「天空の茶園」豊好園・片平次郎さんのお茶とライフ<前編>
2019.10.18 CHAGOCORO TALK
- 煎茶
- 静岡
女優の松本穂香さん、米ビジネススクールで准教授を務めるジェレミー・ハンターさん、そして豊好園3代目園主の片平次郎さん。お茶がつないだ不思議な縁に導かれ、標高350mの斜面に設えられた豊好園の茶の間でお茶を飲む。そこから生まれる話から、お互いの考え方に共感したり、刺激を受けたり。初対面の3人の間に自然と笑顔がこぼれ、「優しい気持ちになる」ようなひと時を過ごした。
— このような場所でお茶を飲むというのは珍しいと思いますが、どのように感じましたか。
ジェレミー 自然の中でというのが素晴らしかった。セミや鳥が鳴いていたり、トンビが飛んでいたり、風が吹いたり、すごくパワフルでした。
松本 とてもいろいろなものが合わさってなのですが、片平さんがおっしゃっていた、「お茶を愛していて、お茶に愛されたい」というお話が衝撃的でした。お話を聞いていて私にも通ずるものがあるなと思いました。私だったら役ということになるかなとか。でも、「愛されたい」とまでは考えたことがなかったです。たしかに、愛して愛されたものだったらすごく素晴らしいものになるだろうなと思いました。本当に素晴らしい方たちとこの景色で……。すごくいいタイミングで鳥が鳴いたり。ちゃんと来るべきときにそういうものが来るんだと感じて、全部必然のような気がしました。そういう空間で、愛し愛されているお茶が飲めるというのは、なかなか経験できることじゃないなと、優しい気持ちになりました。
片平 欲張りなんですよね。愛されたいと思っちゃうんです。
松本 愛したら愛されたいですよね。
片平 そうそうそう。でも、愛するとかっていうのは当たり前なんです。わざわざ「私、信号守ってますよ」って言わないのと同じように、そんなのは当たり前だから。
松本 でも、なかなかできない。シンプルなんだなと。大切なことはすごく複雑に考えがちですけど、突き詰めるのは、シンプルに一つの道なんだなと。
片平 年です。年を取っていくとやっぱりそうなっていくんです。
ジェレミー 時間とともに簡単になるという部分はあるでしょうね。何が好きで何が好きじゃないかというのはだんだんわかってくるものだから。外に求めるんじゃなくて、中に求めるということが、段々できるようになるんじゃないでしょうか。
片平 (市販のお茶は)ブレンドされているものがほとんどで、1種類のお茶を飲むよりも、2〜3種類混ぜた方が奥行きを感じられるんですよね。オーケストラのようにいろんな楽器が鳴っているものを聴くと音の厚みが感じられますよね。それと同じように、ブレンドされた飲み物にも味や香りの厚みを感じるんですよ。だからブレンドは美味しいのですが、今の茶業ではもっと農家寄りのシングルオリジンティー(複数の茶葉をブレンドせず、単一の茶葉で淹れるお茶)、つまり「このお茶はこの人がつくっていますよ」というようなものが求められているんですよね。
松本 今日いただいたのはシングルオリジンのお茶ですか?
片平 そうです。上がってくる途中に黒いネットで覆われていたものがあったと思うんですけど、あそこのお茶です。
ジェレミー 味が普通の煎茶じゃないですよね。
片平 2週間くらい前から黒いネットをかぶせて日陰にしてあげたお茶なんですよ。
松本 日陰にするために、ネットをかぶせるんですね。
片平 そうすることで光合成しにくくなるので、渋み成分が抑えられて旨味が増します。もっと真っ暗にすると玉露になります。
松本 日陰の加減によって味も変わってくるんですか?
片平 変わりますね。ネットをかけるタイミングにもよるし、かけてからの天気によってもまた変わっちゃいますね。場所によっても変わります。自然なので仕方がないんですよね。農家は自分の思うようにやりたくなるけど、結局は自然の一部を借りているので、そこに逆らうことはないんじゃないかなと思います。だから、僕は「こだわりは何ですか」って聞かれても、何もないんですよね。一番大事なのは土。土壌分析をして足りているものいないものを把握して、足りないものを補ってあげる。必要なものが揃っていれば、茶の木は健全に育つわけですよ。あとは、光合成して、旨味をつくってね、という考え方です。肥料をあげればあげるほど旨味の強いお茶はできます。でもそれって、すごく人間のエゴでできているなって。農業なのにそれってちょっと違うなと思ったんです。土壌分析だけは外せないけど、あとはお茶が言う通りにやるだけなので。
松本 自然にいいものをつくりたいということですね。
片平 そう。でもちゃんと農薬は撒くんです。なぜなら虫とか病気が出て、お茶が苦しんでいる姿は見たくないから。だけど、お茶は飲み物なので、口の中に農薬が入るのは嫌じゃないですか。だから、お茶を守りながら、残留農薬がないものを作るのが、農家のすべき努力なんだと思っています。
— すごく特別な一杯を一緒にいただくことができたと思います。今日それぞれが思ったこと、感じたことを改めて教えてください。
片平 僕はとてもシンプルで、本当に自分からお茶を取ると何もない人間になっちゃうんです。でも、お茶をつくる、栽培する、製茶するという手に職をつけて、それを頑張ってきてよかったなと思いました。ここ数年、ここまで来てくれる若い人がけっこう多くて。「わざわざ遠くから来るんだな」みたいに思っちゃうんですけど、いろいろ話をして、笑顔で帰ってくれるというのがすごく多くて。「人が求めているんだな、お茶を」みたいな。業界的には縮小傾向にはあるので、「お茶いらないのかな」と思っちゃうくらいのときもあるけど、やっぱり人が足を運んでくれて、何かしら感じて帰ってくれるというのは、何か与えられているかもと感じられるので、やってきてよかったなというのはすごく思います。
ジェレミー こういうところに来てお茶を飲むと、目の前で育っているお茶の葉からこのお茶ができるんだなということを実感できますよね。片平さんのように人生をかけて、お茶の手入れをしているこの人がいなかったら、この一杯はないんだなと感じます。よく「都会の子どもは、ミルクが牛から採れると知らない」などと言われることがありますが、(茶葉が育てられ、お茶がつくられ、それを飲むという)ひとつのサイクル全体が感じられるというのはとても美しいことだなと思っています。人工物に囲まれていると、この地球が生きていて、その中で自分たちが生きているということを感じにくくなるのではないかと思うのですが、自然の音を聞きながらトンビが飛んでいるのを見てという場所に今日来て、美しさというものを感じられました。
松本 私は、そのときに出会うものはそのときの私にとって絶対大切で、出会うべくして出会っているんだなと感じることが最近多いんです。なので、今日私がこうしてここに来て、皆さんからの言葉やおいしいお茶に出会えたのは、これからの私の何かにつながっていくものなのかなと思います。それくらいすてきな時間でした。
ジェレミー・ハンター
クレアモント大学院大学 P.Fドラッカー経営大学院 准教授、同大学院 Executive Mind Leadership Institute 創始者、日本におけるコンサルティング会社Transform共同創設者。セルフ・マネジーメント理論研究の第一人者で、“人生の豊かさ(Well-being)”と“仕事のパフォーマンス最大化”について教えている。企業、公的機関含め多数のコンサルティング実績を持つ。日本にもゆかりがあり、日本のお茶文化がクオリティ・オブ・マインドに与える影響に注目する。
P.Fドラッカー経営大学院:https://www.cgu.edu/people/jeremy-hunter/
Transform:https://transform-your-world.com
松本穂香
1997年2月5日生まれ。大阪府堺市出身。2015年主演短編映画『MY NAME』でデビュー。主な出演作品に、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』、日曜劇場『この世界の片隅に』(TBS系)、映画『恋は雨上がりのように』、『あの頃、君を追いかけた』などがある。そのほか、auの「意識高すぎ! 高杉くん」シリーズのTVCMや2018-2019 JR SKISKI メインキャストなどを務める。2019年9月には主演作品『おいしい家族』が公開、11月15日公開の『わたしは光をにぎっている』でも主演を務めている。
『わたしは光をにぎっている』公式:http://phantom-film.com/watashi_hikari/
公式Instagram「週刊 松本穂香」:https://www.instagram.com/weekly_matsumoto/
片平次郎
1984年生まれ。静岡県の中央に位置する山間部、両河内で日本茶の栽培・製造販売を行なう豊好園の3代目園主。標高350mの斜面に広がる茶畑からは早朝に広がる雲海が望め、見学ツアーも人気となっている。
豊好園:http://houkouen.org/
Photo: Shingo Wakagi
Interview: Hiroshi Inada
Text: Yoshiki Tatezaki
Styling: Yuki Ohwada
Hair & Make-up: Haruka Tazaki
松本穂香さん衣装:ブラウス(¥34,000)、スカート(¥60,000)、ブーツ(¥62,000)/ すべてLIMI feu(03-5463-1500)
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール