• ファーストプレイス。
    つまり、暮らしの基本である我が家のこと。

    世界が大きく変わるときでも、いやだからこそ、ファーストプレイスが穏やかで、なおかつ、シンプルな自分でいられる場所であるように。

    自分なりにすてきに暮らす人たちのファーストプレイスを、お茶時間のビジュアルとともにお届けします。


    今回はDJ/トラックメイカーのSeihoさんのファーストプレイスにて。
    撮影は嶌村吉祥丸さんです。

    Seihoさんの、ファーストプレイス

    Sound On(音楽といっしょにご覧いただけます)

    DJ、トラックメイカー、プロデューサーとして、日本のみならず海外でも活躍するSeihoさんの自宅を訪ねると、そこは生活の空間でありながら、大量のケーブルで繋がれたいくつもの音楽機材が並べられた創作の空間でもあることが一瞬で感じられました。

    そのファーストプレイスに気さくに招き入れると、早速「どのお茶を淹れましょうか?」と、気取らない密閉袋に保存している10種類近い茶葉の中から、2種類の茶葉をピックアップしてくれたSeihoさん。

    まず一杯目は、岐阜県東白川村のお茶を扱う[美濃加茂茶舗]の『煎茶』。丸いガラステーブルに、セレクトした茶器を並べます。細長いお猪口を湯呑みとして、持ち手のない急須は備前焼のもの(残念なことに蓋は割ってしまったそうですが、蓋なしも様になる姿)、それから自身がプロデュースする和菓子店[かんたんなゆめ]の『嬉々』というチーズケーキ感覚の練り切りとお湯を用意すれば、Seihoさんのファーストプレイスでのお茶時間がスタート。

    お湯を注いでからタイマーをつけ忘れてしまいましたが、BGMで流していた曲がちょうどいいタイミングで終わることに気付き、音楽とともに茶葉の開きを待ちました。

    お茶が好きなのは子供の頃からですが、2019年に和菓子とお茶を扱う[かんたんなゆめ]を始動させてからは、各地のさまざまなお茶に出合う機会がさらに広がったと話します。

    「寿里ちゃん([かんたんなゆめ]の店主・和菓子職人)が本当にお茶もお菓子も好きやから、色々探してきてくれて、ほぼ毎週、お茶とお菓子の試食会をやってくれる感じで。一つ二つと知っていくと、インスタとかでも芋づる式に繋がっていって『こんなお茶あるんや!』って。美濃加茂茶舗のお茶もお店で入れさせてもらったんですけど、家でも飲んでみたりしてます。そうやって家で10杯、20杯自分で淹れて飲んでいくうちに、『これで合ってんのかな?』とか『他の人が淹れたらこのお茶ってどんな感じなんやろ?』みたいに思うようになって、それでお茶屋さんに行って、淹れてもらって飲んで、『こういうお茶はこうやって淹れんねんな』みたいになることが多いですね」

    自分で淹れて飲み、他の人に淹れてもらって飲み。その両方を行き来すると、同じお茶でも違った側面が見えてくるのだそう。

    「全然違うやん!みたいな。普通にこんな飲みやすいお茶やってんや、とか。いつもガツンと淹れてたけど、こんなにガツンと飲むもんじゃなかったんや、みたいなのもあるし。本当、そこがやっぱ面白いなって。正解不正解はないってわかってるけど、他の人が淹れたのも飲みたくなる。そうやってマニアックに遊ぶのもできるし、古くなってきた煎茶とかは水出しにしちゃったりとか。1、2煎目だけお湯で濃く楽しんで、その後はピッチャーに水と氷をたくさん入れて飲むとか。自分の家で普通に飲んでるだけやから、いろんな実験ができるのが面白い」

    ときにマニアックに、ときに気軽に。自由に自分なりに、お茶にのめり込んでいることがひしひしと伝わってきます。この世界をかなり深めている様子のSeihoさんですが、今大事だと思うお茶との接し方はどんなものでしょうか?

    「そうっすね……なんというか、お茶をやると、若いうちにいっぱい知りすぎない方がいいなっていうのもある。さっきの飲み比べの話とは矛盾する話かもしれないですけど、そういう楽しさもあるんやけど、今って情報は一気に知れるから。“知るっていう経験”自体をどうやって特別にしていくか、みたいのも大事で、難しいなぁと。通販でどこでも買えちゃう。でもやっぱりその場所に行って、そこにあるお茶を深く掘っていってみたいな思い出とセットにしないと、記憶に結びつかないんで。そういう、思い出とどうやってセットにさせるか、みたいなのもお茶に関してはよく考えたりするかな」

    「元々好き嫌いなく色んなものを飲むって性格もあって、そうしていると、去年あんまり好きじゃなかったけど、今年こういうのが好きになってきたなぁとか。自分の方が変化していくから、それに気づくっていうのもあるかな。音楽もそれはけっこう一緒やけど。(お茶や音楽)そのものは同じだけど、自分が変化していくっていうのを確認するために色んなものをあえて摂取しておくみたいな感じだったりする」

    面白そう、という予感があれば、予断を持たずに試してみる性分。

    撮影の前日に訪れた、蔵前にある茶葉のセレクトショップ[a drop . Kuramae]で教えてもらったという、この日2杯目のお茶は「めっちゃワイルドなお茶!」と言う広島の紅茶。

    広島県世羅の在来品種を無施肥・無農薬で育て紅茶に仕立てた、[TEA FACTORY GEN]の『手摘み和紅茶』を、別の茶器で淹れていただきました。[CLASKA]で購入したというぽってりと和む姿の急須は益子・成井窯のもの。[かんたんなゆめ]の和菓子『栗ナッツ』が載る、7インチレコードを模した波佐見焼のお皿とのバランスもかっこいい。

    「変わった香りなんですよ……ワイルドっていうか、野生っぽい。フルーティぽくもある、なんともいえへんこの……。飲み終わった後のカップがすごく甘い香りになるんですよね。昨日お店で飲ませてもらったときにも感じたんですけど、この後に白湯とか飲んでも口の中が甘く感じるという不思議な現象があるんですよね」

    お茶を飲む背後には、数多の音楽機材。大小さまざまなシンセサイザーやエフェクターには、大量のボタンとツマミ、そしてケーブル。SF映画のセットのようですらあります。

    Seihoさんは家にいる時間の大半をこの楽器とパソコンが組まれたデスクの前で過ごすと言います。

    「そうですね。ほぼ、ここで生活してます。でも、僕、家ってないようなもんやからな。あるんですけどね。家にあんまり興味がないから」

    家であり、家でない。

    生活と創作がまるでシンセサイザーのように絡み合う、Seihoさんならではの暮らし方については、後編でさらにお話を聞くことにしましょう。

    次回につづきます。

    Seiho|セイホー
    1987年生まれ、大阪出身の電子音楽家、プロデューサー、DJ。ヒップホップやポストダブステップ、エレクトロニカ、チルウェーブなどを取り入れたサウンドで頭角を現し、2011年アルバム「MERCURY」でデビュー。2013年にはMTV注目のプロデューサー7人に選出されるなど、国内外で高い評価を受ける。さらには、おでん屋[そのとおり]、和菓子屋[かんたんなゆめ]のプロデュースもこなす。多彩な5組のミュージシャンをプロデュースした最新ミニアルバム「CAMP」が配信中。
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    Director and Cinematography: Kisshomaru Shimamura
    Video Edit: Naoki Usuda
    Music: UMI (BED ROOM STUDIO)
    Text & Edit: Yoshiki Tatezaki

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    ファーストプレイスで、お茶を
    #2 Seiho(後編)

    家であり、家でない。そんな印象を抱かせるSeihoさんのファーストプレイス。リビングの一面、一般的な家庭ならテレビが置かれて目線が一番集まるであろう場所に、積み重なっているのはシンセサイザー、ミキサー、エフェクターなど、電子音楽を奏でる機械たちです。

    2021.11.12 ファーストプレイスで、お茶を

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