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茶畑からうつわ一杯へ 好きの先に紡いでいく 映画『ごちそう茶事』 たかつまことさん <前編>
目の前に差し出された「うつわ一杯」。この向こう側に、どんな世界が広がっているのだろう。 “お茶のご縁”に引き寄せられ、共感の連鎖で製作された日本茶のドキュメンタリー『ごちそう茶事』が完成し、映画観賞会が開催された。茶の品…
2021.04.20 INTERVIEW日本茶、再発見
“お茶のご縁”に引き寄せられ、共感の連鎖で製作された日本茶のドキュメンタリー映画『ごちそう茶事』の上映会がJINNAN HOUSEで開催された。茶畑からうつわ一杯の日本茶へ。世代と国境を超え紡がれるリレーが映し出される中、会場で振る舞われたお茶は3種。映画の進行に合わせた日本茶のペアリングを考案し提供するのは映画制作の発起人であり、“発信する日本茶ファン”を自称するたかつまことさん。前編に引き続き、「うつわ一杯の非日常」からはじまるご縁についてお話を聞いていく。
うつわ一杯の静寂。映画の冒頭、街の雑踏と好対照を成すように[櫻井焙茶研究所]の櫻井真也さんが静かにお茶を注ぐ。そして一杯のお茶の育った場所へさかのぼるように、景色が移動していく。快晴のなか⼭肌で葉を揺らす茶畑の景⾊が映し出される中、たかつさんから鑑賞者へ、一杯の冷茶が差し出された。
ひと口、うつわに顔を近づけた瞬間、ふわっと鮮やかな碧の香りに包まれる。ひんやりとした口当たりに対して、ずっしりとした濃度感。 滋賀県・朝宮の「香駿」を軸とした“シン・合組”と言うべきこだわりのブレンドに、京都府・宇治の「やぶきた」をかけわせた一杯。 お茶を通じて映像の向こう側と繋がるような不思議な感覚に、体験型の映画、4DXのようだという声も上がった。
映画をどう“味わって”もらえるか。日本茶一杯が作り出す“日常と非日常の間”を感じてもらえるよう、見る人とお茶との距離感を意識しながら映像を構成編集していったという。
「お茶を飲んでると自然となにかこう、体はここにあるのですが、気持ちが別のところへ行く感じがある。非日常といっても、旅行に行くみたいな感じではなくて、日常以上特別未満ぐらいの感じなんですよ。自分に向ければそれは“ととのえる”感覚に近いかもしれないし、相手に向ければ“おもてなし”になる。『お茶を淹れるというのは、最もシンプルな料理』だと仰っている方がいて。非日常に寄ると高級料理店のティーペアリングがあるし、日常に引き寄せると無意識のうちに日々手に取るお茶になる。映画の中ではその振り幅を意識しています」
湯をさして淹れる一杯が、まったく別の表情を見せるのだから不思議だ。淹れ手によっても捉え方はさまざまで、二度と同じ味が入らないのが良いという人もいる。不安定さゆえ、その一杯が特別なものになるのもリーフの日本茶の特徴かもしれない。
茶畑からはじまり、茶摘みの風景、製茶されていく過程が映し出される中、聞き慣れない言葉があった。「萎凋(いちょう)」という製造工程。一般的な煎茶は茶葉が萎れる前、収穫後すぐに蒸して酸化酵素の働きを止めて作られるのに対し、「萎凋茶」は収穫後にあえて空気にさらし、酸化酵素の働きによりゆっくりと萎れさせることで独特な風味と香りが生まれるというもの。中国茶や紅茶など近い製茶方法だが、日本茶の世界では珍しいのだそうだ。
“萎凋したお茶“はどんな味がするのだろうか、と映画を観て気になっていたところで振る舞われたのは、埼玉県・狭山[備前屋]の「釜炒り製微醗酵茶 ゆめわかば」だった。たかつさんにとっても萎凋茶の入り口になったという一杯。
「[備前屋]の清水さんのお茶に出会うまで、日本茶で萎凋のお茶を扱うのはどうなんだろうなと思っていたんです。『ゆめわかば』の摘みたてって、本当、石鹸とかミルクみたいな香りがするんですよ。それが萎凋させると、クチナシみたいな甘い、うっとりした香りになって、抜群に美味しいんです。清水さんのところでの撮影はちょうど朝7時半ぐらいから始めて、作り終わるのが翌朝の3時ぐらい。『お茶やると眠れない』って言いますが、本当に長かったですね。香りがどんどん変化していったのも印象的でした」
全国的な茶の産地としての北限といわれる狭山において、品種改良を繰り返し作られた品種というのもマニアックな見どころなのだという。その「ゆめわかば」をはじめ、日本茶にはさまざまな品種が存在するが、実際にはどのような方法で品種開発が行われているのか。映画を作ると決めたときから、たかつさんがどうしても取り上げたいと思っていたのが、うつわ一杯の原点ともいえる「育種家」と呼ばれる人たちだ。映画では[農研機構枕崎拠点]の根角厚司さんに出演を依頼。希少品種の一つ、「蒼風」が生み出されたストーリーを取材したが、映画では取り上げきれなかった裏話がある。
「お茶の品種開発を進めるかどうかを決めるとき、育種の会議があるんですって。その品種を残すか残さないかと多数決をとって、例えば7対3で賛成が多いものは残すんです。5対5の品種は残さない。面白いのが、根角さんは、賛成3、反対7の品種は残すんですって。多数決ではマイノリティなのに強くに支持する人がいるのは、何かあるっていうことだそうなのですが。それで、『蒼風』も後者だったらしいんです。」
よくも悪くもない「並」の品種は捨て、マイノリティともいえる個性の強い品種を残していく。一見、賭けのようなリスキーさを感じるが、その決断が今までになかった日本茶「蒼風」を生み出した。そしてその少数派の可能性を信じて繋がれた系が、[茶茶の間]の和多田さんらの淹れ手によって見出され、たかつさんがかつてそうだったように、一杯の日本茶となってファンとの出逢いを紡いでいく。
1時間余。映画のエンドロールの長さは、たかつさんのいう“お茶のご縁”を物語っているようだった。うつわ一杯の日本茶の向こうには、関わった人の数だけ紡がれてきた物語があった。3年前、映画制作をはじめた時から今に至るまで、たかつさんのお茶のご縁は日を増すごとに広がっているのだそうだ。作り終えて、今思うことがある。
「お茶好きな人って、声が大きい人が意外と多くないんです。なんというか、優しい人が多い。でも、話しを聞くと想いがすごいんですよね。もう、本当に。映画で何かを伝えるというよりも、自分にとってのお茶を語り出すきっかけになってくれたら良いなと。この映画がすべてだとは思っていなくて、『映画ではこうだったけど、これをもっと推してほしかった』とか『自分ならこうしたみたい』とかって、その人にとっての“好き”を語り出してくれたらすごく嬉しいです。自主上映会というと仰々しいかもしれないですが、お茶会に映画を添えるような感覚で。お茶請けみたいに愉しんでもらえたら」
様々な変化が起こる日本茶の世界で、10年後に同じ映像が撮れるかわからない。そんな思いを抱きながら映画を制作してきた。これからの日本茶の世界は“日本茶のファン”にかかっているのかもしれない。
かしこまって飲むばかりではなく、無意識にパッと手が伸びた先にお茶がある。そんな世界を目指して。まだ出会っていない新たな日本茶のファンに、うつわ一杯のリレーを紡いでいきたい。映画が完成し、たかつさんはスタートラインに立ったばかり、と気を引き締める。
たかつまこと|Makoto Takatsu
仕事はお茶関係でも映画関係でもないが、日本茶の「好き」をおすそ分けしたくて、日本茶ドキュメンタリー映画『ごちそう茶事 – A film about Japanese tea-』を制作(プロデュース・ 脚本)。オフの日には、「オッサム・ティ・ラボ」での活動、茶農家さんのお手伝いなど、お茶の好きを深めたり伝えたりする活動を行う。最近は、増えた在宅時間でおうち喫茶を満喫・拡散中。
gochisochaji.com
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Photo: Taro Oota
Interview & Text: Moe Nishiyama
Edit: Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
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