• 杉山忠士

    茶農家/しばきり園

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    人それぞれお茶それぞれの多様な「色」を感じることで、多様性の大切さを感じる特別企画。

    自然の恵みと人の手によって育つお茶をひと口、目を瞑って、ひと呼吸。
    香りや温度、重さや舌触り、空気との触れ合いを経て、目に見える以上の、
    その人にとっての「お茶の色」が心に浮かぶ。

    一人ひとりの感性によりそう、お茶の多様性。あなたにとって、お茶はどんな色ですか?

    杉山忠士(茶農家/しばきり園)

    静岡県清水市の茶産地・茂畑で、3代つづく茶園[しばきり園]を背負って立つのは2000年生まれの杉山忠士さん。茶園を継いで3年目、忠士さんにとってお茶とはどんな存在なのでしょうか。

    「お茶を生業としてやっていこうと決心がついたのは高校卒業したくらい。当時は、お茶を使って生活していこうというか、今よりアグレッシブな感じでお茶と向き合っていた気がします。それがここ1、2年で変わってきて、お茶で豊かに生きていけたら、みたいな楽しい考え方でお茶と向き合えるようになりました。それは元々お茶が身近にあったからっていうのもあるし。だから、存在っていうとなんだろう……全部含めたら『生きる術』ですね」

    お茶を通じて人との出会いも増え、それによってお茶に対する見方も年々変化していると語る忠士さん。より楽しい思考で向き合えるようになっているのには、やはり、自らの暮らしの幸せな部分にお茶があったからといえるようです。

    「自分は製茶の終わりに確認のために飲んでいますが、家だと毎朝お母さんかおばあちゃんが淹れてくれて飲む。やっぱり誰かに淹れてもらったお茶はすごく美味しいです。人のためを想って淹れてくれているんで。何気ない積み重ねですけど、本当にそれが生活なので」

    思い入れのあるお茶として選んでくれたのは、[しばきり園]で自ら作る白葉茶。「山咲やまぶき」と銘打つこのお茶は、突然変異で生まれた黄白色の珍しいお茶です。

    「元々、(同じ清水市の)両河内という産地にあった白葉の株を、祖父が観賞用として庭に植えたいからと言ってもらってきたそうです。それを父が商用に畑を作り、自分が受け継ぎました。父は珍しいものが好きだったので、白葉茶は見た目も綺麗だし他にないからという理由で増やしたのだと思います。新茶の時期に、父が『こんなお茶もあるよ』って飲ませてくれた記憶がありますね」

    お茶から思い浮かべる心象風景は、茶工場にある棚乾燥機という機械。先代である亡き父との時間が思い出されるといいます。

    「火入れっていう仕上げ作業で使う棚乾燥機。2台あったんですけど1台はもう壊れちゃってて。父は、僕が高校の時、18歳になる前くらいに亡くなったんです。中学生くらいの頃から、この乾燥機の前で父と一緒にお茶の仕上がりを見ていたことを思い出します。『今年のお茶はこうだったよ』って教えてくれたり『家に持ってって飲んでみ』とか言って茶葉をちょっとくれたり。ここが製茶の工程の中で唯一ゆっくり話ができる時間でした。甘くて香ばしい香りは、すごく焼きついていますね」

    お茶を作る人、ひとりひとりにストーリーがある。今は一部しか稼働していない茶工場も、受け継がれる時を物語る情景になる。

    インタビューの後には、忠士さんが管理する茶畑の一つを案内してくれました。最高の見晴らしに心地よい風、太陽を浴びて芽吹く茶葉に触れる、この景色もまた忠士さんが受け継いでいきたいものの一つなのだとすぐに感じられました。

    杉山忠士|Tadashi Sugiyama
    2000年、静岡県生まれ。清水の山間の集落、茂畑にあるお茶農家[しばきり園]園主。
    shibakirien.stores.jp

    Photography: Kisshomaru Shimamura
    Text & Edit: Moe Nishiyama & Yoshiki Tatezaki

    人それぞれお茶それぞれの多様な「色」を感じることで、
    多様性の大切さを感じる特別企画。
    自然の恵みと人の手によって育つお茶をひと口、
    目を瞑って、ひと呼吸。
    香りや温度、重さや舌触り、空気との触れ合いを経て、
    目に見える以上の、
    その人にとっての「お茶の色」が心に浮かぶ。
    一人ひとりの感性によりそう、お茶の多様性。
    あなたにとって、お茶はどんな色ですか?

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