• 西荻窪の街角に生まれた
    日本茶とコーヒーの交差点
    Satén japanese tea
    <前編>

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    お茶屋とカフェの組み合わせは、どう生まれた?

    ぴかぴかに磨かれたイタリアの高級老舗メーカー「ラ・マルゾッコ」のエスプレッソマシンが鎮座するカウンター。マシンに貼られたステッカーにも個性が感じられて、なんだか格好いい。

    話題のコーヒーショップを紹介しているわけではない。西荻窪にある[Satén]は、確かにコーヒーが飲めるものの、各地のリーフティーをはじめとして、バラエティに富んだアレンジドリンクや軽食も充実する「日本茶スタンド」である。本格的なエスプレッソマシンがある日本茶スタンドという組み合わせ。Saténの店の成り立ちを聞けば、それがミーハーな取り合わせではなく、必然な融合であることがわかる。

    お茶の抽出を専門とする“茶リスタ”小山和裕さんとコーヒーを専門とする“バリスタ”藤岡響さんがタッグを組む形で、2018年の4月にオープンしたSatén。お茶とコーヒーという隣同士のような存在だが、どちらかに特化した専門店が多い中、異色のお店がうまれた背景を知るべく、まずは藤岡さんの経歴を振り返る。東京・南青山[CAFÉ KITSUNÉ]を経て、アメリカ・サンフランシスコ発のBlue Bottle Coffee国外初の店舗となった清澄白河店でバリスタトレーナーを務めた。どこの誰がどのようにつくったかという背景も個性として楽しむシングルオリジンコーヒーの魅力を日本で広めながら、コーヒー業界で15年以上のキャリアを積んだ藤岡さん。お茶の世界に足を踏み入れるきっかけは、一体何だったのだろうか。

    コーヒーの抽出を担当するのは藤岡響さん

    「長年コーヒーを仕事にしていましたが、毎日コーヒーばかり飲んでいるわけじゃない。時にはお茶も飲みたくなりますよね。いつか自分でお店をやるときには、日常使いができる場所にしたいと思っていました。そうなるとコーヒーだけではなくて、お茶も必要だなと感じていて」と藤岡さん。お茶への関心と興味が高まる中で知り合ったのが、当時吉祥寺[UNI STAND]という日本茶カフェでバリスタならぬ“茶リスタ”としてお茶を淹れていた小山さんだった。

    「僕も“茶リスタ”という名前を使わせていただいていますが、はじめはバリスタに憧れていたんです。もともとコーヒーは飲めなかったんですけど、プロのバリスタが淹れたコーヒーは美味しく飲むことができたというすごくシンプルな理由で」と笑って話すのは小山さん。コーヒーのセミナーに参加するなど、バリスタを目指しはじめた小山さんだが、あることに気づいたという。

    「お茶のセミナーって、町内会のカルチャー教室みたいなものしかなかったんです。コーヒーと比べると注目度の差がありました。雑誌で特集が組まれたり、世界的な大会で活躍したバリスタの名前が出たりフィーチャーされる一方で、お茶への関心はまだまだ。だからこそ、そこに可能性を感じたし、コーヒーの世界にいくよりも、『あえて』日本茶で勝負する方が面白いかもと思ったんです」

    お茶の抽出を担当する小山和裕さん

    流行のコーヒーに追従するよりも、お茶の世界に飛び込むことを決意した小山さんだが、いきなり壁にぶつかる。「ハローワークに行って、お茶関連の仕事を探しても、ほとんどありませんでした。実際にお茶を淹れられる職場としては、谷中銀座にあった90年以上続く老舗のお茶屋さんだけ。まずはそこで働くことにしたんです」

    お茶の抽出をさらに深く学びたいと思った小山さんは、表参道の日本茶専門カフェ[茶茶の間]で研鑚を積んだ後、UNI STANDの立ち上げに参画する。そして、同店にお客として来ていた藤岡さんと出会うこととなるのだが、ふたりがSaténというお店を始めることを決意した背景には、お茶業界に対する共通の疑問があった。

    「コーヒースタンドをはじめ、テイクアウトでも楽しめるお店が増えてきたのに、お茶ってそこに踏み込めていないなと。とても素敵な想いをもっている生産者さんが多いからこそ、『あれも伝えたい、これも伝えたい』となる気持ちはわかるのですが、それを全部伝えようとすると、どうしても時間がかかってしまいますよね。その結果として『まず30分ここに座って……』みたいな時間的なハードルがうまれてしまう。テイクアウトのような手軽さからは離れていくし、カジュアルにお茶を楽しむのが難しくなります」と、コーヒーとの違いを肌で感じていた藤岡さんは語る。

    「コーヒーの世界ってピラミッドが明確だと思うんですね。喫茶店や個人でやっているような専門店があって、スターバックスのような大型チェーン店があり、缶コーヒーのようなどこでも楽しめるものまである。いずれにせよ、消費者は選べるじゃないですか。お茶は100円で飲める(缶やボトルの)商品があるけど、その次はいきなり、長い時間をかけて楽しむというようなハイエンドなものになってしまう。その中間があまりないという気がしていました。だからこそ僕たちは、気軽に毎日行けて、日常に溶け込むような場所をつくりたかったんです」と小山さん。

    お茶に携わってきた者として、またコーヒーに携わってきた者として。それぞれの視点から感じた課題に対するアプローチとして、シングルオリジンでこだわりのお茶がカジュアルに楽しめる場所が完成した。加えて、お茶好きだけを対象にしているわけではないから、様々な世代が詰めかける場所となっている。後編では、メニューや空間について詳しく聞きながら、一躍人気店となったSaténの本質を探っていく。


    3月1日(日)に渋谷[JINNAN HOUSE]内の茶食堂[茶空 SAKUU]にて、「出張Satén」を開催予定。煎茶、ほうじ茶、抹茶、アイス抹茶ラテ、抹茶プリンなど人気メニューが限定で楽しめます。


    Satén japanese tea
    2018年4月西荻窪にオープン。茶リスタの小山和裕さんとバリスタの藤岡響さんという二人のスペシャリストが手がける日本茶スタンド。抹茶ラテや抹茶プリンから、茶器を使って淹れるシングルオリジンの日本茶まで、人々の日常に溶け込むお茶を届けている。また、今年5月で第3回となる「Japan Matcha Latte Art Competition」を主催。イベントなどを通じて日本茶の価値、ストーリーを広めている。
    www.instagram.com/saten_jp (Instagram)

    Photo: Yuri Nanasaki
    Text: Shunpei Narita

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