• 親子三代一丸となって最高品質のお茶づくりに取り組めることが「財産」
    静岡[カネタ太田園]太田昌孝さん 太田勝則さん<後編>

    2025.03.14

    SCROLL

    記事の前編はこちらRead Previous Page

    手をかけた分だけおいしく。“生きた土づくり”から取り組む天竜茶 静岡[カネタ太田園]太田昌孝さん・太田勝則さん<前編>

    最寄り駅は静岡県の浜松駅、と聞いていた。だが、茶畑にたどり着くには、そこから車を走らせること約40分。それも茶畑が近づくにつれ、山間の上り道を行く。標高が上がるにつれ、気温も下がっていく。ようやく車が止まると、駅前とはま…

    2025.03.07

    静岡県は天竜川上流地域、標高400mの地で育てられる天竜茶。[カネタ太田園]は静岡県茶品評会では農林水産大臣賞を数回受賞、優秀産地賞は6回受賞、国際銘茶品評会では世界名茶大賞などなど、受賞歴は枚挙に暇がない。天竜茶を全国区のブランドとして押し上げてきた立役者だ。「良質茶は良い茶園から」を信条に、園主の太田昌孝さんはその功績を讃えられ、10年前74歳の時に黄綬褒章を受章した。

    園主の太田昌孝さん

    爽やかな香気とほどよい苦味、そして味わいの強さを持つ天竜茶のポテンシャルを最大限に引き出すため、何十年にわたって畑に足繁く通っては、土づくりに精を出してきた生粋の茶農家。頼もしい右腕となるのは、この地で生まれ育った娘婿の勝則さん。一度は別の仕事に就いていたものの、結婚と同時に23歳で茶農家の道へ。

    「父は細かく教えてくれるようなタイプじゃないからね」と笑って振り返る。従来の農法を守りながらも、よりよい方法を模索して昌孝さんとともに汗を流してきた。

    昌孝さんを囲む勝則さんとその長女・美咲さん。販売所の前にて

    真髄は畑仕事のみならず。
    お客ごとに数百種類のパターンで丁寧に製茶する

    [カネタ太田園]のさらなる強みは、自園・自製・自販のすべてを手掛けていることにもある。製茶工場を担うのは、勝則さんの義弟であり、一家で力を合わせて自分たちのお茶づくりをつづけている。

    工場を見学させてもらうと、なんと掃除が行き届いた清潔な設備なことか。設備が新しい云々という話ではなく、オフシーズンである今は機械それぞれが埃から守る大きなビニールで防護されていて、いかに大切に使っているのかも察せられる。

    「きれいでないといいお茶はできない、というのが父のモットー。粗揉機とかは普通だとシーズンの終わりに掃除するぐらいのところが多いようですが、うちは茶時期は毎日掃除です」と勝則さん。

    製茶ラインが2つ設けられているのも特筆に値する。小分けにできるため、山側か谷側の茶葉なのか、あるいは大きい葉か小さい葉かといったように、生葉の特徴に合わせた蒸し時間や揉み具合で製茶する。鮮度にもこだわり、茶葉によってすぐにマイナス9度の冷凍庫で保存するか、寝かせて熟成させるかを判断。納める得意先ごとに仕上げの仕方を変えており、そのパターンは数百種類にも上る。その細やかで行き届いた製茶方法で、良質な茶葉のいいところを余すところなく引き出すのだ。

    収穫した生葉を細かく仕分けしておけるように10個近いコンテナがある
    写真中央とその奥に2ライン組まれている露切り機

    孫娘も加わってお茶を販売。
    一家の中心にお茶がある

    2011年には、孫娘の美咲さんが帰京し家業のメンバーに加わった。美咲さんは北海道の大学に進学後、流通関係の会社に就職して働くこと約4年。東日本大震災が起きた後、家族を想って実家へと戻ってきた。

    「三姉妹の長女で、いつかは継ぐという気持ちが自然に芽生えていました。小さな頃からお手伝いはしていましたが、実際に社会に出て戻ってきたことで、より責任をもって仕事に取り組めるようになりました」

    小売り用の茶葉の試飲を父、祖父とともに行なっては商品化の選定をしたり、販売の梱包やパッケージについてのアイデアを出したり、おもに販売の部分を担当している。

    幼い頃から、煎茶に日常的に親しんできた経験値の高さと現代的な感覚は、一家のなかでも貴重な意見として大事にされている。

    「みんなで同居しているので、食卓を囲むと自然にお茶の話になってしまいます。といっても、繁忙期はみんな時間差でそれぞれの仕事をするので、ゆっくり顔を合わせて食事を取ることなんてできなくなってしまうんですけどね」

    「親子三代で茶づくりに取り組めることこそ、俺の財産だ」

    家族一丸となって取り組むお茶づくり。その苦労がいちばん報われたと感じるのは、新茶の一番茶を出荷したときの客先の反応だと勝則さんは言う。

    「『おいしい』のひと言で、苦労が吹っ飛んでしまいます。やりがいを感じる瞬間です。天竜茶は『遅場所』といって、お茶のシーズンの遅い時期に収穫できる土地です。お客様のところには、毎年いろんな産地の新茶がどんどん入っていくわけですから、焦りがないといえば嘘になります。でも、あるお茶屋さんから、『太田さんのところは毎年ブレがないいいお茶だから、急がなくていいですからね。いつも通りのいいお茶を送ってください』と言っていただき、胸が熱くなりました。これも長年かけて信頼関係を築いてきたゆえです」

    勝則さんに、最後の仕上げの作業である棚火にかける茶葉を見せてもらった。令和6年の品評会で入賞した茶葉だという。

    生葉の状態で長さは約5cmにもなり、断面は丸く、それは艶やか。その見かけからすでに茶葉の風格のようなものが漂っている。

    「飲んでみるか?」と昌孝さんが茶を淹れてくれた。

    水色によどみはなく、風味が豊かでコクもある。そこに心地よい苦味が相乗し、すっきりとした余韻が長く続く。

    「ご家族でこんなにおいしいお茶がつくれるなんてお幸せですね」と声をかけると、「それが俺の財産だ!」と昌孝さんが胸を張って答える。

    「親子3代で農家という仕事を一緒やるなんて、今の時代なかなかできないよ。おじいとして、それが一番の幸せだよ」

    昌孝さんは、満足げに茶碗のお茶を飲み干した。

    太田昌孝|Masataka Ota
    1940年生まれ。13歳より茶畑に立ちお茶を育て始める。黄綬褒章受章や天皇賞、農林水産大臣賞などを受賞。2008年の北海道洞爺湖サミットでは、各国首脳に太田さんの天竜茶が振る舞われた。現在も日々茶畑に立ち、精力的に茶を育てている。

    太田勝則|Katsunori Ota
    1963年生まれ。天竜で生まれ育ち、結婚と同時に義父・昌孝さんのもとで茶農家の仕事を始める。2019年には親子揃って農林水産大臣賞を受賞。娘の美咲さんなど家族一丸となって、良質な茶づくりに取り組んでいる。

    カネタ太田園|Kaneta Otaen
    静岡県西部に位置し、天竜川上流地域の壮大な自然の中でお茶を栽培する。茶葉は昔ながらの浅蒸しの普通煎茶で細よれ(針状)で艶があり、キリッとした苦みと旨み、清々しい香りが強く感じられる。栽培から製茶、販売までを自社で手掛ける。
    https://www.kanetaotaen.jp/

    [カネタ太田園]の入賞茶を使用し、丁寧にボトリングした「瓶 お〜いお茶 山の音」が発売中。山の産地である天竜の空気を感じさせる清々しい香りと力強い味わいに仕上がっている。
    詳しくは公式サイトをご覧ください。
    https://lp.itoen.co.jp/yamanone

    Photo by Ayumi Mineoka
    Text by Yumiko Numa
    Edit by Yoshiki Tatezaki

    TOP PAGE