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日本人はなぜ日本茶を飲むのか 田島庸喜さんに聞く お茶と風土 <後編>
お茶の懐かしさは日本人の営みにあり 前編では、The Tea Companyのボトルドティー「Thé D’or」をワイングラスに注いで香りと味わいを感じながら、ティーペアリングによって広がるお茶の多様な楽しみ方を田島庸喜…
2020.03.02 日本茶、再発見
食の分野で「マリアージュ」や「ペアリング」といえば、料理と相性の良いワインを組み合わせて、香りや味わいにさらなる深みを与える食体験のひとつのかたちとして定着している。一般的に思い浮かぶマリアージュは、ワインやカクテルなどのアルコールドリンクである一方で、コース料理を提供するレストランでは、年々ノンアルコールドリンクを求めるお客が増えているという。
例えばミシュラン二ツ星のモダンフレンチ[フロリレージュ]。以前、CHAGOCOROでご紹介したのは抹茶を使ったアルコールカクテル(『抹茶の季節、ひらく可能性。フロリレージュのペアリング抹茶カクテル』)だったが、多彩な茶種を用いて複雑な味わいのノンアルコールカクテルをコースに合わせて提供している。
しかし、ワインのようにボトルを開ければプレミアムな味わいがどこでも楽しめるというノンアルコール製品は少ない。The Tea Companyの「Thé D’or」ボトルドティーシリーズは、まるで高級ワインと見紛う装いに、緑茶から焙煎紅茶まで多様なお茶を楽しむことができる。
今回は、The Tea Companyの取締役を務め、ボトルドティーの生産にも深く関わる田島庸喜さんにお話を聞いた。昔から興味があったのは東洋文化、そして食と健康。「医食同源」という言葉は中国の「薬食同源思想」の和訳だが、「薬膳」に代表される中国の伝統医学が田島さんの研究対象に加わったことは自然な流れだった。実際、旧北京中医薬大学日本校で漢方と薬膳を学び、国際中医師(中国の漢方の専門家資格)と国際薬膳師の資格まで取得した。その後、田島さんは東京・広尾商店街の一角で烏龍茶専門店をオープンする。
烏龍茶専門店では、定期的に中国および台湾に赴いては烏龍茶を買い付け、その豊かな香りと楽しみ方を伝えながら、時には健康に関する相談にも乗るお茶屋として長年親しまれた。2015年にお店を閉めることとなったが、閉店から間も無く、田島さんはお茶の縁で新しいステージに導かれることになる。
「バーでたまたま隣で飲んでいたのが、今私たちがやっているThe Tea Companyの代表、岡崎(恵さん)だったんです。“茶縁”なんですよね。お茶の縁ってよく言うんですけど、お店を閉めて2週間後に出会ったんです。岡崎は中国茶の香りに感銘を受けて、それを日本でもできないかと考えていたところでした」
「まずはティーペアリングということで(多様なお茶を)導入しようと考えました。『食中茶』という概念を広めようとしています。世界的に見てノンアルコールの需要は高まっていて、日本も同様です。しかしワインなどアルコールメニューに比べると、お酒を飲めないお客さんに対しては炭酸水やジュースなど、選択肢は少ないですよね。料亭に行けばお茶が出てきますが、それは無料で出てくるもの。一方で、中国茶ではちゃんとお金を払ってでも飲みたいものがある。つまり、滋味深い味わいや香りを食中で提供することが重要だと考えました」
The Tea Companyのこだわりの一つは、国産の有機栽培もしくは無農薬の茶葉を使用すること。無農薬茶葉をただ探してきて使っているのではなく、そこにはThe Tea Companyの活動の根幹が関わってくる。日本の風土を表現するお茶を次世代につなげる一歩として、年々増え続ける放棄農園を再利用する活動も行なっているのだ。耕作に使用されていた化学肥料や農薬は、耕作がなされなくなれば数年で土から抜けていくという。手付かずに荒れてしまうイメージが先行する放棄農園のメリットをすくいあげ、新たな価値を与えているというわけだ。
「日本の風土を打ち出すということは、日本を代表するようなレストランが目指すところでもあります。私たちも日本のものにこだわっている。そういった考え方もレストランと合致する部分だと思います」
ボトルドティーには「玉露」「あさのか(緑茶)」「つゆひかり(半発酵の青茶)」「華焙(はなほうじ、有機焙煎緑茶)」「紅焙(べにほうじ、焙煎紅茶)」「阿波番茶(後発酵の有機黒茶)」「薔薇茶(ブレンド焙じ茶)」「いぶし(燻製紅茶)」という色とりどりの8種類のお茶がラインナップされており、様々な味覚を演出できる。日本のいいもの、世界観がわかりやすいものを出していく。そして、食事に寄り添うような存在としてお茶を考えた結果のラインナップだという。
「緑茶や阿波番茶をつくっている農家さんと一緒に、『滋味深いお茶』『清らかなお茶』という日本の風土を感じるお茶をつくって、ボトルを通じてそれを飲んでいただくきっかけをつくる。ゆくゆくはボトルではなくリーフ(茶葉を急須などで淹れるタイプ)で飲める場所も増えると思っています。そして、そういった日本の風土を感じられるお茶を世界に向けて発信していきたいと考えています」
海外の知見を取り入れ、日本のいいものを活用しながら、また海外へ広めていくことを考える。田島さんのお茶の世界は多角的で面白い。さまざまなお茶を飲んできた田島さんが日本茶を表現する言葉の中に「滋味深さ」や「清らかさ」といった表現が何度か聞かれたが、これはどういった概念なのだろうか。後編では、茶会形式で田島さんにお茶を淹れていただきながら、滋味深さや清らかさについて聞いていく。
田島庸喜(たじま のぶよし)
The Tea Company株式会社取締役。茶師・薬膳師。旧北京中医薬大学日本校を卒業し漢方医の資格を取得後、薬膳の普及活動に携わり、東京広尾にて中国・台湾茶専門店を経営。中国茶文化の研究をライフワークとし、セミナー、商品開発、著名レストランへのお茶のコンサルティング、料理とのペアリングの提唱などを行なっている。また、日本国内のお茶生産農家を巡り、日本茶の可能性について探っている。
the-teacompany.jp
Photo: Junko Yoda (Jp Co., Ltd.)
Text: Yoshiki Tatezaki
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