「日本茶AWARD」は、伝統芸術的な側面だけではなく、今、私たちが好きだと思う日本茶にスポットを当てる画期的な日本茶品評会のかたち。そのためには一人ひとりの一般消費者にお茶を飲み比べてもらうということが必要。その性質上、コロナ禍での開催ハードルは高く、昨年は中止となってしまった。その分、今年は応募数も増え、作る側・飲む側双方で熱量が高まっていた。
それに加えて「伝える側」と呼んでもいい日本茶店・ブランドの方々も日本茶AWARDに参加。授賞式を兼ねた「TOKYO TEA PARTY」では、櫻井真也さんをホストに、田島庸喜さん、小山和裕さん、正垣克也さんがトークショーを行なった。
さまざまなかたちで日本茶を発信する注目の茶人たち。今年の日本茶AWARDのお茶について、それぞれの活動や、これからの日本茶について語った。
自分の「好き」に出会える日本茶AWARD
司会を務めたのは、南青山[櫻井焙茶研究所]の櫻井真也さん。ゲストは国産の厳選無農薬茶葉のみを使用した添加物不使用のボトルドティーを製造販売する「The Tea Company」の田島庸喜さん、西荻窪「Satén japanese tea」の小山和裕さん、登戸「お茶と食事 余珀」の正垣克也さんという面々が揃った。
まず司会の櫻井さんとともに、今年の日本茶AWARDをそれぞれ振り返った。
「どのお茶も特徴的で、個性豊かでした。今回審査に参加したことでお茶と会話をするように向き合うことができ、自分の好きなお茶の傾向がわかりました。こうやって比較するのはお茶の世界でも大事なことですね。日本茶を知る上でとてもよい機会になりました」(田島)
「日本茶AWARDに参加をするのは今回が初めてでした。ですから19種類のお茶を一気に飲むのも初めての体験でした(笑)。面白い半分、大変半分でしたね。部門の種類が増えているのは面白いなと思います」(小山)
王道の「合組部門」の他に9部門、計10部門が本アワードには設定されている。市場価値が比較的低くなる「二番茶煎茶部門」、発酵系の「烏龍茶・紅茶部門」、さらには「煎茶ティーバッグ部門」まで、多様化するお茶の楽しみ方に合わせたアワードの姿勢がうかがえる。
「ぼくは以前から日本茶AWARDのお茶を飲ませていただいていていました。今回は改めて審査で飲ませていただきましたが、いろいろな種類があるように、いろいろな『好き』があっていいと思います」(正垣)
大賞などの発表前に、プラチナ賞19種のお茶を銘柄を伏せて審査していた3人。果たして、3人はどのお茶を「一番」に選んだのでしょうか。
正垣さんが選んだ
渋味と華やかな香り「錦上の花」
まず、正垣さんが選んだのは、京都[京はやしや]の「錦上の花」(普通煎茶部門)。正垣さんは「旨味のあるお茶も美味しいですが、個人的に好きなのは“山のお茶”というような渋味を感じるクラシックなタイプ。錦上の花は渋味もあり、香り高いお茶でした」と言う。
正垣さんが店主を務める[お茶と食事 余珀]は、オーガニック食材のご飯も魅力。正垣さんは「錦上の花はご飯とも相性が良いし、お菓子にも合うと思います。すっきりしているので朝が特におすすめですが、どのタイミングにも合うお茶です」と評価してくれた。
田島さんが選んだ
自然の原風景を感じる「静岡深蒸し煎茶 粋」
続いて田島さんが選んだのは、東京[丸山園本店]の「静岡深蒸し煎茶 粋」(深蒸し煎茶部門)。田島さんはこのお茶について「山や川のせせらぎなど、故郷の原風景が浮かんでくるような懐かしさを感じました」と言う。
かつては中国茶専門店を営み、現在も発酵による日本茶の魅力を発掘している田島さんだが、「緑茶もあらためて飲んで、好きだなと感じました」としみじみ。
「日常がきらりと光るような、香りが強すぎない毎日飲める安定感のあるお茶が好きなんです」と語った。
小山さんが選んだ
絶妙なバランスの「そのぎ茶:玉翠」
小山さんが選んだのは、日本茶AWARDで準大賞を受賞した長崎[西海園]の「そのぎ茶:玉翠」。「(受賞は)知らずに選んだんです! このAWARDで初めて知ったお茶でした。香りが高く、旨味が強い、でもボディは重くなりすぎず、アフターはすっきり。とてもバランスがいいお茶だなと思います」と絶賛。
「[Satén]ではお菓子に合わせて渋めのお茶を出しているのですが、初めて勤めたお茶のお店が八女茶の専門店だったこともあり、自分のルーツには旨味が強いお茶があるんだなと再認識させられました」と語ってくれた。
日本茶カフェの店主たちのお茶談義
「普段使っている茶器はなに?」
トークショーのなかで意外な盛り上がりをみせたのは、それぞれが普段使用する茶器の話。
田島さんは「道具はすごく大事」とし、「ぼくは蓋碗(がいわん)が好きです。愛着のある茶器で、どんなお茶でもこれで淹れてしまいます。淹れていくうちに、お茶と茶器のことがわかってきて淹れるのが楽しみになります。作家の作品でなくても愛着のあるものであれば美味しいと感じられると思います」。
小山さんが使っているのは「ORIGAMI」と[Satén]が共同で作ったティードリッパー。「いろいろな淹れ方を派生させて急須の良さもわかるような、お茶の可能性が広がるといいなと思います。使ってみて、何が一番いいのかがわかることがあります。どうして使いやすいのか、その理由がわかると、どんどんお茶の世界は面白くなりますね」と話す。
正垣さんが普段使用しているのは「東屋」の茶器。「昔ながらの形をベースにしているのですが、現代の日常生活、風景にあっても違和感がないですね。職人さんの手が入っていると使いやすい。この急須ひとつあれば大丈夫というサイズ感もいいですね」と話す。
司会の櫻井さんは「横手の茶色系の萬古焼」。「300cc程度入ります。家族で淹れるので、みんなが使いやすいと思えるものがいいですよね」と、ここでしか聞けないお話も飛び出した。
「かっこいいお茶」に大事なこと
トークショーの最後では「かっこいい日本茶」について、それぞれが想いを語った。
「お茶がかっこいいというワードを最近聞くようになりましたが、自分たちが淹れる立ち姿がかっこよければいいわけではありません。生産者さんもかっこいい。真剣に取り組む姿が残り、それが結果的にかっこいいになる。『振り返ると、かっこよかった』というのがいいですね」(小山)
「ぼくも『真剣さ』が大事だと思っています。表面的なかっこよさは残らないと思うんです。真剣さが含まれてくる。道具をはじめとしたデザインやプロダクト面で昔から『かっこよさ』がありましたし、それぞれがかっこよさを見つけるのがいいと思うんです。自分なりに楽しんでいくスタイルもいいと思います。ぼくはカフェを通して、かっこよさの提案をしていきたいと思っています」(正垣)
「時代ごとにかっこよさがあります。千利休はずっとかっこいいですよね。温故知新で、よいものを洗練させていくのがよいと思います。茶道精神のブレなさを、いかに現代にマッチングさせていくのかを考えていくことが、見えないものを形にするときに、大事になるのではないかと思います」(田島)
日本茶が目指す先が可視化された日本茶AWARD
トーク終了後、櫻井さんは日本茶AWARDについて次のように想いを語ってくれた。
「最近は、若い世代の方が日本茶に興味を持ってくれて、お客様の客層が変化してきたように思います。この日本茶AWARDは“消費者が選ぶ、消費者のためのアワード”です。このアワードを通して、これからの日本茶が目指していく先が可視化できたように思います。自分がお茶の世界に入るきっかけになった存在の高宇先生の想いを継いでいくためにも、この輪を今後とも広げていきたいですね」
消費者が選ぶ「美味しいお茶」。若い、新しい世代の人たちにも、これから自分の好きな味を見つけてもらうきっかけになった本アワード。日本茶との距離感がぐっと縮まりつつ、広く深い世界に自然と一歩踏み込めるような、未来を感じさせるイベントだった。
日本茶AWARD|Nihoncha Award
2014年に[思月園]の故・高宇政光さんを中心とした有志6名で立ち上げ、2021年度で7回目を数える日本茶の新しい品評会。最終的に消費者の投票によってその年一番のお茶が決まるという画期的な試みで、全国各地から多種多様なお茶がエントリーする。授賞式を兼ねたイベント「Tokyo Tea Party」は2021年12月4・5日、渋谷[JINNAN HOUSE]に開催場所を移し、NPO法人日本茶インストラクター協会などの協力のもと、販売、試飲、ペアリング、トークイベントなどが行われた。幅広い世代が来場し、生産者とも交流できる貴重なイベントとなった。
nihoncha-award.jp
instagram.com/nihonchaaward
Photo: Taro Oota
Text: Rie Noguchi
Edit: Yoshiki Tatezaki
Support: Miho Akahoshi