• 市川実和子さんと楽しむ
    奥行きを感じるお茶の話
    <前編>

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    知って広がる、“決まりごと”のないお茶の世界

    お茶をいれて、飲んで、小休憩。
    たったそれだけの時間が、日常を豊かに感じられるきっかけになるものだ。

     女優の市川実和子さんも日々お茶を楽しんでいるひとり。気のおけない仲間たちと一緒にお気に入りの茶器でお茶を楽しんだり、茶人のお茶会に参加したり、日常の中に自然にお茶が定着しているのだという。すっかり秋めいた神宮前の昼下がり、お茶とお菓子のセットを味わっていただきながら、市川さんのお茶とライフスタイルを伺った。

    この日、市川さんが体験したのは、[NAGAE + 小昼屋(ナガエプリュス こびるや)]の「茶の小昼」というお茶とお菓子のセット。「小昼」とは、北信越・東北地方に引き継がれてきた食文化の一つ。朝早くから仕事に勤しむ職人や農家の人たちにとって、お昼の前にとるちょっとしたおやつはいい仕事のために大切な時間ということだ。

    NAGAE + 小昼屋では、旧くから人々の生活に根付いていたこのお茶飲みの文化を、小休憩に食べるおやつとしてアレンジ。長野県の市田柿のミルフィーユや羊羹オレンジといった爽やかで上品な甘味に加え、焼きラウス昆布で旨みも感じられるお菓子が銀色の皿にきれいに並ぶ。その様子は見ているだけでもうっとりしてしまう。「どれもすごく美味しいです。特に、羊羹オレンジはこのお茶にぴったり合いますね」と一つひとつ丁寧に味わっていく市川さん。

    透き通った琥珀色のお茶は、石川県加賀市[丸八製茶場]の献上加賀棒茶。豊かな香ばしさと甘みを感じる香りを放つこのほうじ茶は、1983年に石川県で行われた全国植樹祭で昭和天皇に献上されたという由緒あるお茶で、今もその上品な味わいで広く愛されている。当時、ほうじ茶はどちらかという庶民的なお茶として親しまれていたが、一番茶の良質な茎を浅く焙じてつくられる献上加賀棒茶は、旨みと芳しい香りでほうじ茶の新しい価値を示したといわれる。

    「献上加賀棒茶は、優等生っぽい雰囲気を持ったお茶ですよね。“きれいなお茶”という印象です」とおいしそうにお茶を飲む市川さん。最近お茶に対する興味がどんどん広がっているという市川さんにとってお茶はどんな存在となっているのだろうか。


    ―市川さんは、最近お茶にはまっているそうですね。

    はまっているというよりも、お茶は自分の中で“日常”という感覚が近いのかもしれません。あまりお酒が得意ではないので、気がついたらお茶を飲んでばっかりで。うちの妹(女優の市川実日子さん)もすごくお茶が好きで中国に行ったりするんですけど。そういうものをもらって飲んでいたら、普通に売っているお茶とはまた全然違うんだなということに気がつきました。

     ―普段、生活をしていて、お茶を飲みたくなるのはどんなときですか?

    朝ですね。起きたらまずお茶をいれます。寒くなってきたら毎日絶対に飲みますね。朝はコーヒーを飲む方も多いと思うのですが、コーヒーの場合は外でいれてもらったものを飲むほうが、おいしい気がしてしまって。お茶はまだ外で飲めるところが少ないのもありますね。

    ―市川さんはお茶会などにも参加されていて、周りにお茶が好きな人が多いそうですね。

    そうですね。[小慢(シャオマン)]の(山本)真理子さんと出会って、教室に通うようになったりして、お茶好きの人は周りに増えています。今では、茶人のお友達もいたりします。お茶のイベントにも足を運んだりしていますが、いろんな人がいて楽しいですよね。行くたびにたくさんお茶を買ってしまいます。

     ―お茶は今すごく盛り上がっていますよね。

    お茶も、お酒を楽しむのと一緒だと思うんですよね。ワインなどのお酒もすごく楽しいとは思うのですが、お茶は手頃な値段で長く楽しめるところがいいなと思っています。味も一煎ごとに変わっていくし、奥行きも深いですよね。

    ―お茶の世界に興味を持つようになったことで、ご自身の生活や仕事への向き合い方に変化などはありますか?

    茶人のお友達に出会ってからは、難しく考えなくて良いんだなと思いました。お茶の世界って、やっぱり少し入りにくいような気がしていたんですけど。私の周りの人たちはみんな、本当に自由にお茶をいれていて。それを見てイメージが一変したんです。例えば、拾ってきた木の枝や石、貝とか自分が好きなものを使ってお茶道具にしていたりして。私は、型にはまるのが苦手なタイプなんです。日本茶は日本茶の茶器で入れないといけないとか、中国茶は中国の型に合わせてちゃんとやらなきゃいけないとか。でも、そういう世界だけじゃなくて、堅苦しいところにはまらくても良いんだという風に思えるようになりました。

    ―お茶を通してさまざまな発見があったのですね。

    「ああ、こんな世界があるんだ」と、思いました。型だけでなく、味に関してもたくさんの驚きがありました。お茶にはいろんな世界があるんだということをぜひ多くの人に知ってほしいと思いますね。日本茶も、海外のお茶も、もっと気軽にいれられるティーバッグのお茶も、今は本当にいろんなお茶を楽しんでいます。

     日々の延長線上でお茶を自然に楽しむ市川実和子さん。市川さんご自身が愛用されている茶器のご紹介、普段どのようにしてお茶を楽しんでいるのかを伺ったインタビューは後編にて。


    市川実和子
    1976年3月19日生まれ。東京都出身。ファッションモデルとして活躍後、2000年に映画『アナザヘヴン』で女優デビュー。その後、映画・テレビドラマ・舞台などを中心に活動。主な出演映画に『イン・ザ・プール』、『余命』、『八日目の蝉』、テレビドラマに『ドン★キホーテ』(日本テレビ系)、『最高の離婚』(フジテレビ系)などがある。現在はモデルの他、文筆など多方面でも活躍中。
    www.instagram.com/miwako_ichikawa_ (Instagram)

    NAGAE + 小昼屋
    渋谷区神宮前にあるライフスタイルブランド[NAGAE +(ナガエプリュス)]に併設されている小休憩スペース。富山県高岡市で金属加工を行なっている株式会社ナガエが、日本の伝統の技にこだわりながら先端の技術も取り入れ、職人技術と伝統文化の交わるコミュニケーションプラットフォームとして運営。小昼屋は個人や企業へのスペースのレンタルなども行なっている。
    nagae-plus.com/jp
    www.instagram.com/nagaeplus (Instagram)
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    Photo: Norio Kidera
    Styling: Hiroko Umeyama
    Hair & Make up: Yumi Narai
    Interview: Hiroshi Inada
    Text: Ririko Sasabuchi

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