• 美味しいお茶の表現方法
    和多田喜さん&
    小山和裕さん対談 <前編>

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    厳選した茶葉を至高の一杯に仕立てる[表参道 茶茶の間]の和多田喜さん。コーヒーバリスタとタッグを組み、お茶の美味しさ楽しさを老若男女できるだけ多くの人に伝える西荻窪の[Satén japanese tea]の小山和裕さん。

    茶茶の間 和多田喜さんの記事
    Satén japanese tea 小山さんの記事 

    お茶の「淹れ手」として活躍するお二人の対談が、先月発売のフードカルチャー誌『RiCE』のお茶特集号で初めて実現した。

    かつて茶茶の間のスタッフとして働いた小山さんにとって、和多田さんは日本茶専門店の師。人気店を営む二人が会うのは久しぶりとのことだが、それぞれが淹れたお茶を飲みながらのお茶談義からは多くの大切な言葉が聞かれた。今回、CHAGOCOROでは特別にこの特別対談の拡大版をお届けできることとなった。

    小山さんの“ベース“を作った茶茶の間での時間

    — まずは、小山さんが[茶茶の間]で働いていたということで、いつごろ、どのような流れで出会ったのか教えていただけますか。

    小山 もう5年前ですね。[Satén]が今年3年目で、その前に[UNI STAND](小山さんが店長を務めた三鷹のカフェ。コーヒースタンドだったが小山さんが日本茶メニューも充実させていった。2018年3月に閉店)を2年やっていたので、茶茶の間で働いていたのは2015年くらいまで、1年半お世話になりました。もう5年ですね……。

    和多田 まだまだ最近のような、逆にすごく昔のような……。

    小山 はい。もともとは僕がずっとお客として来ていたっていうのがきっかけです。ちょうど、茶茶の間も転換期というか、スタッフさんの入れ替わりがあり、その時に僕も入らせていただいて。ここで勉強させてもらいながら、僕も個人としてイベントなどやっていきたいという思いもあったので、ある意味両立できる形でやらせていただいていましたね。

    — 小山さんは「茶リスタ」と名乗っていますが、それはいつごろからですか。

    小山 その時にはもう名乗ってましたね。生意気にも(笑)

    和多田 生意気かどうか分からないけど(笑)

    小山 ただ、やっぱり自分の中でも「技術が足りないな」ということも身に染みて分かっていて。お茶のことで知らないことが多いなっていうのはあったので、本当にここで働かせていただけたというのはお茶の勉強としてはすごいことでした……。今の淹れ方や考え方にも、“茶茶の間ベース”は確実にありますし、すごく影響を受けた時期でしたね。

    — 当時は小山さんもそのカウンターでお茶を淹れていたわけですか。

    和多田 いえ、当時お茶を淹れるのは基本的に私だけという形でした。

    小山 そうなんです。僕は裏のキッチンスタッフで、まかないみたいな感じでお茶を飲ませていただくというところから、だんだんスタッフの方も増えてくると、僕がホール(客席側)にいることが多くなってきて、その時に和多田さんのお茶の淹れ方を習ったりという感じでした。

    和多田 スタッフ向けの勉強会みたいのを始めたよね。今もやっているんですけど、それの最初というか、よく実験台になってくれました。こう言ったら伝わるのか、こう言ったら伝わらないのか、みたいな。

    小山 で、僕はどんどん迷宮に入っていく、みたいな。いや、すごく勉強になりました。5年経ちますけど、働いた1年半がすごく濃密だったな、と今でも強く感じます。

    — 小山さんのその後のご活躍は和多田さんにはどう映っていますか。

    和多田 すごいですよ。もうこの茶茶の間よりもSaténさんのほうが有名なんじゃないかなって思いますし、日本茶業界を引っ張っていってほしいですね。

    — 小山さんが何もしゃべらなくなっちゃう(笑)

    小山 そうですね、しゃべれなくなる(笑)

    小山和裕さん
    和多田喜さん

    和多田 本当に人当たりがすごくいいですし、発想がすごく上手ですよね。人が気付かなさそうなところに彼は気付いて。あのラテアート選手権なんかもすごいなと思います。(今年で3回目となる「Japan Matcha Latte Art Competition 2020」は10月1日に延期して開催予定)

    小山 でもそうやってチャレンジングなことができるのにも、茶茶の間の影響はかなり大きいと思いますね。“お茶の違い”ということに興味が出たのは、本当に茶茶の間に来て最初に飲んだお茶がきっかけなんです。「何だろう、これ?」みたいな。

    和多田 最初って何を飲んだっけ?

    小山 「和」です。単純に一番安いのを頼んだ気がします……。当時まだ僕は21歳とかなので、やっぱりお茶で1,000円もするって高い!と正直思いました。

    和多田 まだ緑のメニューブックがあった時だよね。そうだ、思い出した。

    小山 それまで500円とかのコーヒーを飲んでいたので、茶茶の間のメニューを開いたときは驚きました。それで飲ませていただくと、家のと同じ“お茶”のはずなのに明らかに違うし「何がどう違うんだ?」と感じて、そこから何度も通うようになってセミナーにも行くようになって。フルサービスで店主の方が淹れてくれるというお店は他にありませんでしたし、そういう高品質なお茶を手軽に飲ませてくれるということ自体、すごく刺激になりましたね。ずっと変わらないですもんね。

    和多田 ずっと変わらないですね。

    — それでは、ここで和多田さんに一杯淹れていただけますでしょうか。

    まず、湯冷まし2つで水を何往復かさせる。この時かなり高い位置から注いでいたのが印象的。和多田さん曰く「少し空気を入れることで口当たりもまろやかになります」とのこと
    ゆっくりと傾けてお茶を注いでいく。最後までゆっくりと出し切る
    水で煎れたお茶だが、注ぐ前に茶杯をお湯で温める。そうすることで香りが一層引き立つように

    小山 すごい……。なんて言えばいいのか難しいですけど、和多田さんが淹れるお茶って、体の奥から「あ、おいしい」って感じがすごくするなと思っていて。茶茶の間のお茶はすごく久しぶりに飲みましたけど、変わってないなって感じますね。

    お茶は過渡期、未来は暗くない

    — 和多田さんも小山さんも「淹れ手」という、美味しいお茶一杯をつくる最後のポジションにいらっしゃいます。作り手側の変化も飲み手側の変化も日々感じていると思うのですが、今お茶の世界はどんな状況だと考えていますか。

    和多田 お茶を楽しむ文化も含めて今お茶の世界は過渡期なんだと思います。とにかくお茶の世界って分かりづらいだけじゃなくて、産業としてもまだ歴史が浅くて、情報が行き渡っていない。消費者に分かりやすく伝えるっていうところでは、本当に小山さんのやっていることはすごいと思いますよ。

    — 産業として歴史が浅いというのは、意外に思う人も多い気がします。

    和多田 お茶には様々な飲み方あります。例えば抹茶は鎌倉時代から続いています。千利休さんが茶湯を完成させて、それからもう400年近く経っているわけですよね。我々が今飲んでいる煎茶というのは江戸時代中期に中国から黄檗宗おうばくしゅうの隠元というお坊さんが日本に喫茶の文化と方法と楽しみ方をワンセットで持ち込んだところからスタートしました。本当に庶民が日常的に緑茶を飲むようになったのは、戦後の高度経済成長期以降なんですよね。つまり日本人誰もが緑茶を楽しめるようになったのは高々40〜50年の話です。うちの祖父なんかは「緑茶っていうのは高級品で、庶民がそんなに飲めるものじゃなかったんだぞ」ということを言ってたんですけど、母は逆に「お茶なんか当たり前の飲み物でしょ」って言うんですね。そして、お店に来てくださる最近の若い方たちにとっては、急須が家になくてペットボトルを買って飲むもの。急須で淹れたお茶を飲もうと思ったらお金を払って淹れてもらわないと飲めないという逆転現象が起こっているんですね。それはひとえに緑茶の歴史がまだ浅いから。コーヒー文化でいうところの大正〜昭和初期、喫茶店運動が始まって「銀座でブラジル飲もうよ」っていうのが今のお茶の世界。「西荻行ってSaténでお茶飲もうよ」みたいな感じですよね。

    — 確かに、「お茶っていいよね」って発見しているような感じですよね。

    和多田 そうなんですよ。だから、今が過渡期なんだと思うと、決して未来は暗くないんじゃないかと思うんです。お茶の素晴らしさを皆さんに知ってもらえれば、コーヒーとか紅茶とかもしくはウイスキーだったりとか、いろんな嗜好品と比べても緑茶って負けていない。(お茶が好きという人たちが)もう一歩踏み込んでくれるといいなと期待しています。

    お二人のお話はまだまだ続きます。後編では小山さんにもお茶を淹れていただき、美味しいお茶を楽しむために、どんなことが必要なのか。貴重な意見交換の続きをお楽しみに。

    和多田喜|Yoshi Watada
    [表参道 茶茶の間]店主。生産者、お茶問屋と対話を重ねながら、煎茶の楽しみをアップデートし続ける。厳選したシングルオリジンのお茶を、それぞれに最適な淹れ方で提供するスタイルに影響を受けたお茶プレーヤーは多い。『日本茶ソムリエ和多田喜の今日からお茶をおいしく楽しむ本』新装改訂版(二見書房)が好評発売中。
    chachanoma.com
    instagram.com/chachanoma_omotesando

    小山和裕|Kazuhiro Koyama
    [茶茶の間]などを経て、吉祥寺の日本茶とコーヒーの店[UNI STAND]の店長を務めたのち、バリスタの藤岡響氏と西荻窪に[Satén japanese tea]を開業。シングルオリジンのお茶から抹茶ぷりんまで幅広いメニューで人気店となる。現在は[Satén]を運営しつつ、店舗のプロデュースや専門学校などの講師なども務める。
    saten.jp
    instagram.com/saten_jp

    この対談はフードカルチャー誌『RiCE』のお茶特集号「お茶の時間 Art of Tea」に掲載された「美味しいお茶一杯の秘密(P38〜39)」の拡大版として再編集されました。『RiCE』のお茶特集号はお茶カルチャーを様々な角度で見つめながら、見て読んで、そしてお茶を淹れて飲んで楽しめる一冊に仕上がっています。全国の書店もしくはオンラインストアで購入可能です。詳しくはこちらをご覧ください。

    Photo: Junko Yoda (Jp Co., Ltd.)
    Interview & Text: Yoshiki Tatezaki

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