• まるでナチュラルワインのように。
    サーモン アンド トラウトの
    ティーペアリング
    <後編>

    2020.03.27

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    食を“体験”として提供するレストラン、[Salmon&Trout(サーモン アンド トラウト)」。前編では、2019年から始まったティーペアリングの背景を尋ねた。後編ではさらに料理とお茶の組み合わせを紹介することで、サモトラ流のティーペアリング哲学に迫る。

    料理を作るのは、都立大学の[八雲茶寮]で副料理長を務めていた中村拓登シェフ。フランス料理からキャリアをスタートし、その後日本料理へと転向した中村シェフの料理は、食材への敬意と、ひとひねりした遊び心が同居している。

    金川かにがわ製茶のファーストフラッシュと 「鯉揚げ」

    金川製茶の紅茶と、料理は野鯉を揚げたものに甘辛たれ、八角、シナモン、豆腐、湯葉、白味噌、ごぼうチップスが添えられた

    「金川(かにがわ)さんは沖縄県名護市の製茶園さんです。長らく緑茶を作っていましたが、暑い沖縄では高評価の緑茶品質がなかなかできずにいました。しかし今は茶葉を紅茶にすることで、国産紅茶コンテストでも二年連続で二部門を制覇するなど高い評価を得ています。今回使用した茶葉は春摘みのもの。ちょっと面白い香りがすると思いますよ」

    茶葉の香りをかぐと、蜜のような甘い香りがする! ダージリンや中国茶で出会うことのある、マスカットにも似た果実香もある。

    「そう、中国茶の東方美人茶や白茶などにある、マスカットフレーバーです。これはウンカという小さな虫が茶葉をかじることで生まれる香りと言われています」

    これはウンカが猛攻して製茶を断念した畑の茶葉を、使えるところだけハンドピックして、試験的に作った非売品のお茶だ。沖縄のショップ[LIQUID]の村上氏が金川製茶と親しく、そのご縁でいただいたものだという。

    熱湯で一気に抽出し、片口に淹れて粗熱をとった後、ぽってりとしたマグカップに入れた。フランスのカフェでコーヒー用に使用されていたという、アンティークの「ブリュロ」と呼ばれるカップだ。

    お茶と器との関係性も、ティーペアリングにおいて大きな要素だと柿崎さんは言う。

    「ガラス容器なのか、陶器なのか、どんな重金属が含まれているかなど……。同じ条件で淹れたお茶でも、どの器に入れるかで味の印象は異なります」

    料理は、骨切りをして一口大に切った鯉に衣をつけて揚げたもの。そこに八角風味の甘辛たれを絡め、上に白味噌や湯葉、ごぼうチップスを重ね、最後にシナモンパウダーをふった。粘性のある料理に、粘性のないアロマティックなお茶を合わせることで、味わいの骨格が浮き彫りになってくる。抽出する中でお茶のマスカット香が一層引き立ち、お料理が持つ土の香りに華を添える。厚みのある容器で飲むお茶は、つるりと滑らかな印象とともに口の中に滑り込んでくる。

    印雑(2018年)と 「春野菜と厚揚げのあんかけ」

    インド原産茶葉との交配種「印雑」。厚揚げに春野菜のあんかけがかかった鮮やかな一皿と

    「僕は、The Tea Companyのお茶なども手がける茶師の渡邉拓哉さんのファンで、何度か工場にお邪魔したことがあります。印雑は日本の茶葉とアッサム系品種の自然交配種で、静岡でも2軒くらいの農家しか作っていないものです。香りが独特で、あまり人気がないんですね。2018年のもので、購入した当初、燗酒に入れたりして使ってみたものの、何かちょっと違うな……と、使いきらずに保管しておいたんです。で、久しぶりに取り出したら、熟成によりとてもいい状態になっていました」

    2年の時を経て、この茶葉は穀物に似た香りとはちみつの香りを纏った。中国で言うところの「稲花香」に近い。文字通り、稲の花の香りだ。こちらは一杯分の茶葉をビーカーに入れ、熱湯を注いで2分半ほど時間をかけて抽出する。

    インゲンやスナップエンドウ、セロリ、うるい、菜花、ブロッコリーといった春野菜をマスタードオイルで炒め、マグロ節のだしで煮浸しに。最後に片栗粉でとめてあんかけにした。焼いた厚揚げにのせると、春の味だ。春野菜の甘さや香りの「淡さ」のテンションを、蜜のような甘やかで優しい味わいのお茶と合わせている。薄めの磁器の茶器は、繊細なお茶の味にぴったりだ。

    グランメゾンで提供される料理とワインのマリアージュと、ナチュラルワインを提供するワインバーのマリアージュのアプローチが異なるように、Salmon&Troutのペアリングはいわゆる「正攻法」ではない。より「風土」からのアプローチであり、人為的なものを排した「自然」な組み合わせだ。料理で欠けている部分をドリンクで埋めて「円」に近づけるのが従来のペアリングとするならば、Salmon&Troutのペアリングはお茶と料理の輪郭を重ねることで一つの世界観を作っているように感じられる。つまり、ティーペアリングによって、私たちはより深く「サモトラ」スピリットを体感できるというわけだ。

    Salmon&Trout
    多くのフーディーから「サモトラ」の愛称で知られる同店が、2019年6月にリニューアル。中村拓登シェフが作る驚きのある料理を、オーナーカヴィストの柿崎至恩さんが世界の「風土」が見えるお酒やお茶とペアリングして提供する。
    料理コースは8,000円。ティーペアリングは5,000円。2月からはランチ営業もスタートさせた。
    salmonandtrout.tokyo

    Photo: Yuri Nanasaki
    Text: Reiko Kakimoto
    Edit: Yoshiki Tatezaki

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