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茶の季節を待っている 狭山の次世代を担う [横田園]横田貴弘さん <前編>
八十八夜カウントダウン 時折感じる春の兆し。冬を越えたかと思えば、強烈な寒の戻りで地域によってはまだ雪の注意も必要な2月中旬。「三寒四温」という言葉はもともと中国の冬場の周期的な寒さを表す言葉だったそうだが、日本において…
2021.02.19 INTERVIEW茶のつくり手たち
立春を過ぎ新茶の芽吹きが少しずつ近づいてくるような2月の某日、埼玉県狭山市の[横田園]を訪ねた。前編では、6代目の横田貴弘さんに茶畑を案内してもらいながら、一所懸命に励むお茶づくりの現場を覗かせていただいた。家族経営の[横田園]のお茶づくりを担うのは貴弘さんと父で5代目の泰宏さんの二人。「手の届く範囲でやっています」と貴弘さんは話すが、広さは延べ2.2ヘクタール。東京ドームが約4.7ヘクタールだから、そのおよそ半分の規模を管理していることになる。
[横田園]で今おすすめの品種だという「おくはるか」を淹れていただき、お茶づくりに真摯に向き合う姿勢をさらに聞いた。
晴天の下、きれいに整えられた茶畑を巡り、お茶を一服いただく。おくはるかは桜のような香りが特徴なのだと貴弘さんは教えてくれた。華やかな香り立ちに、さらりとクセのない飲み口、飲み込むとたしかに桜餅を思わせる香りが残る。このお茶にはどのような思い入れがあるのだろう。
「おくはるかは2015年に品種登録された新しい品種です。品種登録される以前に、埼玉県の試験場の方が父に試しに植えてほしいと依頼してくださったそうです。僕が入る前の話ですが、最初のうちはあまり香気の特徴もうまく掴めなかったそうです。でもだんだんとこの桜葉のような香りも出てきて、ここ数年でようやくいい状態になってきたというお茶なんです。自分たちはおくはるかを先駆け的に育ててきたので、研究してきた自負もあります」
お茶の品種といえば「やぶきた」が圧倒的に有名だが、冒頭で貴弘さんが暗唱してくれたように[横田園]では現在13品種が栽培されていて、その数は今後も増える予定だという。
「それまでやぶきた一辺倒だったですが」と話すのは父の泰宏さん。「私が就農した頃から、少しずつ品種化を図っていこうと。そしていざ息子がお茶をやってもいいとなってからは、さらに品種が変わってくる中で息子が自由にやれる場所を作っていこうということで、どんどん品種化が進んでいったというところですね」。
それを受けて貴弘さんは「でも、うちの父は何でも試したがりなので。そうだよね?」と笑う。「そうですね。ですから失敗したって言って、(茶の木を)抜いたこともございますし」と泰宏さんは恐縮したように答えていた。
微笑ましいほど良好な親子関係と感じさせる二人の会話。お茶に対する情熱はお互い負けず劣らずだそうで、「茶工場に入るときは我先に入りますね」と貴弘さんは言う。
「僕もお茶を揉むのは好きなんですけれども、荒茶工場(摘んだ葉を蒸して揉む作業など)は父が楽しんでよくやっているので、僕は仕上げの方が多いんです。『今日は揉むぞ』と思った日でも、父が先に入っていたりして。でもやっぱり信頼していますし、いいお茶をつくるのは間違いないので。『親父が作った荒茶、あとは俺に託してくれ!』みたいな。まぁ、連携ですよね」
お店の中では泰宏さんと母・郁子さんがお客さん一人ひとりに丁寧に説明をしながらお茶をすすめていた。自らの茶園を持ち、自ら製茶し、自ら販売する、「自園・自製・自販」というスタイルが狭山茶の特徴だが、横田さん一家はお客さんと対話しそれをお茶づくりに活かすということを丁寧に行なうお手本のようなお茶屋だ。
品種がどんどん多くなる傾向も、お茶を楽しむ人の嗜好の変化に対応するように、新しいチャレンジに積極的であるがゆえといえそうだ。
40年以上にわたってお茶づくりをつづけている泰宏さんに、今どのようなお茶に面白さを感じているか尋ねてみた。
「息子がここのところほうじ茶をすごく意識し始めていまして。かつてはほうじ茶というと、一般的には出物(茎や芽など煎茶をつくる際に除かれる部分)という表現をされていたのですが、近頃ではほうじ茶の味わいの違いというのをすごく感じるようになって、香りもまた一つのポテンシャルになってくるのかなと、そういう気がしていますね」
[横田園]では3つのグレードのほうじ茶を販売している。店舗でも需要の高いほうじ茶だが、昨年新たな展開があったという。東京・駒場[Lim.]のメニュー監修をしているバリスタの藤岡響さんが[横田園]のほうじ茶を同店特製の「ほうじ茶ラテシロップ」の素材として見出してくれたのだ。
コロナ禍は客足にも影響を与えていたが、昨年12月に完成した「ほうじ茶ラテシロップ」は、「自分たちの届かない場所で自分たちのお茶の魅力を発信してもらえる」という新たな視野が広がるきっかけになったそうだ。「自分たちのお客様ももちろん大事ですが、自分たちの代わりに魅力を伝えてくださる方々も大切にしなきゃいけないなと再確認できました」と貴弘さんは話す。
「ほうじ茶ってそれまで、原料によって味や香りは変わらないと思っていた部分があったのですが、やっぱり茶種や品種によって違うことに気付かされました。茎が多い方が甘みが強いと言われるんですけど、その分香りは落ち着いたものになってしまうので、お客様の反応を見ながら本当に試行錯誤しながらやっています」
そう話しながらも来客の対応を手伝う貴弘さん。「こうやってたくさんお客様が来てくださるのは、手前味噌ですが、店のいいところの一つじゃないかなと」。
そうしたお客さんの存在は、お茶の作り手としての貴弘さんの姿勢に大きな影響を与えたのだと教えてくれた。
「実は僕も就農して少し慣れてきた頃がありました。とがっていたわけではないんですけど、微妙な味わいの違いがお客さんにわかるのかと思ったり、ちょっとだけ見栄えが悪くなっても大丈夫だろうって思ってつくっちゃったときにですね、お店に立つと罪悪感が湧いてくるんです。手抜きをした自分がわかっていると、背中がキュッと、冷や汗が出るような気持ちになったんです。そこからは真摯に、お客様を裏切っちゃいけないなという気持ちになりました。お得意様に『去年のと違うね』って言われたとき、やっぱり心臓を針で刺されたようにビクッとするので、やっぱりもう『嘘つけない、真摯にやろう』って。お茶を淹れて飲んでいただくところに至るまでに、仕上げの前の荒茶、その前に畑があって土づくりとか環境づくりも大事だって考えていくと、やっぱりお茶に対しても嘘がつけないなと思いました」
コロナの影響によって少し立ち止まる時間ができたことで、こうした意識をさらに強いものになった。
「それまで何となく感じていたのを、去年時間がありあまる中で、とりとめもなくノートに書いたりして。『もう本当に正直に、嘘をつかない、お茶に対してもお客さんに対しても嘘をつかないで正直にやる、真摯にやる』っていうことを決めた一年だったので、今年は本当に改めて……はい。」
最後の言葉を飲み込んだところに、その意識の迫真さと、“本番”が近づく緊張感のようなものが感じられた。新茶はやはり一年の成果を世に出す特別なタイミング。静かながら気運はたしかに高まっている。
「新しく旨味のある品種や香りのいい品種が今年から採れるんです。去年再確認したことを具現化するために、いいお茶をつくっていく。自分たちのお茶を広めてくれる人、自分たちのお茶が好きで来てくれるお客様たちを大事にするようなお茶づくりを今年はしっかりとやっていきたいところです」
横田貴弘| Takahiro Yokota
1990年生まれ。狭山市でお茶を製造販売する[横田園]の6代目。大学の農学部で農業マネジメントを学び家業を注ぐことを決め、農研機構金谷茶業研究拠点での研修を経て、現在父の泰宏さんら家族とともに[横田園]を支える。
yokotaen.com
instagram.com/tobu.yokotaen
Photo: Taro Oota
Interview & Text: Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
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