• 軽くて明るくて楽しい。お茶に親しむ下町の一軒家
    蔵前[norm tea house]長谷川愛さん<前編>

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    各地の茶農家を巡ったり、東京・青山でお茶の祭典「Tea for Peace」を手掛けたり、お茶屋ではなく、“お茶の人”としてさまざまな活動をしてきた長谷川愛さんが、蔵前にお店を開いた。なぜ蔵前で? なぜこのタイミングでお店? どんなお茶を出すのか? そんな疑問と興味を抱きながら、新店[norm tea house]を訪れた。

    優しい町にできた一軒家のお茶屋さん

    大江戸線の新御徒町駅、浅草線の蔵前駅、銀座線の田原町駅といった各線各駅に囲まれ、いずれの駅からも10分前後、住宅地を歩いたところに長谷川さんのお店[norm tea house]はある。クリーム色っぽい白の二階建ての一軒家はあまりに周囲の住宅群になじんでいて、地図アプリに導かれながらも一度はうっかり通り過ぎてしまう。

    5坪という小さな空間。カウンターは通常4席ほどで、まるでダイニングキッチンにお邪魔してお茶いただいているような距離感がいい。

    このお宅、いや、お店の主人が28歳の長谷川愛さんだ。青山・国連大学前の「Tea for Peace」を始め、渋谷区方面での活動が目立っていた印象の長谷川さんだけに、東京の東側というロケーションは少々意外な感じがしていた。

    「物件はいろんなエリアを見ていて。ここは入った瞬間に舞い上がるくらい良かった。でも古いから現実的に活用可能かとか、懸念も同時にあったんだけど、気持ち的には『ここ、良い!』って。新しいお店を作ると、当たり前ですけど、どうしても“新しくなってしまう”ので、その建物の年月を借りたかったんです。あと、路面がよかったし、一戸建てがよかった。さらに欲を言うと2階に住めるくらいのスペースがほしかった!」

    不動産屋さん泣かせのように聞こえてしまうが、結果的にしっかり出会ってしまうからすごい。「もう本当にタイミングが良くて!」と嬉しそうに話す長谷川さんだが、この巡り合わせに喜んでいるのは彼女だけではなく、近所の住民の方々もなのだそう。

    「この地域は戦争で焼け野原になって、みんなで立て直したという意識が強くて、結束も強いと聞いています。だから、6月にある鳥越神社のお祭りを皆さんすごく楽しみにしていて、この地域のカレンダーは6月始まりなんですって。田中さんという方がここには住んでいたそうなのですが、住まわれなくなってから売られて駐車場になる可能性もあったそう。けど、こうやって貸していただいて。近所の方たちが『潰さず使ってくれてありがとう』って言ってくれるんですよ。なんて優しい町!と思って……」

    外観はほぼそのまま。内観も当時のままの階段や柱、窓などが保存されている。カウンター側はすっきりとリノベされていて、そのミックス具合がとても親しみやすい雰囲気を醸し出している

    素晴らしい縁で素敵なお店をオープンさせた長谷川さんだが、彼女は長らく、どこかにお茶屋さんに所属していたわけではなく、独自の活動を続けてきた。CHAGOCOROで以前取材した際には、静岡の川根で放棄茶畑から番茶をつくる[Peace Tea Factory]を訪ねたが、どんな規模でもお茶を大切につくっている各地の生産者のそばにいる、そんな稀有な存在が長谷川愛さんだといえる。

    特別な出会いの連なりで

    お茶に興味を持ち自ら学び始めたのは大学生のころからだったという。ある時には、日本茶品評会の関係者向けの懇親会に一人、半ば紛れ込むように参加するなど、持ち前の行動力で出会いを得ていった。「何も知らないからよかった」と笑う、長谷川さんらしい当時のエピソードがある。

    「関係者ではなかったんですけど、品評会の懇親会に応募して入らせてもらったとき、高宇さん(赤羽で[思月園]を営んだ故・高宇政光さん)がトークショーをやっていて、それがすごく面白かった。業界ど真ん中のおじいちゃんの話が面白いなんてお茶の未来は明るい!とか思っちゃって。トークの後にたまたま高宇さんが近くにいて、『すごく面白かったです』とかカジュアルにお話させてもらっていたら、周りの方が『高宇さんと仲の良い女性なんだ』と勘違いしてくれて、その後懇親会で同じテーブルに付けてくれたんです。そこで高宇さんから『宮﨑くん(宮﨑茶房の宮﨑亮さん)と気が合いそうだね』とかって色んな生産者さんを紹介していただいて」

    そうした出会いを無駄にせず、実際に宮崎・五ヶ瀬を訪れ、そこから派生して佐賀や熊本など、「自分が好きな農家さんはつながっていることが多い」と数珠繋ぎにお茶づくりの現場を訪ね回った。そうした経験がある長谷川さんだから、いつも面白いお茶を教えてくれる。

    この日、最初に淹れてくれたのは、「寒茶かんちゃ」と呼ばれる番茶の一種。奈良県山添村にて家族で営む栢下かやしたさんがつくるお茶だという

    「“寒いお茶”って書いて寒茶。大寒のころにつくるお茶で、枝ごとばっさり切って、1時間くらいしっかり蒸して、葉っぱを取って寒風にさらして自然乾燥させる。多分、昔はそうやって自分の庭にある茶の葉を飲んでいたんじゃないかな。揉んでいないので、渋味とかえぐみとかもなくて、煎もすごく利くから、毎朝来て淹れて、営業終わりまでずっとお湯を足しては飲んでしています。本当に疲れないお茶。というか、美味しい白湯みたいな感じです」

    お茶の種類が何かだけではなく、どんな場所でどんな人がつくっていて、自分にとってどんな飲み方がいいのか、お茶を淹れながらそんな話を自然にしてくれるのが心地よい。

    「栢下さんを知ったのは、京都の吉田山大茶会だったかな。すごく美味しいと思って、最近畑にも行かせてもらえて。想像以上に家族で、本当に奥さんと二人で収穫からやっていて、遊び心もあるし、何を飲んでも美味しい」

    畑を見に行くといいつつ、つくる人を見に行っている長谷川さんの姿が想像できる。その人のお茶が好きになると、どうしても「入り浸って」しまうのだという。

    「入り浸る、というか住み着くくらいしないと、つくり方とか、どういう人たちがどういう感じでやっているかとか、なかなか見えなくて。本当はもっといろんなところをゆっくり見に行きたいですよ。そういう意味では、べったなくんの方がたくさん見てると思いますよ(笑)」

    蔵前にはべったなさんこと田邊瞭さんが営むお茶のセレクトショップ[a drop . kuramae]や、静岡藤枝発の[NAKAMURA TEA LIFE STORE]があったり、入谷方面には孟繁林さんの営む中国茶とギャラリー[LEAFMANIA]、鳥越には溝口美穂さんの[菓子屋ここのつ]があったりと、個性的なお茶のお店がここ数年でできてきている。

    自由な活動をしてきた長谷川さんにとって、お店という場所を構える意味とは。この寒い日にぴったりのお茶をいただきながらゆっくりと伺ったお話の続きは後編で。また、後編の最後では長谷川さんからお茶のプレゼントをいただいたので、ぜひ最後までお見逃しなく!

    長谷川愛|Ai Hasegawa
    幼少期を九州で過ごし、学生時代からのお茶好きが高じて、2018年からイベント「Tea For Peace」のディレクターを務める。2020年以降はコロナの影響で中止となっているが、次回開催への意欲は高い。2017年からお茶のブランド「norm」を始動、2021年11月台東区三筋に[norm tea house]をオープン。
    normtea.com
    instagram.com/normteahouse

    Photo: Shoji Onuma
    Text & Edit: Yoshiki Tatezaki

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    軽くて明るくて楽しい。お茶に親しむ下町の一軒家
    蔵前[norm tea house]長谷川愛さん<後編>

    昨年11月、台東区の蔵前エリアに[norm tea house]をオープンした長谷川愛さん。早くも地域の方々から愛されるお茶屋さんとして認められつつある。「軽くて、明るくて、楽しい」それがお店のイメージだと話す長谷川さん。この場所を起点にどんな広がりをイメージしているのだろうか。

    2022.01.21 INTERVIEW日本茶、再発見

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