人たちの話を聞いて「なるほど、そういう視点もあるよね」っていうことがたくさんあって。知ることが刺激的だったし、そういう機会として今日ここに来てよかったと思いますね。

    埼玉・入間[的場園]の的場龍太郎さん
    群馬・高崎のカフェ[warmth]の福島宏基さん

    ――福島さんはコーヒーの目線からお話されていましたが、あらためて福島さんが思う「美味しい」ってどういうことですか?

    福島さん(高崎のカフェ[warmth]) 難しい質問です……味づくりでこれ、というのは実はないかもしれないです。その時その場で対面した人に120%の美味しい体験をメイクするということだと思っていて。自分の中に美味しいっていう芯があるというより、“どうしたら120%楽しんでもらえる体験になるかどうか”に重きを置いています。もちろんコーヒーに関しては、スコアリングシートがあって、美味しい液体という尺度はあります。そうした基準はもちろん達成した上で、空間であったりサービスであったり、その人の美味しい体験をどうメイクしていくかということを考えます。モノだけじゃないですね。でも、お出しするのはこれ(コーヒー)なので。まず情報のない状態で出して、動物的な感覚で美味しいかどうか、飲み心地がどうか、から始まる体験ではありますよね。

    ――感覚的・生理的な美味しさと、情報としての美味しさという二つの柱があるとおっしゃる研究者さんがいて、今のお話は興味深かったです。安田さんは野菜農家として、自然と一緒に味をつくっている立場とも言えると思いますが、そうした「情報的」「生理的」な美味しさについてどんな考えを持っていますか?

    安田さん(群馬・嬬恋村の野菜農園[knowers.farm])  “情報の美味しい”の究極は、お母さんが作った料理だと思うんです。記憶から来るものも情報ですよね。やっぱりそれって超えられないものだと思います。ただ、食べ手としての美味しいと、つくり手としての美味しいは分けて考える必要があると思っています。つくり手としては常にインプルービング(改善)していかないといけない。食べ手としては心でいただくものっていうのはどこかにある。なかなか難しい問いですけど、どんな物も人の手が入ってできあがっていくので、情報は必ず入ってきますよね。味わいというのは平面ではなくて(色々な情報が)インクルードされている。そう考えると、情報も全部味わいの中に入っていて、言葉は究極的にはいらないとも思います。僕は、絵画にタイトルはいらない派なんです。絵自体が全て語るはず。そういう感じですよね。

    群馬・嬬恋村の野菜農園[knowers.farm]の安田嶺さん

    ――安田さんの人参には皆さんすごく反応していました。嬬恋村で今日採ってきたからその冷たさも残っていると言っていたのも口の中でダイレクトに感じられましたし、ポキッと気持ちいいほどの食感とびっくりするような甘さがあって。

    安田さん (反応がよかったのは)甘いからですかね(笑)。でも、以前ある料理人の方には、「レイくん、甘さはいらないよ。野菜は香りだよ」って話をされたことがあって。でも甘味にああしていい反応があったところを見ると、やっぱり生理的に美味しいと感じる部分はありますよね。さらに、美味しさという平面の上に情景が浮かぶかというのが重要。ホウレンソウも食べてもらいましたが、その意図は、人参と同じく、ちゃんと甘味が入っているホウレンソウが採れる、ということは寒い場所で、そこまで寒い気候はまだ多くないですから(嬬恋の情景に結びつく)。情景というのも突き詰めていけば究極的には「人」だと思っています。自然環境やその土地(畑)だけあっても人間がそこに存在しなければ野菜は採れない。そういうことがちゃんと伝わるか。表現というのは情報を削ぎ落とすことだと思うんですけど、そういうことをちゃんとやろうとしているか、意識しているか、丁寧かというのは大事かなと思います。

    ――べったなさんにとっての「美味しい」とは、ずばり?

    べったなさん 今日話を聞いていて出たんですけど、「思いのぶつけ合い」だと思いましたね。こっち(食べる飲む側)も「汲み取りにいくぞ」っていう思いは必要じゃないですか。つくった人の思いもあれば、それを楽しみにいくぞっていう思いもあって。それがぶつかった時じゃないですかね。

    安田さん 何も考えずに食べても美味しいものはたくさんありますけど、つくる側も食べる側も主観的に考えて何かを乗っけられるか。CDを聴くだけじゃなくて、ライブに行ってまた聴くと、そのライブの体験がCDに乗り移ってより色んなことが感じられるじゃないですか。

    ――情報と感覚は行き来し合うものかもしれないですね。別々の柱というより、連続するチェーンのような。それが連続すればするほど、美味しいという体験が増していく。

    安田さん 一番リアリズムがあるのが味わい。そこから始まって解釈が出てきたときに豊かさが生まれて、それが人間っぽさでもある。

    福島さん 極論、美味しいって“情緒が振れるか振れないか”かなとも思います。お茶ってその情緒の部分が大きいなと感じます。「なんかいいな」があるかどうか、情緒が振れるかどうか。

    高木さん 情緒が振れるか振れないかの違いは何だと思いますか?

    福島さん 僕は動物的な感覚かなと思っています。情報はゼロベース。「一煎目と二煎目ってどっちが飲み心地いいですか?」って聞いたのもそういう意図があったんですけど、一番最初の飲み心地というのが情緒の振れるポイントなんじゃないかなと。なので一煎目の方が大事なのかなって思ったんですけど。

    高木さん 世に名作とされるものってあるじゃないですか。それは黄金比率が隠されているとか、後から検証したらそういうことも言われると。そこで何が大事か個人的に思うのは、つくり手の「意図の数」だと思うんですよ。こういうふうにしてみたい、こういう狙いを出してみたいとか、意図の数が多いほど、つくりだすものは研ぎ澄まされていく。絵画でも建築でも、気になる所があって、そこにはこういう意図があるのかって詰めていくほどのめり込む。ゼロベースで意図を知らないところから何かを感じてっていうのは前提で、そこからの振れ幅があるといいっていうか。そういうプロダクトを見ると、真似できない背景がありますよね。

    安田さん 農家としては、ものづくりの考え方もすごく取り入れつつも、野菜は「もの」ではなく、生命のある「生き物」っていう考え方を持っています。でもそれも(そこにいる人間の)“設定”みたいなものでもあるんですけどね。

    べったなさん 思いと思いのぶつかり合いっすよね!

    ――でも、お店で日々色んな人と向き合っていると、伝わってほしい美味しさが伝わらないなぁということも当然あると思うのですが、そこも含めて「伝える」ってどう考えていますか?

    べったなさん やっぱりお茶一杯だと難しいですよね。いつも野球の例え使うんですけど、三振を取るためには3球は必要じゃないですか。できれば7球くらい使って組み立てたい。これを伝えたいから、まず見せ球としてここにいくみたいな。1球勝負では、それなりのことしか伝えられない気がする。

    安田さん べったなさんのお茶の出し方でいいなと思うのは、お茶っ葉も見せてくるんですよ。葉っぱの姿と液体がリンクして、どう育ったかとかイメージが広がっていくんですよね。それは豊かだなって。

    べったなさん 後から解説も入れたいですよね。高木さんと似たことかもしれないですけど、意図というかフックをたくさん用意しておくみたいな。最近は寒くなってきて、とろっとした焙煎紅茶を一杯目に入れることが多いんですけど、「いきなり紅茶か」って構えられたくないから、見せないっていうのもありますけどね。いろんな方法があるから面白いですよね。

    ――ありがとうございます。色んな方向から考えが出てきて、あっちこっちで繋がったりする面白い機会でした。今回べったなさんの投げかけで色んなジャンルの方が集まったわけですが、こういった場を今後もお茶の世界で促したいという意識はありますか?

    べったなさん それはありますね。的場さんも入間の先輩でこのために来てもらいましたが、色んな仲間たちにぶつけてみたいっていう気持ちがありましたね。思いと思いをぶつけてみることで美味しさも見えてくるんじゃないかって思ってます。

    A Drop . Kuramae|エー ドロップ クラマエ
    “べったな”こと田邊瞭さんが2020年に立ち上げたブランド「a drop.」の店舗。べったなさんは、埼玉県入間市出身。大学在学時より役者として活動した背景を持ち、屋台居酒屋を経てお茶の世界に。各地のお茶の産地を巡りながら、蔵前に日本茶のセレクトショップとしてオープンした同店に立つ。一滴から広がる波紋のように、多方面にお茶の魅力を響かせる。
    https://www.instagram.com/adrop_kuramae

    Photo by Tameki Oshiro
    Text by Yoshiki Tatezaki

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