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多田製茶・多田雅典さんの 変化を楽しむ茶と人生 <前編>
大阪・枚方の製茶問屋[多田製茶]は、高級玉露から個性的な番茶まで幅広いラインナップでお茶のニーズに応えている。多田雅典さんは、このお茶屋に育ちながらも、大学卒業後は上京しマーケターとして活躍していた。「お茶は全然飲んでな…
2020.10.09 INTERVIEW茶のつくり手たち
前編では、宇宙や生命をテーマにしたオリジナルのお茶づくりについて教えてくれた大阪・枚方[多田製茶]の多田雅典さん。今回CHAGOCOROの取材のために特別にオリジナルブレンドのお茶を考案、そのお茶づくりのプロセスを垣間見させていただけることに! コンセプトから味のイメージを膨らませ、茶葉の組み合わせによってそのイメージを味と香りで表現する思考回路に迫る。
多田さんには「秋冬の温かいお茶が欲しくなる季節に向けて、新しいお茶をつくってほしい」というリクエストをさせてもらった。その投げかけに対して多田さんは「変化(へんげ)」というテーマで応えてくれた。
「キーワードは『変化(へんげ)』がいいと思いました。季節の移り変わりと、それに伴う様々な変化。暑くて冷たいものがほしくなるという夏から、過ごしやすくなって次第に寒くなっていき温かいものがほしくなるこれからの季節。味の印象で言えば『淡麗から濃厚へ』、もう少し抽象化すると『シンプルから複雑へ』という変化が感じられるタイミングだと思います」
多田さんは「落書き」と呼ぶのだが、お茶づくりをする際にまず自分の中でブレインストーミングをする。どんなキーワードからスタートしたとしても、このプロセスを通じてお茶としてのコンセプトに落とし込むことができるようだ。
「お茶の淹れ方、香味ということも同じように変化していきます。水出しで淹れていたところから、お湯で急須で淹れるようになる。『シンプルから複雑』ということに加えて、お茶自体にも『煎を重ねることによる変化』もあると思いました。1煎、2煎、3煎と淹れるごとに変化する複雑な香味を楽しむ日本茶をブレンドによってつくろうと思いました」
近年、シングルオリジンのお茶(品種茶)を味わえる機会は増えている。一口に「お茶」といっても様々な品種が存在し、色・味・香りなどそれぞれに特徴がある。スペシャルティコーヒーのように品種や産地、生産者による味の違いを楽しむスタイルは、こうしたシングルオリジンのお茶を紹介する店舗や生産者が増えるにしたがって身近になってきている。
「僕は最初(農研機構で)育種をするところにいたので品種の魅力にとりつかれていて。でも、お茶屋さんとって品種茶はクセが強かったり収量が確保できなかったり、様々な理由で扱いづらいという側面もあります。シングルオリジンにも長所短所があって、今『すごくいい』と言う人と『全然ダメだ』と言う人の両方がいるように感じています。それが歩み寄れたらいいな、というのも実はテーマの一つです」
多田さんの解説を聞きながら、「HENGE」に使われている3種類の品種茶を1種類ずつ飲み比べてみる。
まずは京都・和束産の「さみどり」。主に碾茶(抹茶の原料)や玉露として使われるお茶で、煎茶としてはあまり使われないそう。「薄いミルクのような香りが特徴的です。あるいは着物とか香り袋を思わせる和な香り。オトナなお茶っていいなと思い、少し妖艶な印象も出せればという希望も含んでいます。あとは渋味もしっかりとあります」。
次に鹿児島・頴娃(えい)産の「はるみどり」。多田さんが「ぜひ使いたいと思っていた品種」と言うはるみどりは、栽培が難しく作る農家も少ないそう。今年ようやく手に入った貴重なお茶。「これは甘味です。出来がいいとバニラ香がします。火香(仕上げの火入れで引き出す香り)ではなく、品種香で表現するというのはこだわったところです」
最後に三重・水沢産の「さえみどり」。海苔を感じさせる旨味がはっきりと香る。「ザ・伊勢のかぶせ茶という感じのお茶です。かぶせの香りと旨味がありますが、ミルクのような品種香も特徴です。色もきれいです」
使用する品種が定まったら、その配合割合の検証を行う。
「3つのパターンを試したのですが、パターン1は<さみどり2:はるみどり2:さえみどり1>という、頭の中で『こんな感じだとうまくいきそう』という正解を狙いにいった感じです。次に『これはやりすぎかも』という極端なパターン2。さえみどりを無しにして、はるみどりとさみどりを同じ比率にしました」
少し複雑に感じるが、渋味と香りを担当するさみどりと、甘味を担当するはるみどり・さえみどりという特徴を念頭に、味と香りのバランスを調整したということだ。
「パターン2は香りが強くて剥き出しな感じがした一方で、パターン1はバランスが良いけど香りがもしかするとわかりにくいかもという感じ。その中間のバランスを作りたいということでパターン3にたどり着いた感じです」
そうして完成したオリジナルブレンド「HENGE」。[多田製茶]のご協力により、数量限定で読者の皆さまにもお試しいただけるようプレゼントできることとなったので、ぜひお試しいただきたいと思うが、多田さんにも味と香りの解説をいただこう。
「1煎目では、基本は『はるみどりとさえみどりの甘さ』がメインで、それを薄皮のように『さみどりの渋味』が包んでいるような味を感じると思います。2煎目は景色がガラッと変わって、香りの塊がグッとくると思います。味から香りに変化して、渋味がくるのが2煎目です。(1煎目ではなく)2煎目で渋味が出てくるようにするために、さみどりの量を少なくしました。3煎目はふわっとミルクの香りが楽しめます。さえみどりの香りが最後に残っているんです。これをもっと強くすることもできるのですが、そうすると2煎目のさみどりの香りを隠してしまう。今回は2煎目の香りを活かしながら、3煎目にほのかなミルク香を楽しんでもらえるように作りました」
品種ごとの特徴が組み合わされることで階層的に引き出されるとても面白いブレンドを体感させてくれた多田さん。合組という日本茶製茶の伝統技術をあらためて見つめ直すことも意識しているという。
「令和時代のブレンド=合組はどう再定義できるかと考えていました。品質を安定させるための伝統的な合組の目的を変化させて、特徴的なシングルオリジンを配合することで様々なブレンド煎茶を作るというニューノーマルをお茶の世界でも提案していければと思います」
季節の変わり目に楽しんで淹れることができる「HENGE」で、日本茶の奥深さを体感してみてほしい。
「多田雅典さんによるCHAGOCORO限定のブレンド日本茶「HENGE」を読者の皆さまにも味わっていただきたい」
私たちの想いに応えてくださった[多田製茶]さんのご協力により、数量限定の1煎パック(5g入り)を読者プレゼントとしてご用意することができました。ぜひ、「HENGE」のお茶とともに季節の移ろいを感じてみてください。
<応募フォーム>
http://itoen.co/henge_cp
多田雅典|Masanori Tada
大阪に160年以上続く製茶問屋[多田製茶]の専務取締役。マーケティング会社に就職し、大手メーカーなどの商品キャンペーンの企画などを手がける。28歳のときに日本茶インスタラクターの資格を取得。「日本茶をもっと楽しく、もっと自由に。」をテーマに掲げるオッサム・ティー・ラボというグループでは、海岸での喫茶などさまざまなイベントを展開してきた。日本茶アドバイザー養成スクールの専任講師(日本茶鑑定)や大手調理師専門学校で日本茶の講師を務める。
Photo: Eisuke Asaoka
Interview & Text: Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール