2021年、一番美味しいと評価された日本茶はどれか。
飲む人の目線から「美味しい」と感じる日本茶を選ぶ「日本茶AWARD2021」の授賞イベント「TOKYO TEA PARTY」が、2021年12月4〜5日に開催された。2020年は開催が見合わされ、2年ぶりとなった本アワード。会場となった渋谷の[JINNAN HOUSE]では万全の感染症対策をし、日本茶好き待望の祭典が実施された。
日本茶AWARDは“古くて新しい”日本茶の品評会。日本茶の生産者、専門家だけではなく消費者の目から見た日本茶の代表を選ぶもので、2014年に有志により設立された。2年度以降はNPO法人日本茶インストラククター協会が主催していて、一昨年までは渋谷[ヒカリエ]で最終選考が行われていた。
全国から503点の応募があった今回のアワード。日本茶インストラククター協会会員約100名による一次審査、日本茶AWARD実行委員13名による二次審査が事前に行われ、その時点で選りすぐりのプラチナ賞19点、ファインプロダクト賞23点、審査員奨励賞30点が選出された。
さらに日本茶AWARDサテライトティーパーティーに参加した一般審査員721名が、プラチナ賞に選出された日本茶を実際に試飲する三次審査を経て、最終的に日本茶大賞、日本茶準大賞が決定。そして12月4日、栄えある受賞者の発表が行われた。
茶業界のブレイクスルーに
日本茶AWARDには「お茶は鑑賞品ではなくて、飲み物である」という理念がある。したがって、最終審査は日本茶の専門家ではなく「一般の人」が決めるというのが、このアワードの特徴のひとつだ。
「日本茶インストラククター協会の有志が集まり、日本茶業界のブレイクスルーとなるイベントをやろうとアワードを設立しました。日本茶事業の発展のために、受賞したお茶は協会として宣伝していきます。今回で7回目となり、賞自体も成熟しました」とは、開会の挨拶を務めた同協会理事長の柳澤伯夫さんの言葉。来賓として農林水産省農産局長平形氏が「海外での日本茶は、もはやブームではなく、アメリカだけでなくEUやアジア各国に定着した」と祝辞を述べ、今後の発展に期待を寄せていた。
それでは早速、この日発表された受賞茶3種類をご紹介しよう。
晩生品種をブレンドした「晩生四天王」
(日本茶輸出組合理事長賞)
選ばれたのは埼玉県の品種茶専門店[心向樹]の「晩生四天王 ~おくはるか・おくみどり・おくゆたか・はるみどり~」(普通煎茶部門)。
「晩生四天王 ~おくはるか・おくみどり・おくゆたか・はるみどり~」は、やぶきた・ゆたかみどりに次ぐトップクラスの栽培面積を誇る「おくみどり」をはじめとした「晩生品種」をブレンドした一品。
店主の川口史樹さんのバックグラウンドは、マングローブやユーカリをはじめとした植物・樹木の研究。前職で植物としての茶の木を担当するようになってから、飲み物としてのお茶の魅力にも目覚め、2016年に国内初の品種茶専門店として[心向樹]を開いたという異色の経歴ながら、他のお茶農家も認める品種のスペシャリスト。
現在、茶葉は川口さん自ら、全国の茶産地に飛び回り、生産者・茶園・栽培・製造を吟味し、厳選したお茶のみを生産者から直接仕入れている。夢は自身で新たな品種のお茶を生み出すことと語り、日本茶の可能性をますます広げる存在の一人になりそう。
豊かな海の風で育つ「そのぎ茶:玉翠」
(日本茶準大賞、農林水産省農産局長賞)
選ばれたのは長崎県[西海園]の「そのぎ茶:玉翠」(蒸し製玉緑茶部門)。
そのぎ茶は長崎県の彼杵地域の茶畑で採れるお茶。爽やかな潮風が吹き抜ける山あいの斜面地にあり、二瀬さんは「嬉野茶で有名な佐賀県嬉野のとなりで、生産量は少なめですが品質は間違いなく、海のミネラルを含んで良いお茶が生まれます」と、そのお茶が育まれる風土を教えてくれた。
すっきりとした味わいが魅力の「そのぎ茶:玉翠」。「蒸し製玉緑茶で、勾玉のようなカーブを描く茶葉が特徴。若い人にも飲みやすいので、お茶を飲むきっかけになれば」と受賞の喜びのなか話してくれた。
鹿児島のさえみどりを味わう合組「雪ふか 極5号」
(日本茶大賞、農林水産大臣賞)
栄えある大賞に選出されたのは、鹿児島県の[特香園]の「雪ふか 極5号」(合組(ブレンド)茶部門)。三次審査の一般消費者721票のうち92票を集めた。
2014年から何度か賞を獲得するも、大賞を受賞したのは今回が初となった[特香園]。代表の桒畑政茂さんは「大賞受賞は悲願でした。今回大賞をいただけて、まずは自分たちがやってきたことの方向性が間違っていなかったと気づけて良かったです。日本一になれたことが、生産者の自信につながるし、今後の指針になります」と喜びを語った。
「雪ふか 極5号」は、さえみどりを中心に、その年の出来に合わせていくつかの茶葉を合組している。
「やぶきたを使わないというのがひとつテーマです。鹿児島はゆたかみどりという品種が根ざしており、20年ほど前からさえみどりも生産しています。キレのある旨味でボディはしっかりしているのが特徴です」と、日本一となったお茶のブレンドについて教えてくれた。
多様性のある日本茶を伝えていきたい
「昨年はコロナ禍で中止だったこともあり、生産者、茶匠のみなさんがチャレンジしてつくったお茶を消費者にどうしても届けたいと言う強い声がありました。おかげで前回よりも応募数が増加しました。今回感じたのはお茶が変わってきたということ。かつての品評会は旨味のキレが注目されてきましたが、今回は日本茶の特徴である甘味が重視されていました。香りが強いものも上位にきているのが特徴です。日本人好みのほのかでさわやかな香りのものが選ばれています」とは、中村順行さん(日本茶AWARD審査委員長、静岡県立大学茶学総合研究センター長)。
日本茶AWARDの創設メンバーの一人で実行委員長の桑原秀樹さんも「お茶の好みはいつも同じではない」とトレンドは変化するものだと話す。
「これまでお茶の品評会というと、形と色が良いものが選ばれてきました。しかし本来、日本茶というのは多様性があります。そして、消費者が急須で淹れて日常で飲んで美味しければ、それでいいんです。日本茶AWARDは多様性のある日本茶の変化に合わせて、毎年コンセプトを考えています。今回もティーバッグ部門などの新しい部門を設けていますし、ペットボトル部門も面白いんじゃないかと議論しましたよ」
そして桑原さんは本アワードの発起人である故・高宇政光さん(1931年創業の茶専門店[思月園]店主)への想いを語る。
「高宇くんが日本茶の未来のために、全国品評会とは異なる新しい品評会をやりたいと私たちに呼びかけてスタートしたのが、この日本茶AWARDとTOKYO TEA PARTYです。高宇くんは一言で言えば、ものすごい頑固。でも、常にお茶の世界をより良くするためという筋が通っていた。だからこうしてみんな付いてきたんです。高宇くんの遺志をしっかり引き継いで、でも固執していたらいけない。同じことをしていたら飽きられてしまうからね。これからも多様な日本茶を新しい消費者の人に届けていきたいです」
日本茶は常にアップデートされている。自分の知らない土地で知らない人が、知らないお茶をつくっている。多種多様かつ選りすぐりの日本茶が一堂に会するTOKYO TEA PARTYの会場には発見が溢れていた。
さて、後編では、TOKYO TEA PARTYのトークショーの様子から、淹れ手が注目したお茶についてお届けする。
日本茶AWARD|Nihoncha Award
2014年に[思月園]の故・高宇政光さんを中心とした有志6名で立ち上げ、2021年度で7回目を数える日本茶の新しい品評会。最終的に消費者の投票によってその年一番のお茶が決まるという画期的な試みで、全国各地から多種多様なお茶がエントリーする。授賞式を兼ねたイベント「Tokyo Tea Party」は2021年12月4・5日、渋谷[JINNAN HOUSE]に開催場所を移し、NPO法人日本茶インストラクター協会などの協力のもと、販売、試飲、ペアリング、トークイベントなどが行われた。幅広い世代が来場し、生産者とも交流できる貴重なイベントとなった。
nihoncha-award.jp
instagram.com/nihonchaaward
Photo: Taro Oota
Text: Rie Noguchi
Edit: Yoshiki Tatezaki
Support: Miho Akahoshi