• 「整える」ってどういうこと?
    parkERs 梅澤伸也さんと
    K-Raku Style 森田敦史さん
    <前編>

    SCROLL

    初対面のお二人が、お茶をしながら考える

    parkERs(パーカーズ)は、人気のフローリスト[青山フラワーマーケット]を運営するパーク・コーポレーションが立ち上げた、グリーンを活かした空間デザインや室内緑化をプロデュースする新ブランド(事業部)。有名カフェチェーンやホテル、企業オフィスなど、創業から6年で多くの空間設計・施工を手がけてきた。植物、空間設計それぞれのプロ集団をまとめるのがブランドマネージャーの梅澤伸也さんだ。

    今年11月に完成したばかりのparkERsの新オフィスを訪れたのは、呼吸・整体という自分への気づきから心身を整える独自メソッドを提唱しているK-Raku Styleの森田敦史さん。自分自身の身体のサインに気づくことで元気な状態を継続することを重要視し、動きと呼吸を調整することで心身のバランスを整える手法を伝えている。

    仕事におけるストレスや疲労はどの時代にもつきもの。ワークライフバランスという価値観や働き方の再構築が徐々に進もうとする今日、心身のバランスを整える術はますます多くの人に求められるといえるだろう。「空間」と「呼吸」という異なるフィールドに身を置きながら、人の心身を整えることを日々考えるお二人。今回、特別対談が実現した。


    —早速ですが、静岡県の天竜川上流域の山間地で育った浅蒸しの煎茶をどうぞ。まずは森田さん、parkERsさんの新オフィス、印象はいかがですか?

    森田 人と緑の距離感が好きですね。昔から近くに緑のある環境で育ちました。そのときに気になるのが、やはり距離なんです。人と人の距離感も大事で、よく教えたりするんですけど、同様に緑との距離感もとても大事で。鬱蒼とした森はすごく怖いと感じるんです。でも、ここは光と緑そして自分との距離感がすごく自然だと感じます。

    梅澤 素晴らしいです。「parkERsって他の造園の会社さんとどう違うの?」といわれたときに「人と植物の距離をデザインさせたらものすごく得意ですよ」という話をするんです。植物って名脇役で、周辺視野に入ってくるとすごくリラックス作用があります。でも、当然ですが、パソコンの前に葉っぱが来るとストレスに変わる。つまり周辺にあることで作用はすごく高まるんです。距離感とおっしゃられて素晴らしいなと思いました。デザインのときに意識するのはそこなので。 

    森田 僕はこのあたりが一番好きなんです。

    梅澤 これ本来、室内の観葉植物じゃないんです。明治神宮で生えている苗木。室内で育たないといわれているものをあえてオフィスに入れて、在来種では何が室内で育つのかを実験しています。そして、在来種の方がリラックス効果を高めるといわれているんです。外来種はきれいで人気も高いのですが、馴染みのある植物の方が落ち着いたりする。我々は、日常を大切にしながらアップデートしたいという想いがあるので、どんな効果があるかということをちゃんとエビデンス化するということも一生懸命やっています。

    森田 素晴らしいですね。僕も呼吸といっていますけど、日常の息づかいが大切なんです。肺活量が高ければ元気で健康なんですかといわれると、実は全く関係ない。簡単にいえば、「日常の呼吸が止まらずにいられるか」。まず自分でどういう環境を選ぶかということにもなってきますよね。すると大事なのは結局フィーリングなんです。具体的にいうと、自分自身のいろいろなものに気付けているかということがベースなのかなと。そうじゃないと、凝るとか歪むとかだけにしか目がいかなくなる。

    —最近「整える」という言葉が多く聞かれると思うのですが、それに関して森田さんはどう感じますか?

    森田 要は、環境とか自分がやりたいことに応じて、しなやかに動ける心と体ができていれば整っているといえると思います。だから、ある意味「動的」なんです。静止的に姿勢や骨格を見て、治して、整いましたというのは足りない。人間は動いていくものなのに、正した姿勢から一歩足を踏み出した後についての知恵って、あまり教えてもらえないんです。その動的な部分をどう保つか、洗練させていくかというときに、実は呼吸がすごく使える。

    梅澤 質問なんですけど、森に行くと深呼吸したくなるじゃないですか。あれってどういうことだと思いますか?

    森田 そうではない人もいると思います。僕なんかは車の匂いを感じると深呼吸したくなる。人間が本能的に自然を求めているということはあると思います。ただ、もう少し視点を変えると、それは一種の解放欲求みたいなものかなと思います。

    梅澤 抑圧からの解放。

    森田 身体的にいうと、何かを凝視したときって、人間の身体って緊張して息が止まるんです。トラが獲物を狙うときと同じ。本来なら一時的にしか使えない状態を、生活のなかで実はずっと強いられている。

    梅澤 現代の社会は常に高ストレスといえるでしょうしね。

    森田 注視しやすいんです。力がぎゅっと入りやすい。でも、例えば山頂とか凝視のしようがないところに行くと、身体はふっと落ち着いてリラックスする。

    梅澤 そのお話で思い出しましたが、この仕事をやるきっかけがアフリカのサバンナでの体験で。その地を踏んで、土と風の香りと太陽の熱を全身で感じて、自分て生き物なんだなと、本当にそこで再確認したんです。この感覚を全人類が持ったら、戦争はなくなると思ったんです。確かに、サバンナの大地を見たときにふっと軽くなりましたね。逆に、ライオンやチーターを探したりというゲームもして、見つけた瞬間はグッと力が入る感覚ですよね。

    森田 バランスだと思うんです。凝視も必要ですし、外すことも必要。 

    梅澤 例えば、みなさんパソコンなりスマホなりをずっと凝視しているじゃないですか。それを外す意識を持つと少し楽になるということですよね。

    森田 意識的にというか、自然に外れる環境がつくれれば。ここがまさにそうですよね。アイデアが湧きやすい環境だと思います。アイデアが出ない人は、大体凝視しすぎているので。

    梅澤 自分のなかでルーティンがあって、それは朝泳ぐということ。水の中に入ることで、内省する時間をつくるんです。プールから出てシャワーを浴びながら「あの問題どうだったかな」と考えたときに、イエスなのかノーなのか答えをだすようにしています。 

    森田 素晴らしいですね。自分のなかで“はかり”となるルーティンを持っているかは絶対的に大事だと。僕の場合は呼吸で、梅澤さんの場合は泳ぐという。お茶は、ルーティンの典型的なものだと僕は思っています。例えば、お茶っぱの入れ方が今日は雑だなとか、お茶がでるまでの時間を待てる日と待てない日があったりとか。この一つの作法の中に全部入っていますよね。僕も毎日お茶をいれますけど、ルーティン化してくると、その日のコンディションがわかるんです。調子いいと思っていても意外と全然待てないとか。

    梅澤 あります、あります。その意識と身体の動きのギャップってすごくあります。

    整えることの本質に触れながら、忙しい生活のなかでバランスを保つためのヒントが次々に聞かれるお二人のお話は後編へとつづく。


    梅澤伸也
    1980年、群馬県生まれ。パーク・コーポレーション parkERs(パーカーズ)事業部 ブランドマネジャー。ソニー・ミュージックエンタテインメント、楽天を経て現職。アフリカ・ケニア旅行で自然や植物の潜在的な力に触れたことがきっかけとなり、パーク・コーポレーションへ転職。2013年、parkERs事業部を立ち上げた。
    www.park-ers.com

    森田敦史
    K-Raku Style代表、呼吸整体考案者、呼吸・整体勉強会代表。13歳で罹患した難病クローン病を自力で克服。その際に掴んだ「ふだんの息づかい」に着目し、独自メソッドを構築する。ノウハウの根底にある人間としての在り方の重要性を提唱しながらホリスティックな視点で情報を発信している。東京・渋谷での個人セッションで呼吸メソッドを伝えるほか、プロ向けの講習、一般向けの講座、重度脳性麻痺等の障がい者ケアにも尽力する。著書に『なにもしていないのに調子がいい ふだんの「呼吸」を意識して回復力を高める』(クロスメディアパブリッシング)。
    k-raku.jp

    Photo: Junko Yoda (Jp Co., Ltd.)
    Edit & Text: Yoshiki Tatezaki

    TOP PAGE