人それぞれお茶それぞれの多様な「色」を感じることで、多様性の大切さを感じる特別企画。

自然の恵みと人の手によって育つお茶をひと口、目を瞑って、ひと呼吸。
香りや温度、重さや舌触り、空気との触れ合いを経て、目に見える以上の、
その人にとっての「お茶の色」が心に浮かぶ。

一人ひとりの感性によりそう、お茶の多様性。あなたにとって、お茶はどんな色ですか？

半澤慶樹（PERMINUTEデザイナー）

質感、フォルム、印象…さまざまな要素が複雑に関係し合い、有機的な形を保ちながら完璧な形で調和する。生態系を作り上げるようにコレクションを創り上げるファッションブランド〈PERMINUTE〉を主宰する、デザイナーの半澤慶樹さん。デザイン画を描くことからはじめず、日々素材に触れることから得られる偶発的な出会い、発想を大切にしているという半澤さんにとって、お茶を飲むことは毎朝欠かさないルーティンなのだそう。お茶を飲むことと、新たなデザインを生み出すことの関係性も含めてお話を伺います。

「毎日お茶を飲むようになったのは、実はここ数年のことなんです。知人の紹介で訪れた［一保堂茶舗］での体験がきっかけで“お茶を淹れる”ことをルーティンにしようと思い立って。朝起きたらシャワーを浴びて、お茶を淹れる。自分の場合、働く環境と暮らす環境、ビジネスと生活が近いところにあるので、お茶はその境目を作ってくれる存在だと思います。お茶の出方によって自分の体調がわかる人もいるとも言いますが、気候やわずかな環境の変化でお茶の出方も変わるので。一日の始まりに何もない、ただお茶と向き合う時間がとても大事なスイッチになっています」

毎朝、お茶と向き合うことと合わせて習慣にしているのがカセットプレーヤーで音楽を聴くこと。心の中を空っぽにして、余白の中からアイデアを得たいとき、家でお茶を飲むときはもちろん、最近では移動中なども意識的にカセットプレイヤーで音楽を聴くようにしているのだそうです。

「家でお茶を飲むときは何も考えず、はじめに手にとったカセットをYAMAHAのカセットプレーヤー『TC-800GL』で聴くのが習慣なんですが、最近は移動中も聴いてますね。『エヴァンゲリオン』に出てくる碇シンジくんが25曲目か26曲目がずっとループで聴いているという話がありますけど、僕自身もサブスクで好きな曲しか聴かなくなってしまっていて良くないなぁと。意識的にカセットアルバムを選ぶのをルールにしています。ちなみに今のおすすめのアーティストはSUN RAです。曲を聴きながら歩いていて、コレクションのアイデアが浮かんだりすることもありますね」

最後に、半澤さんが毎朝、茶葉はこれ一筋と決めているという日本茶を紹介していただきました。

「京都にある宇治茶と古老柿を生産する茶園農家［久五郎茶園］の手摘み煎茶です。知人にお茶が好きだという話をしたら久五郎さんの茶葉を送ってくれるようになって。以前は八女茶を飲むことが多かったのですが、送っていただいてからは飲み比べたりもせず、久五郎茶園一筋です。コレクションの発表前などは玉露を飲んで気を引き締めるようにしています」

ギュッと集中してデザインを生み出さなくてはいけない時こそ、意識的に余白を作る。デザインでも“偶然性”を大切にしている半澤さんのクリエイションの背景にある日々のお茶のお話を伺いながら、生み出すことと、空っぽにすること、その間でスイッチのような存在のお茶の新たな側面について考えせられる時間になりました。

半澤慶樹｜Yoshiki Hanzawa
ファッションブランドPERMINUTEデザイナー。1992年、福島県生まれ。文化服装学院を卒業後、2016年にPERMINUTEを立ち上げ、2017SSコレクションでデビュー。ブランドのコンセプトは「ユニークな実験を通して、そのプロセスから生命と衣服の新しいかたちを創造する」。
perminute.net
instagram.com/perminute/

Photography: Kisshomaru Shimamura
Text & Edit: Moe Nishiyama & Yoshiki Tatezaki