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オンライン書店が お店を構えて茶葉を 販売することの価値 CHAIRO 中村和義さん <後編>
中国ではお茶のことを緑茶、青茶、紅茶、白茶、黄茶、黒茶と6つの名前で呼び分けることをご存知だろうか。どれも茶の木の葉からつくられるという点では同じであるのに、収穫後の工程の違いによって、表情豊かな色合いを見せるお茶。後編…
2021.04.30 INTERVIEW日本茶、再発見
本屋がお茶を。
長野県上田市に拠点を構える「バリューブックス」は、本の買取や販売などを行うオンライン書店だ。120万冊に及ぶ古本の在庫は国内最大級の規模。本を購入すると、書籍への愛が詰まった「納品書のウラ書き」が同封されてくるのも嬉しい。そんな本の会社が2019年6月に始めたのが、茶葉を扱うお店[CHAIRO]だ。そのウェブサイトを覗くと、並んだお茶のグラデーションの鮮やかさに目を奪われる。日本茶以外にも台湾や中国のお茶を扱っているようだ。
本とお茶。
なんだか相性の良さそうな関係にも見えるが、なぜまた本屋がお茶を、しかも実店舗を構えてやるのか。前編ではバリューブックスが運営するブックカフェ[本屋未満]に伺い、[CHAIRO]を立ち上げた張本人である同社代表・中村大樹さんのお話を。後編ではCHAIROのお店にて、中心メンバーである中村和義さんのお話を伺った。
長野市、松本市に次ぐ県内3番目の都市である上田市。市を横断するように千曲川が流れ、まず思い浮かぶのは真田昌幸によって築かれた上田城であろう。そこから車で5分ほどのところに[本屋未満]は位置する。古本・新刊併せて約6,000冊が並ぶ店内には、[CHAIRO]が提供するお茶(ほうじ茶ラテから凍頂サンザシ烏龍茶、雲南ピーチ紅茶などなど)を楽しめるカフェスペースも併設されている。
しかし、そもそも長野県にお茶のイメージを抱かない人も多いはずだ。お店までの道中にも茶畑を発見することはできなかった。長野県で生まれ育った中村大樹さんとお茶との距離感はどのようなものだったのか。
「長野はお茶の生産地ではないですが、飲む文化はあって。りんごと野沢菜と一緒にひたすら飲むんですよ。隣近所に遊びに行っても同じもてなし方をされていたので、たぶんどの家庭でもそういう原風景があるんじゃないですかね」
大学進学とともに東京に出た大樹さんは、個人事業をやっている周囲の方々に影響され、卒業後すぐに古本のネット販売ビジネスを始め、「バリューブックス」を設立。会社名に「本」を入れたのも、いろいろ他のことをやりたくなる自らに対する戒めがあったという。そしてビジネスが軌道に乗ってくると、創業時のようになにも無いところから試行錯誤していく体験が本以外のものでできないかと思案するようになった。自分が日常的に好み、流行り廃りなく人間との関わりが長い普遍的なもの、かつ、切り口をなにか工夫できるもので。そこで出会ったのが台湾の高山茶であった。
「以前から台湾にはよく遊びに行っていて茶藝館とかも回ったりしていたんですが、衝撃的な出会いでした。香りとかも自分に合ってる感じがしてすごく美味しい。今も高山茶がいちばん好きなお茶です。ここ15〜20年ぐらいの新しい種類ですけど、台湾でも人気があります」
それまでお茶が好きなわけでもなかった大樹さんが[CHAIRO]を立ち上げるほど魅了されたお茶、高山茶。いったいどのようなものか、淹れていただいた。
まず驚いたのがその色。烏龍茶の一種だと聞いていたのだが、透き通ったきれいなうすい緑は目にも美しい。香りも豊かだ。ひと口いただくと、優しい味わいが口のなかに広がる。飲み終わった後の器に残る香りもまた良し。大樹さんが感動したのも頷けた。そして、[CHAIRO]を語る上で、欠かすことができない日本のお茶もある。
「天龍村で『やっさのお茶』をつくっている安男さんとの出会いも衝撃的でした。自分の家の目の前の茶畑でつくって収穫から製茶までぜんぶ自分でやっている方で、日本のお茶でこんなに美味しいものがあるんだって感動して。生の知識をお聞きすると、ほんとに哲学者というような印象。既成概念に囚われず、ひとつのことを何十年も黙々と研究して試し続けている人のすごさを感じましたね」
やっさのお茶は超浅蒸しの緑茶。大樹さんにとって、子どもの頃に飲んでいた深蒸しのものより自分にフィットしたという。ひとえにお茶といっても日本茶もあれば中国茶も台湾茶もある。流通量などの問題もあるが、”自分に合うお茶”に巡り会えることは実はとても幸せなことだ。「CHAIRO」というネーミングも「茶葉から生まれる点では同じだけど、国やつくり方によってお茶にもいろんな色がある」とお茶が見せる美しいグラデーションをイメージして付けられている(ブラウンを意味するものではない)。そんな[CHAIRO]のお茶はどうセレクトされているのか。
「まず、自分たちが好きであることですね。美味しいと思えるのがいちばん大きいですし、共感できるストーリーがあることも大事。日本と台湾のお茶は農家さんと直接やり取りしていますが、中国茶に関してはパートナーとして信頼できる伊那郡のHOJOさんにアドバイスをもらいながら一緒にやっています」
現在の取り扱いは上記3カ国だが、ゆくゆくはインドやスリランカの紅茶なども扱いたいとのこと。大樹さんはこれから、[CHAIRO]のお茶とともにどこへ向かうのか。
「自分がすごく感動したように『こんなお茶があるんだ』というものを提供していきたい。ただ、『やっさのお茶』なんかもめっちゃ美味しいけど、ビジネスとしては難しい部分がある。そこは、低価格で消費される大量生産品と、富裕層が好んで買う高級品の間の部分を目指そうと思っています。現時点では矛盾しているけど、若い人たちが手軽に買える範囲の値段に収めたい一方で、美味しいお茶をつくる人たちが早めに儲かるようにならないと次の世代にも繋がっていかない。なにか解決策はあると思うんですよね。インターネットもそのひとつだと思うし。なので、『購入する側も一定の努力をする、だからつくる側も持続できる』ような落としどころがあるのか考えているところです。本のほうで研究や工夫を重ねてきたからこそ、独自にできることも増えてきているので、自分たちの得意な能力を発揮していきたい」
一部では成熟市場ともいわれるお茶業界を改めて追究することに面白さと難しさを感じながら、大樹さんは生産者と消費者の両者の顔を見据えていた。たくさんの本とほうじ茶ラテに後ろ髪を引かれながら[本屋未満]を後にし、後編では[CHAIRO]のお店にお邪魔して、お茶の案内を担当する中村和義さんに8種類のお茶を淹れてもらいながらお話を伺います。
中村大樹|Taiki Nakamura
1983年生まれ。長野県出身。大学を卒業した2005年、古本のネット販売ビジネスを単身でスタート。その後、友人たちをメンバーに加えて事業を拡大、2007年「バリューブックス」設立。台湾で高山茶に出会ったことを機に、2019年6月に社内でCHAIROを立ち上げる。
chairo.jp
instagram.com/chairo_store_ueda
instagram.com/honya_miman
valuebooks.jp
Photo: Yuri Nanasaki
Interview & Text: Yoshinori Araki
Edit: Yoshiki Tatezaki
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