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    ファーストプレイスで、お茶を
    #2 Seiho(前編)

    DJ、トラックメイカー、プロデューサーとして、日本のみならず海外でも活躍するSeihoさんの自宅を訪ねると、そこは生活の空間でありながら、大量のケーブルで繋がれたいくつもの音楽機材が並べられた創作の空間でもあることが一瞬で感じられました。

    2021.11.09 ファーストプレイスで、お茶を

    ファーストプレイス。
    つまり、暮らしの基本である我が家のこと。

    世界が大きく変わるときでも、いやだからこそ、ファーストプレイスが穏やかで、なおかつ、シンプルな自分でいられる場所であるように。

    自分なりにすてきに暮らす人たちのファーストプレイスを、お茶時間のビジュアルとともにお届けします。
    今回はDJ/トラックメイカーのSeihoさんのファーストプレイスにて。
    撮影は嶌村吉祥丸さんです。

    「音楽と暮らす」ことが重要

    家であり、家でない。そんな印象を抱かせるSeihoさんのファーストプレイス。

    リビングの一面、一般的な家庭ならテレビが置かれて目線が一番集まるであろう場所に、積み重なっているのはシンセサイザー、ミキサー、エフェクターなど、電子音楽を奏でる機械たちです。

    「家にいる間は、機材に触ってる時間が一番長いですね。シンセサイザーって、演奏するっていうより、この音でキック(ドラム音)を作ろうとかって“設計”をしてあげるイメージなんですけど、そうすると勝手に鳴りつづけるんですよ。それがかわいいんです。ご飯食べに行ったり、少し離れてから戻ってくると、『お前、ずっと鳴ってたんか! すごい頑張ってんなぁ!』って。しかも、いろんな機材を繋いじゃってるから、音が勝手に変化していく。かわいいんすよね」

    電子音でありながら、複雑に音源が絡み合い変化していくシンセサイザーの音色は有機的とすら感じられます。そうした表現はSeihoさんの楽曲にも当てはまると感じますが、その音が生み出される空間は、Seihoさん自身の生活の空間とまったくのひと続きになっているのでした。

    寝室は戸を隔てた隣の部屋ですが、実はSeihoさん、この寝室さえも同じ空間にある方がいいのだと話します。

    「実は、この前に住んでいた部屋はリビングもベッドルームも一つのワンルームで気に入ってました。イサムノグチのコーヒーテーブルをこんな感じで(部屋の真ん中、機材の前に)置いて、下に座ってお茶淹れたりご飯食べたりしながら作業したりしてたんです。それで、思うのは『ベッドルームと作業場がくっついてないと良い曲が生まれへんわ』っていう。僕らのジャンルってベッドルームミュージックって呼ばれますけど、マジでベッドルームじゃないとあかんねんって感じる」

    「なんかねぇ…扉一枚だけやのに、音楽と暮らしてるなぁみたいな感覚がちょっとなくなっちゃてるのかも。ここだと『ああ仕事するか』みたいな感じになるから」

    生活と溶け合うことで良い音楽が生まれてくると語るSeihoさん。音楽はまさにSeihoさんの生きることの中心のようです。仕事であり、休息でもあり、吸収したものを吐き出すという意味で呼吸のようなものですらあります。

    「仕事で曲作ってて、それで仕事疲れたからそのまま音楽作るかみたいな感じで。仕事の休みが音楽みたいな感じ、音楽の休憩に音楽を作るみたいな感じやから。音楽から離れたいときってあんまないかな。無理やしな。どうしても、何かでインスピレーションを得たら、音楽にフィードバックしちゃうから」

    インスピレーションの源

    Seihoさんの生み出す音は独特です。電子的な音の中から飛び出すとてもリアルな自然的な音にはハッとさせられる瞬間があり、不思議な感覚を抱かされます。ライブパフォーマンスもまたしかりで、音をミックスしながら生花的に草花をミックスしたり。そうした独創的な作品やパフォーマンスを生み出す裏にはどのような生活があるのでしょうか。

    話題に上った一つには、やはりお茶がありました。

    「朝は抹茶を飲むのが習慣になってますね。それはテンション上げるために。コーヒーも集中力を上げるのにいいと思うので飲むし、日本茶はリラックスするときかな。ご飯食べた後は、煎茶とかが多いです。ホテルに泊まることも多いんですけど、外で飲むときは抹茶の野点セットみたいなのを持っていきます。一人飲みできるこのサイズの器探しもめっちゃ楽しいんですよね。(制作作業には)集中力がどうしても必要で、そのためにたまに環境を変えたりウロウロしたりするのは必要です。……いい仕事させてもらってるな、本当に! ありがたいな〜。お茶飲んで、ホテル泊まって、音楽作って」

    最近、インスピレーションを受けたものはあるのでしょうか?
    その疑問を投げかけると、予想以上の角度から答えが返ってきました。

    「マイブームがコロコロ変わるタイプなんですよ。……なんやったら話せるかな?(笑)例えば、しめ縄をめっちゃ作ってて。それは2年くらい前に伊勢に行って夫婦岩を見た時に『すげえ! しめ縄で繋げたら夫婦になるんか!』ってなって、身の回りでもしめ縄で繋いだら夫婦になるんちゃうかっていうものを探し始めたっていう。あと、刺身を一番美味しく食べるには流木にのせて海水の塩味で食べるのがいいはずや!みたいなことを言ってやるみたいな、昔からそういうことをやる友達がいて。

    生花のパフォーマンスは、『コンテンポラリーいけばな』っていう本が衝撃的すぎて。生花って型が決まっていて難しいものなんだって思ったら、こんな自由なんやって思って色々やってみたっていう感じですね。『あれ、どういう意味なんですか?』とかはめっちゃ聞かれる。個人的には文脈とか意味とかはめっちゃあるけど……それは子供の頃の衝動に近い。『やったらどうなるんやろう?』みたいのが基本、ベースにあるかな。子供の頃、電気をオンオフオンオフしてたら、それだけで楽しかったみたいな。でも、カオスが好きなわけではなくて、カオスから何かを抽出して、それを整理整頓して並べた状態が好きなんですよね。ぐちゃぐちゃな状態ではなく、どこか繋がっているような状態。だから、(パフォーマンスにも)結果的に意味はあるんですけど、(それを言うのではなく)どこかで感じたことがあるぞっていう感覚を引き出すっていうのに近いのかも」

    言葉で説明できる意味だけではなく、はっきりと言葉にできない感覚を刺激するというのは、どこかお茶にも似たような側面があるように感じます。

    煎茶の2煎目にほうじ茶を加えて

    最初に淹れた[美濃加茂茶舗]の煎茶にほうじ茶を少し足して、お湯を差して2煎目を用意するSeihoさん。玄米を後から加えるような感覚でほうじ茶をプラスするのは実際によくやる飲み方なのだそうです。作業デスクの隅で淹れるのもリアルな日常風景。

    「ほうじ茶を足すとずっと飲めるようになるから。ほうじ茶は香りで、味の邪魔しないし、ここからさらに2煎ぐらい淹れちゃってもええから」

    「基本的に水分をめっちゃ摂る」と話すSeihoさん。家でお茶を飲むということも、当たり前すぎるほど。同じく当然のように同居する音楽と、お茶に共通すると思うものを最後に教えてもらいました。

    「お茶って、集中している状態と、集中していない状態を行き来する時間があるじゃないですか。淹れるときは時間にも温度にも集中しているから他のことを忘れてるし、淹れてからはぼーっとしてる時間もあるし。集中しないといけない時間とぼーっとしてる時間、リラックスしてる時間と集中力が高まってる時間の行き来を短い間で楽しめる。音楽も結構そうで。僕らがやっている電子音楽って、演奏せずに組み立てていくような音楽なので。組み立ててるときはすごく集中していて、それが売れるとか売れないとか忘れて、子供が砂場で遊んでるみたいな感じで作業してるんですけど。それがひと段落して、ぼーっと聴いてる時間もあってみたいな。そういうところが似ている気がしますね。

    あとは、もうちょっと低い温度で淹れたらどうなんやろうなとか、高い温度で淹れたらどうなんやろとか、試しながらやるっていうのは、DJのときレコード選ぶのと似ているかもしれないですね。そういうのが面白いですね。選べるっていうことと、自分なりに調整できること。だから『これ(淹れ方)合ってんのかな?』とか思いながら。まぁでも、人に出すときは気を使うけど、自分で飲む分に関してはね。合ってても、間違ってても、まぁええかみたいなところもありますね」

    暮らす場所であり、音楽を作る場所。
    新しいことを試す場所であり、新たなインスピレーションを温める場所。

    「家」という型に縛られないSeihoさんのファーストプレイスは、刺激に溢れていました。

    Seiho|セイホー
    1987年生まれ、大阪出身の電子音楽家、プロデューサー、DJ。ヒップホップやポストダブステップ、エレクトロニカ、チルウェーブなどを取り入れたサウンドで頭角を現し、2011年アルバム「MERCURY」でデビュー。2013年にはMTV注目のプロデューサー7人に選出されるなど、国内外で高い評価を受ける。さらには、おでん屋[そのとおり]、和菓子屋[かんたんなゆめ]のプロデュースもこなす。多彩な5組のミュージシャンをプロデュースした最新ミニアルバム「CAMP」が配信中。
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    Director and Cinematography: Kisshomaru Shimamura
    Text & Edit: Yoshiki Tatezaki

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