• 茶農家と茶問屋とともに
    お茶を日常のものへ
    Chabashira 杉山将夫さん
    <前編>

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    1年ほど前、ライフスタイル誌の日本茶特集内でDJのLicaxxxさんがスタイリッシュに飲んでいた緑茶が印象的だった。透明なプラスチック容器にストローが差さっている様子はアイスコーヒーのようだが、中身は爽やかな緑色。ポップに提案されるお茶のかたちが新鮮に映った。目を凝らせば、カップには「TOKYO BENTO STAND」の文字。調べてみると、CHAGOCOROでもお馴染み静岡の[茶屋すずわ]と「Chabashira」というブランドの合作「TOKYO GREEN TEA」というお茶で、渋谷並木橋の[TOKYO BENTO STAND]限定で販売されているものだとわかった。

    「Chabashira」とはいったい何者なのか? どうやら静岡を活動の拠点に置くも、店舗を構えているわけではなさそうだ。ハーブのブレンドティーなど商品ラインナップはバラエティに富み、仕上げ加工前の荒茶を販売したり、「ほうじ茶DIYキット」まで手掛けていたりと、その活動はじつに自由に見える。徐々に春めく静岡に伺って野外お茶会をしながら、Chabashira主宰・杉山将夫さんにお話を聞いた。

    身近すぎて気付かなかった静岡のお茶文化の豊かさ

    「山のほうに向かいますのでついてきてください」と、東名高速道路の静岡ICを降りたところで合流したChabashira主宰・杉山将夫さんの車を追い、安倍川を左手に曲がりくねった道をどのくらい揺られていただろうか。車窓からはいたるところで茶畑が見える。静岡が育んでできたお茶の歴史を感じていると、車が停まった。一般の人なら見過ごしてしまう茶畑と茶畑の間の細い道を歩いて抜けると、安倍川の支流にたどり着いた。

    自分だけが知っている秘密基地のような趣きにワクワクする。杉山さんは慣れた手付きで川辺に丸テーブルをセットし、お茶を淹れる準備を始めた。ふだんから野点のだてをしているようだ。

    「半日ぐらいかけてゆっくりしたいときは急須や道具を持って行ってお茶を淹れますけど、1〜2時間のときはティーバッグで気軽に飲んだりしています。自然のなかにいると落ち着くじゃないですか。日常のちょっとした間というか、それだけで気持ちがすっきりするんですよね」

    Chabashira主宰・杉山将夫さん。玉川のお茶を飲むなら玉川で飲みたいと、車で探し回って見つけたスポットに案内してくれた。「子供の頃から山で遊んでいた延長ですね」

    出身は静岡県島田市金谷。静岡でも茶業が盛んな地域に生まれ、小さい頃から一日中お茶を飲むことは当たり前。両親とともに祖父母が持つ茶畑を手伝い、荒茶製造をする茶工場でアルバイトもしたりとお茶との関わりは深かった。そんな静岡のお茶文化の尊さに気付いたのは、今から約15年前、都会での暮らしをしたいと住んでいた大阪にいたときだった。

    「大阪だとほうじ茶が出てくるんですよ。静岡だとどこに行っても緑のお茶なのに。そのとき、日本全国でも緑茶を飲んでいる人って意外と少ないんじゃないかと思って。静岡をはじめとするお茶文化がこのまま廃れていくのはもったいないというか、もっと飲んでもらえる可能性があるんじゃないかなと思ったんです」

    頭の片隅でそう思いながらも、転機が訪れたのはそれからしばらく経った2016年夏。友人の結婚式の席で交わされた「最近、お茶どうよ?」「厳しいね」との会話の流れからChabashiraとして活動を始めることに。当時のメンバーは初倉で茶農家を営む者、杉山さんと同じくなんらかのかたちでお茶との関わりが深かった者らの3名(現在は杉山さんひとりで活動)。

    癖なく毎日飲めるものが良いお茶

    Chabashiraがまず始めたのはドリンクとしてお茶を売ること。みんなが「茶葉は売れない」というのであれば、ドリンクにして売ればいい。単純明快かつ自由な発想にハッとさせられる。静岡県内で開かれるマルシェに、ティースタンドの形態で出店し、お茶と触れ合える場の創出を目指した。売り上げは好調。コーヒーにも負けない好感触と新たな気付きを得た。

    「僕らはお茶を飲まない同世代に向けて新しくアプローチしようとしていたんですが、買ってくれるのはお茶好きの人が多かったんですね。であれば、その人たちに届けて広めてもらえればいいんじゃないかと考えるようになりました」

    そのときの杉山さんは、品種のお茶に関する知識などもあまりなかったため、茶農家を訪ねてはお茶をいただくことを繰り返した。「一時期いろいろな品種が面白くてすごくハマってましたね。ただ正直飲んでもわかんないこともけっこうあったんですよ。年によって、良し悪しもありますし」と、知れば知るほどわからないことが増えるようなお茶の奥深さを改めて発見していった。

    「最初は、熱めでもぬるめでもお湯で淹れれば味はぜんぶ一緒だと思っていたくらいのところからだったので、ここ1〜2年でお茶を見る目はだいぶ磨かれた気がします。茶問屋さんとの付き合いも多くなってくると、その製茶や焙煎の技術のすごさもわかってきて。焙煎とかもいずれは自分たちでできたらかっこいいなと思いますけど、今はまだ力量が足りないので、焙煎や製茶はすずわさんはじめ茶問屋さんにお願いしています」

    お茶のことを知るにつれて、むしろオーソドックスなお茶を扱うことを心掛けるようになった。「結局、癖がなく毎日飲めるものが良いお茶だと思うので。一見普通なんだけどちゃんと質の良いもの」と語る杉山さんの表情にはお茶と真摯に向き合う想いが滲む。

    「自分にとってお茶を淹れて飲む時間って大切なんだなと思います」と飾らずに話す

    ここで一服。浅蒸しの煎茶「玉川」を淹れていただこうと思った矢先。杉山さんは徐ろに茶葉が入った袋に鼻を突っ込んで数秒間香りを感じている。「脳天に記憶させるような気持ちで、袋を開けたときの第一香を嗅ぐんですよ。良い香りがすると良いお茶だなって」。なにやら「まず香る」が淹れる際の作法のひとつのようだ。急須にお湯を注いだのち、時折、蓋を開けては茶葉の膨らみを確認して淹れるタイミングを見計らう。もうひとつの特筆すべき所作は後編に託すとして、ひとつひとつの動きがじつに画になる。

    「2020年物は強風で茶葉が擦れて黄色くなってお茶の色も全体的に黄色いんですよ」というが、それでも澄んだ黄緑は美しい。山のお茶ならではという豊かな香りと、浅蒸しですっきりとした味わいで清々しい気分に。流れつづける川の音やキリッとした風を感じながら、いったんティーブレイク。後編につづきます。

    Chabashira|チャバシラ
    2016年、静岡県島田市にて明治から5代つづく現役お茶農家と仲間の3人でプロジェクトをスタート。出張ティースタンドやイベント企画、メニューのプロデュースなどを通じて、自分たちに身近な存在である日本茶に触れてもらう機会を創出している。杉山さんは電気設備の会社を営むかたわら、Chabashiraでさまざまな企画を進めている。
    chabashira.theshop.jp
    instagram.com/chabashira.japanesetea

    Photo: Yuri Nanasaki
    Text: Yoshinori Araki
    Edit: Yoshiki Tatezaki

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    茶農家と茶問屋とともに お茶を日常のものへ Chabashira 杉山将夫さん <後編>

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