「お茶に火を入れるとは?」 [和田長治商店]の炭火火入れ茶 Ocha SURU? Lab. お茶の仕上げ編 Part 2
2021.08.06 Ocha SURU? Lab.
- 煎茶
- 静岡
私たちの日常のライフスタイルがたえず変化するなか、
お茶のあり方はどうだろうか。
「暮らし」と「お茶」との間に「問い」を立て、
現代の感覚で私たちなりの「解」を探求する「Ocha SURU? Lab.」。
その探求の道のりの中で、
皆さまの日常の中の「お茶する」時間が
より楽しいものになればという想いとともに、
CHAGOCORO編集部が総力を挙げて研究を重ねていきます。
お茶は、自然の恵みである。
季節の巡りを経て芽を出す茶の木を育てる。そのために、土を耕し育む。一年を通じて畑と向き合う農家の方々のストーリーを通じて、お茶ができるまでの道のりを感じてきました。
[いはち農園]繁田琢也さん
[横田園]横田貴弘さん
[豊好園]片平次郎さん
他にもCHAGOCOROでは多くの茶農家の方々と出会いました。あわせてご覧ください。
お茶が自然の恩恵と影響を受けて育つ農作物である一方で、私たちの手元にある「お茶」はふつうの野菜や果物よりも保存も利けば、形にバラつきがあるわけでもなく、ある意味とても“機能的”といえます。もちろん、新茶や番茶などシーズンの巡りはあるものの、お茶はいつ飲んでもお茶。ある意味、当たり前にいつでもそこにあるお茶。
生きた植物の葉っぱが、いつもそこにあるお茶っ葉になる過程には、実は多くの工程があるのでした。
「お茶はどのようにして私たちの手元に届くのか?」
お茶一杯を楽しむには少々まわり道のような気になるかもしれません。ですが、当たり前のものがいかにして手元に辿り着くのかを知ることで、当たり前だったものの感じ方が変わる。先日、有村架純さんと松本穂香さんもインタビューの中でそのように語っていました。
前置きが長くなりましたが、今回のOcha SURU? Lab.では、日本茶の奥深い仕上げ茶の世界を読者の皆さんにも体感していただけるようにお届けします。
まずは、上の問いを携えて、静岡の製茶問屋[鈴和商店]の渥美慶祐さんを訪ねました。
渥美さんに会うのはもう何度目かだが、工場を見せていただくのは今回が初めてだった。通りに面したおしゃれなショップ[茶屋すずわ]でお茶をいただくのが常だったが、江戸時代から同じ場所で続く製茶問屋としての本丸は2階の広い工場だ。
奥行き50メートルはあろうかという大空間。松の床材の上には、高い天井すれすれまで伸びる機械の腕やら何やら。
「農家さんから仕入れた荒茶をここから投入して、だいたい6種類くらいのサイズに分けていきます」
渥美さんが先導して工場をぐるっと案内する。この広い工場の大部分は、荒茶を細かく仕分ける「選別」という作業のための機械が占めているという。形や大きさの異なる機械を、縦横に伸びた木製の柱がつないでいる。
「すごいですね……。本では読んで知っていたんですけど、実際に見てみると違いますね。1日でどのくらいの量を選別するんですか?」
そう尋ねるのは、伊藤園で百貨店や専門店向けのお茶商品を扱う鈴木麻季子さん。お茶を届ける立場にいる鈴木さんに、今回の工場見学に同行していただいていた。鈴木さんと一緒に渥美さんの話を聞いていこう。
渥美 いいお茶だと1日400キロくらいですね。“いいお茶”っていうのは選別が比較的しやすい荒茶っていう意味で。形をそろえるのに時間がかかるようなお茶だと1日300キロくらいですね。3人くらいで回していますので。
鈴木 商品を仕入れる時、大袋で1キロの茶葉(仕上げ茶)を扱うことはありますけど、それで考えるとすごい量ですね。
渥美 いやいや、そんなこと言ったら伊藤園さんなんて何千倍じゃないですか!(笑)
鈴木 でも3人でやってらっしゃると考えたら。機械で全部できるんですか?
渥美 そうですね、ラインで組んであるので。でもこういう
日本茶の仕上げ加工の最初のステップが、お茶の葉やその他の茎や粉などを「選別」するという工程。「ふるい分け」による分別や「切断」による整形など、さまざまな作業を経て、生産者から届いた荒茶は選別されていく。
お茶の葉を摘んで蒸して揉んだ「荒茶」は、素人目にはほぼいつもの「お茶っ葉」と変わりがないが、よく見ると長い茶葉や短い茶葉などサイズが揃っていなかったり、さらには茎や皮(ケバ)、粉など葉とは異なる部分も混ざっている。
昔は全て篩を使ってサイズ違い部位違いを分けていたのだそう。篩には「十二号」「十三号」といった番号が当てられていて、数字が大きいほど網目が細かいことを示している。目の細かさの違いで望ましいサイズをふるい分ける。また、ふるい方によっても仕分けられる形が変わる。「平行」という直線の動きでは太さ別、「廻し」という回転では大きさ別に分けられるのだという。ライン化された機械も、そうした人の動きが基になっている。先人の知恵、恐るべし。
大きさ・形、部位が違えば、 次の工程である火の入り方や、 お湯に入れたときの味の出方が違う。美味しいお茶が届けられるように、一見地味な選別はお茶づくりに欠かすことのできない作業ということだ。
渥美 選別が終わったら、こっちの焙煎機で火入れをするという流れです。これは直火のドラム式で、コーヒーの焙煎機と同じようなものですね。あとうちには遠赤外線で火を入れる機械もあって、それは電子レンジのようなものです。
2つの方式の焙煎機を見せていただき、渥美さんの工場は一巡した。
なるほど、すでになかなかの情報量をいただいたが、渥美さんは「仕上げ工程をやっているところを見たいなら」ともう一軒の製茶問屋へと案内してくれた。「今から歩いて向かいますね、5分くらい」と電話をかける渥美さん。
「炭火をいい感じに起こして準備してくれているので、いきましょうか」
[茶屋すずわ]から歩いてちょうど5分、同じ静岡市葵区に工場を構える[和田長治商店]に到着する。瓦屋根が目を引く建物に入ると、天井に吊るされた篩が目に入ってきた。
出迎えてくれたのは3代目の和田夏樹さん。ナイキのロゴが入ったサッカーユニフォームのような作業着を着ている。早速、仕上げ工程の二つの作業、「選別」と「火入れ」の概略を説明してくれた。
和田 料理で例えると、材料を切ったり形を整えて、まさに選別するということですね。その後に火を入れていきます。
渥美さんの予習講座のおかげで理解ができる。ここでは、さらに実際の荒茶を使ってのデモンストレーションをしていただいた。
電動で動く台の上に篩を乗せ、荒茶を分けていく。左右に揺られることで長細い茶葉が縦に立ち上がり、網目を通過する。網目よりも太い茶葉は通過できずに上に残る、という仕組みだ。
皿に盛られた茶葉をよく見ていただくと、真ん中から手前のかたまりに比べて、奥に寄せた左右二つのかたまりの方がゴワゴワと太いのがわかる。手前が篩の下に落ちた細いものだ。また太いかたまりの左右を見比べると左側の方が短いのがわかるだろうか。
ふるい分けしたものを、必要に応じて切断して形を整えていく。ふるっては、整え、さらにふるっては整え、という作業は文字通り延々と繰り返すのだと、色違いのユニフォームを着た職人の方は実演を交えて教えてくれた。
ふるう力は電動だが、茶葉を移し変えたりという作業は人の手によるところが大きい。昔ながらの作り方に触れると本質が見えやすい。[和田長治商店]は、そうした昔ながらの作り方を守りながら、文化としてのお茶の価値を届ける製茶問屋の一つだ。
和田 (茶葉の細かい)深蒸し茶が多くなっている中で、こうして一本一本の形を求めるという問屋は減ってきてはいます。我々はお茶屋さんに卸すことが多いので、その分、プロの目にもきれいなお茶に仕上げなくてはいけない。機械でもできる作業ですが、それを手作業でやる意味とうことも含めて、プロの方にも価値を認めていただくことが大切だと思っています。
お茶は農作物のなかでも「工芸作物」に分類されるのだそう。より美味しく、より美しく。「(選別作業は)時間で区切らないと終わりがない」という職人さんの言葉ひとつとっても、日本茶はまさに工芸品だと思わされる。
次回は、[和田長治商店]の炭火焙煎機を実際に稼働しての「お茶の火入れ」を体感します。
渥美慶祐|Keisuke Atsumi
静岡市の[茶屋すずわ]店主。創業170年の茶問屋・株式会社鈴和商店6代目として茶問屋を営む傍ら、「現代の茶屋、人々の暮らしになくてはならない大切で優しい寛ぎの存在」をコンセプトに、お茶とそのまわりの物を扱う同店を2017年にオープン。これまでお茶に興味がなかった人に少しでもお茶のある暮らしの良さが届くよう、日々発信している。
chaya-suzuwa.jp
instagram.com/chayasuzuwa
和田夏樹|Natsuki Wada
静岡市に1950年創業の[和田長治商店]の3代目。同店では、静岡茶市場で行われる新茶初取引において42年連続で最高値落札をしている。名物である炭火茶など、昔ながらの静岡の茶文化を引き継ぎながら、次の世代へその魅力を発信している。強豪・清水東高校サッカー部出身。好きなクラブはレアル・マドリード。
sumibicha.com
instagram.com/wadatea
Photo: Yuri Nanasaki
Text & Edit: Yoshiki Tatezaki
Produce: Kenichi Kakuno (Itoen)
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール