• 自由に飲むのがいい。
    個性楽しむお茶紹介
    Ocha SURU? Lab.
    一煎パック編 Part 3

    2021.01.15

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    日常のライフスタイルがたえず変化するなか、お茶のあり方はどうか。「暮らし」と「お茶」との間に「問い」を立て、現代の感覚で私たちなりの「解」を探すべく、CHAGOCORO編集部が総力を挙げて研究を重ねる「Ocha SURU? Lab.」。

    「変化の2020〜2021年、今、淹れたくなるお茶とは?」という問いから、個性豊かなお茶を手軽に、そして自由に楽しんでもらうための一煎パック=「シングルサーブ」が完成しました。

    Part 1Part 2にご登場いただいた[奥富園]の奥富雅浩さん、[Satén japanese tea]の小山和裕さん、[VAISA]の郡司淳史さんのほかに、さらに3名のお茶が今回のシングルサーブセットではお楽しみいただける形となっています。

    熊本県益城町[お茶の富澤。]の富澤堅仁さん
    大阪府枚方市[多田製茶]の多田雅典さん
    静岡県静岡市[茶屋すずわ]の渥美慶祐さん

    CHAGOCOROでもすでにその個性あふれるお茶づくりについてお話を伺ったことのある3名ですが、今回改めてシングルサーブに込めたお茶と想いを聞きました。

    お茶の富澤。「奥豊か」
    運命的なお茶

    富澤さんの「奥豊か」は、一言でいえば衝撃的なお茶です。

    強烈な旨みと甘みは淹れた時の香りからはっきりと届き、「だしのよう」とすら感じるこのお茶は、誰もが知っているはずの日本茶のイメージを覆してくれます。

    「本当に、『何これ?』って驚かれるくらい旨みがあります。旨みをさらに引き出すとろみがあるのですが、同時に丸みもあって、女性的というかまろやかさもあります」

    富澤さんに味の特徴を聞くと、端的にそう説明してくれました。さらに、奥豊かは「ごまかしをしていない、素材本来の味」と語ります。その理由は茶の木の育て方にあるそうです。

    「お茶を育てると言った時に、僕は土に7割くらい比重を置いています。人の身体と同じだと思うのですが、しっかりとした土台がないと、その上に強いものは育たない。かぶせ茶というのは、お茶の木に対してストレスがかかるんです。そのために土にしっかり栄養があることが大切。科学的に分析をして、いい循環になるように土を育てています」

    奥豊かの力強さの理由を熱く語ってくれる富澤さん。自身にとって、「おくゆたか」という品種のお茶は「運命的な存在」だったそうです。

    「試験場でいろんな品種を勉強している時、それほど知識がない時からおくゆたかの味が好きで、実家に帰ってきてからうちにおくゆたかがあったことを知って驚いたんです。先々代が植えていたものだったのですが、ずっと他の品種と混ぜられてしまうような使われ方でした。『もったいない、これは特別なお茶が作れる!』と言ってかぶせ茶にしたら、1年目の出来がすごく良くて! 熊本にかぶせ茶は定着しないと言われていたような状況でしたが、自分にとっても看板になるようなお茶を探していた時、奥豊かがまさにそういう存在になりました」

    旨みの強い奥豊かは、50〜60℃に冷まして60秒ほどで入れるのが定石ですが、最近の富澤さんの淹れ方は「98℃で30秒」と熱めだそうです。

    「寒い時は熱々で飲みたいですよね。帰ってきてすぐとか、お風呂場に行く前に身体を温めたり。今回の奥豊かは出来が良いので、熱いお湯でもしっかり旨みが出ます。もったいないって言われるんですけど、いいお茶で好きに淹れるからこそぜいたくでいいと思います!」

    多田製茶「HENGE」
    新時代に向けたお茶

    続いて、[多田製茶]多田さんがCHAGOCOROのために作ってくださったブレンド茶「HENGE」。活き活きとした旨みで頭がリラックスするような1煎目。2煎目では、妖艶さをまとった香りと渋みが立ってきて、気分が切り替わるような感覚になります。

    そうした煎を重ねた時の変化を楽しむことをコンセプトに設計されたお茶がHENGEです。

    奥から1煎目(60℃、90秒)、2煎目(75℃、40秒前後)、そして3煎目(熱湯、15秒)を注ぐところ

    「コンセプトを明確に打ち出して作るという点が、今までにはない合組の仕方だと思っています。ブレンドの配合もオープンにしましたが、それもコンセプトがあるから説明ができることなんです」

    「お茶の設計」という世界を楽しみながら、自分の感覚にもいつもより敏感になれる気がします。一方で、「もう皆さん自由に飲んでくださいね、という気持ちでいます」と軽やかに笑う多田さん。

    ご自身の飲み方を聞くと、「本を読んでいて頭の整理をしたい時とか、プレゼンを作っていてちょっと休憩したい時にすごく良いお茶だなぁと我ながら感じました。1煎目で脳に味わいを与えて落ち着く。2煎目で香りと渋みでスイッチを入れ直すという感じです」と教えてくれた。

    (京都・和束の爽快感のあるお茶を普段よく飲むという多田さん。HENGEのブレンドにも和束の「さみどり」という品種が使われている

    「でも、“ながら飲み“でももちろんいいんですよ。お茶って、作り手のロジカルな視点と飲み手の自由な受け取り方があって、無言のコミュニケーションだと思うんです。コンセプトだったり情報はお伝えした上で、受け取り方は自由。そこに生まれるコミュニケーションを大事にしたいですね」

    茶屋すずわ「団欒」
    名脇役でありスタンダードなお茶

    [茶屋すずわ]の渥美さんのブレンド茶「団欒」は、お茶らしいお茶と表現したくなるお茶。団欒という名前の通り「親しい人とわいわいする時に飲みたいお茶です」と語る渥美さん。

    「縁側でおしゃべりしながら飲む、みたいな。縁側って今あまりないですが(笑)。お茶の楽しさって茶葉そのものだけではなく、その風景とか時間だと思っているんです。という意味で『お茶の場にあるべきお茶』というか、名脇役なお茶だと思います」

    ふくよかな香りと味わい、優しくて長い余韻。あたりまえなくらいしっくりきて、ないと物足りないような、「お茶らしいお茶」と表現したくなる所以です。

    80〜90℃、50秒という推奨の淹れ方を紹介している一方で、「どんな淹れ方をしてもいいお茶です」と渥美さんは言います。

    「熱いと香りと渋みが出てきますが、甘みもある。低温だと旨みが際立つ。淹れ幅が広いお茶ですね。向き合うお茶というより、ほんとに名脇役というか、コタツにミカン的な感じです」

    4種類のお茶のブレンドで作られている団欒。本山、春野、天竜、牧之原と全て静岡産

    飲む人によって好きな味のポイントが違うのも、この複雑なブレンドのお茶の特長と言えそうです。

    「スタンダードなお茶って良さがわかりにくいかもしれません。でも自分なんかも結局こういうお茶に戻ってくるんです。静岡も長く住むと良さがわかってくるようなところがありますが、それに似ているかも。静岡らしいお茶なのかもしれないですね」

    きょう何飲んだ?

    三者三様のお茶づくり、お茶の味があるように、全国にはさまざまなお茶があり、ストーリーがあります。自分自身のペースで、生活のリズムに合わせて、お茶を飲み始めてみると思っても見なかった気づきが多くあります。

    皆さんこだわりを語ってくれたのと同時に、自由に飲むことの大切さも一様に教えてくれました。飲む人たちがいてはじめてお茶が完成するとは奥富さんの言葉ですが、ぜひお茶を淹れて飲むことを自分のモノとして楽しんでみてはいかがでしょうか。「きょう何飲んだっけ?」と一日を振り返ってみると、暮らしが少し変わるかもしれません。

    Photo: Taro Oota
    Text: Yoshiki Tatezaki

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