• 軽くて明るくて楽しい。お茶に親しむ下町の一軒家
    蔵前[norm tea house]長谷川愛さん<後編>

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    軽くて明るくて楽しい。お茶に親しむ下町の一軒家
    蔵前[norm tea house]長谷川愛さん<前編>

    各地の茶農家を巡ったり、東京・青山でお茶の祭典「Tea for Peace」を主催したり、お茶屋ではなく、“お茶の人”としてさまざまな活動をしてきた長谷川愛さんが、蔵前にお店を開いた。なぜ蔵前で? なぜこのタイミングでお店? どんなお茶を出すのか? そんな疑問と興味を抱きながら、新店[norm tea house]を訪れた。

    2022.01.18 INTERVIEW日本茶、再発見

    昨年11月、台東区の蔵前エリアに[norm tea house]をオープンした長谷川愛さん。早くも地域の方々から愛されるお茶屋さんとして認められつつある。

    「軽くて、明るくて、楽しい」

    それがお店のイメージだと話す長谷川さん。この場所を起点にどんな広がりをイメージしているのだろうか。

    自然にお茶がそこにある
    これからの世代の原体験の場

    お茶を出すのはもちろんのことだけれど、長谷川さんにはここでやりたいことがもう一つあるのだという。

    「倶楽部活動がしたかったんです。倶楽部活動が好きで。。それとやっぱり、お茶以外の理由でここに入って来られるようにしたい。近所のおじさんとかうちの息子とかが、ここでお茶飲みながら将棋して遊んでる、みたいな。理想としては、将棋をしに来てはいるんだけど、そこで飲んでるお茶が実は美味しくて、『将棋してたときに飲んでたあのお茶、美味しかったんだよな……』って将来ふと思い出してもらえるような。他にも俳句倶楽部とか、中国語教室とか……」

    2階を倶楽部活動のスペースに活用したい考えだったが、現在のところ茶葉商品のパッケージング作業場となっているためスタッフオンリー。ちなみに現在、俳句倶楽部のリーダーを絶賛募集中とのこと

    今年で2歳になる息子がいて、東京で暮らしていると、どうしても「これからの子どもは何をルーツに生きていくんだろう」と思うことがあるのだという。

    「岐阜の祖母の家に行くと、イノシシ鍋を食べて、川で鮎を捕まえたりキュウリとかトマトを冷やして食べたりということをして自分は育ったので、そういう体験を子どもにさせられないと思うと、なんだかたまらなくて。ここでできることなんて本当に小さなことなんですけど、こういう町だからこそ、将棋やってお茶飲んでみたいな、原体験になるようなことが少しでもできたらと」

    角打ちみたいに
    お茶が飲める茶葉屋さん

    「発酵度の高い烏龍茶、おくむさしです。いつも2〜3種類のお茶を水出しで用意していて、茶葉を探しているお客さんには試飲として出すようにしているんです。だから、茶葉だけ買うということももちろん可能。1回目はドリンクをここで飲んでくれたお客さんが、次茶葉を買って家でも飲んでもらうということが増えてきたら、すごく嬉しいです」

    お店づくりでイメージしたのは、ポートランドにある[Ardor(アーダー)]というワインショップ。訪問した当時は、洋服屋のバックルームのようなスペースにワインが並んでいるという感じで、訪問客はワインを一口二口飲みながら、カジュアルにお喋りを楽しみつつボトルを選んでいくという雰囲気だったのだそう。

    「ビクターっていう男の子がオーナーなんですけど、ワインのことをすごく語るわけではなく、すごく軽い感じ。聞けば、つくっている人はこうでって教えてくれるんですけど、普通にお話するみたいな感じで。だから、みんな楽しく話してワイン飲む。そこで『あ、このお茶版めちゃくちゃほしい!』って思って、いつかお店やるとしたら、と考えていました。お茶屋さんも元々はそうだったはずだから。お店の人と世間話しがてらお茶を買いに来る。それを今に合わせてアップデートするのがいいかなと思いました。軽くて、明るくて、楽しい。日常にある茶葉屋さんにしたかった」

    カウンターの上は吹き抜けになっていて、お昼ごろには2階の窓からきれいな陽が差し込んでくる。長谷川さんの話し方含め、とてもアットホームにお茶を楽しめる

    年齢も性別も、出身も、お茶への関心度合いもさまざまな、幅広い客層が気兼ねなく入れる空間を目指している。お茶のラインナップも、独自性を出しながらもラテを含め、バリエーション豊富に用意している。

    「抹茶ラテ」に使う抹茶は鹿児島県で育てられた有機のもの。ある日、小さな女の子が抹茶ラテを飲んですごく喜んでくれたのだそう。たしかに、コーヒーを飲まない子どもにとって、ラテアートに出会えるのは特別な瞬間だったかもしれない。

    こちらは「番茶ラテ」。モカポットというエスプレッソを抽出する器具で番茶を抽出して、カップの中でスチームミルクと混ぜ合わせる。少し振った塩が上品に甘味を引き立てるいい仕事ぶり。

    茶海と茶漉しを使ってお茶を淹れることが多いという長谷川さん。「茶海が大好きで。まず口がついてて生き物っぽくてかわいい。茶漉しと、あと茶海じゃなくても何か家にある片口のものでジャーってしたらもうお茶入ってる。もちろん蓋で閉じ込めた方がいいものあるので別の茶器を使うときもありますけど、そういうのもここで見てもらえたら」

    作家さんに頼んで作ってもらった茶海からワイングラスに注ぐのは、宮崎県で育てられた烏龍茶。長谷川さんはこれをとくに「生烏龍茶」と呼んで、焙煎のかかった(おそらく多くの日本人がイメージする黒めの)烏龍茶と区別している。

    「私は焙煎していない烏龍茶が好みですが、お茶も好みも本当に様々なので。ここでは色々なお茶を飲んでほしいと思っています。“お茶を飲みたい時”っていうのも一つじゃないと思います。だから色々なお茶を飲んで、気に入ったら茶葉を買ってお家で飲んでもらえれば」

    自分自身、さまざまなお茶を飲むだけでなく、さまざまなお茶をつくる(それを人生まるごと楽しむ)人たちを知っているからこそ、長谷川さんは「自由さ」や「軽さ」、そして「楽しさ」を大切にするのだろう。

    「“どこのだれ”という肩書きをできるだけつけたくなかった」と話す長谷川さん。自分の感覚やアウトプットの仕方になにがしかの制限がかかるのはもったいないと考え、尊敬する人は多いが、誰か一人の先生につくことはせず、歩んできた。

    「ある農家さんからも『日本茶やっていくなら、何も知らん方がいい』って言われて。Tea for Peaceみたいなイベントにしても、そうやって続けてきたからこそできることかなと思います」

    奇しくもコロナ禍で地方を巡ることやイベントを開催することが難しくなったことで、店舗を構えるという考えが固まった。自分のスタイルを貫いて、明るく楽しい空間で、お茶に親しむ時間を提供していく。

    「norm」という名前は「濃霧」という意味も含んでいる。濃い霧がかかる茶畑の景色が好きなのだそう

    長谷川愛さんからお茶の “おすそわけ” プレゼント

    最後に、長谷川さんから読者へお茶のおすそわけをいただいた。

    カエルと鳩のイラストがかわいい箱の中には、緑茶と烏龍茶がそれぞれ30gずつ入っている。

    「茶畑にいる動物をイメージして、他に蝶々とウサギのパッケージがあります。緑茶は、日干にっかんの釜炒り茶で、いわゆる“ザ・緑茶”とは違うお茶です。烏龍茶はお話しした、焙煎していない生烏龍茶です。プロダクトというのはお店と違って、どこまでも飛んでいってくれるものなので、名刺じゃないけど、ちょっと面白いと思ってもらえるようなものを入れています」

    お茶好きの方も、これからの方も、ぜひお茶を楽しむ機会にしていただけたら幸い。
    応募は末尾のアンケートフォームからどうぞ。


    ※おすそわけプレゼントのご応募は終了いたしました。
    たくさんのご応募、また記事へのご感想をいただきありがとうございました。茶葉はnormのオンラインショップ、また店頭でお買い求めいただけます。引き続きお茶の時間をお楽しみください。

    長谷川愛|Ai Hasegawa
    幼少期を九州で過ごし、学生時代からのお茶好きが高じて、2018年からイベント「Tea For Peace」のディレクターを務める。2020年以降はコロナの影響で中止となっているが、次回開催への意欲は高い。2017年からお茶のブランド「norm」を始動、2021年11月台東区三筋に[norm tea house]をオープン。
    normtea.com
    instagram.com/normteahouse

    Photo: Shoji Onuma
    Text & Edit: Yoshiki Tatezaki

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